第4章|神経症性障害・ストレス関連
精神医学 第4章
4-1 神経症性障害という枠組み
心理的要因(心因)が主体で、現実検討力が保たれ病識がある点が統合失調症などの精神病性障害との決定的な違い。幻覚・妄想・させられ体験は含まれない。
- 症状を「自分のもの」と自覚しつつ制御できない=自我異質的
- ストレス・生活環境の変化で症状が消長する
- 薬物はSSRI(抗うつ薬)が広く第一選択、精神療法は認知行動療法が軸
- うつ病をはじめ他の精神疾患との併存が多い
「させられ体験(作為体験)」を神経症の説明に紛れ込ませる出題が頻出。させられ体験は統合失調症の一級症状であり、強迫行為をはじめ神経症性障害の症状ではない。
4-2 不安障害の鑑別 ─ 「対象」と「時間の形」で振り分ける
| 疾患 | 不安の対象 | 時間の形 | 決め手になる訴え |
| 全般性不安障害 | 多領域(家族の健康・将来・仕事) | 持続性(6か月以上) | 「家族がすぐ病気になるのでは」と繰り返し心配する |
| パニック障害 | 特定の対象なし(発作そのもの) | 発作性+予期不安 | 突然の動悸・呼吸困難・死の恐怖 |
| 社交(社会)不安障害 | 人前・注目される場面 | 場面性 | 発表や会食を避ける |
| 広場恐怖 | 逃げられない・助けを得にくい場所(電車・人混み・広場) | 場面性 | その場所自体を避ける |
| 限局性恐怖症 | 特定の物・状況(高所・閉所・動物) | 場面性 | 対象が具体的 |
| 強迫症 | 強迫観念の内容(汚染・確認・対称性) | 持続+儀式行為 | 打ち消しの行為がある |
| PTSD | 外傷体験を想起させる人・場所・状況 | 外傷体験の後に発症 | 再体験・回避・過覚醒 |
「対象が全般か特定か」「発作性か持続性か」の2軸で切る。回避が中核症状として問われたらPTSD。心気障害・身体化障害・強迫症・全般性不安障害は回避を中核としない。
4-3 全般性不安障害(GAD)
- 複数領域への制御困難な過剰な心配が6か月以上続く(浮動性不安)
- 有病率は女性が男性の約2倍で性差が明確
- 慢性化しやすい。治療しなければ数年以上続くことが多い
- 動悸・発汗・筋緊張など自律神経系の過活動を伴う
- うつ病・パニック障害・社交不安障害との併存率が高い
- 治療は認知再構成・リラクセーション+SSRI。曝露反応妨害法の適応ではない
「慢性化はまれ」「自律神経系の過活動はみられない」「環境要因は影響しない」「他の精神疾患と併存しない」はいずれも誤り。→ 正しくは慢性化しやすく、自律神経症状を伴い、環境で消長し、併存が多い。
4-4 パニック障害と薬物療法
- 予期しないパニック発作(動悸・呼吸困難・発汗・めまい・死の恐怖)が反復。数分でピークに達する
- 発作後に「また起きるのでは」という予期不安が生じ、二次的に広場恐怖を合併しやすい
- 第一選択はSSRIなどの抗うつ薬。発作の予防効果を狙う
- 急性発作時にはベンゾジアゼピン系抗不安薬を頓用するが、依存性があり長期使用は避ける
- 認知行動療法(曝露療法)を併用する
誤答肢に出る薬の本来の適応
| 薬剤群 | 本来の適応 |
| 抗精神病薬 | 統合失調症・躁病の幻覚妄想 |
| 気分安定薬(リチウム等) | 双極性障害の気分変動 |
| 抗てんかん薬 | てんかん発作の抑制 |
| 中枢神経刺激薬 | ADHD・ナルコレプシー(不安はむしろ悪化させる) |
4-5 強迫症(強迫性障害)
不合理と分かっていても反復して浮かぶ強迫観念と、それを打ち消すために繰り返す強迫行為が中核。
- 本人は不合理性を自覚している(病識がある)のにやめられない ─ これが定義の核心
- 強迫行為は自分の意思による行為であり、させられ体験でも命令幻聴でもない
- 汚染恐怖と洗浄、確認、対称性・順序・正確さへのこだわりが代表型
- 確認を家族に代行させるなど家族を巻き込むことが多い(巻き込み型)
- うつ病の合併が多い。まれではない
- 治療は曝露反応妨害法(ERP)+SSRIの二本柱。薬物療法は有効
誤りとして問われる記述
- 「強迫行為中の記憶は残らない」→ 意識障害ではないので記憶は残る
- 「強迫観念は睡眠中も持続する」→ 覚醒時の現象で睡眠中は生じない
- 「強迫行為は命令する幻聴による」→ 命令幻聴は統合失調症
- 「薬物療法は無効」→ SSRIが有効
- 「不合理性を自覚していない」→ 自覚している
4-6 PTSDと急性ストレス障害
- 三主徴=再体験(侵入・フラッシュバック)・回避・過覚醒(覚醒亢進)
- 回避=外傷体験を想起させる人・場所・状況を避ける。回避が問われたらPTSD
- 症状が1か月以内にとどまれば急性ストレス障害(ASD)、1か月以上持続すればPTSD
- 治療は持続エクスポージャー法・EMDR・認知処理療法。SSRIも用いる
PTSDに電気けいれん療法は用いない(適応は重症うつ病・昏迷など)。また曝露療法自体は有効だが、打ち消す強迫行為が存在しないため曝露反応妨害法の典型適応ではない。ERPは強迫症のもの。
4-7 身体表現性障害と解離性障害
| 病態 | 特徴 | 治療 |
| 身体化障害 | 検査で異常がないのに多彩な身体症状を反復して訴える | 認知行動療法。系統的脱感作法は適応でない |
| 心気障害(病気不安症) | 重い病気にかかっているという過度のとらわれ | 認知行動療法。持続エクスポージャー法はPTSDのもの |
| 解離性健忘・遁走 | 記憶・同一性・知覚の統合が一時的に失われる | 精神療法。自律訓練法もバイオフィードバックも標準治療でない |
| 解離性同一性障害・離人 | 人格の交代、自分を外から眺める感覚 | 同上 |
解離性障害の治療原則
- 安心できる治療関係を築いたうえで、病気と治療について明確に説明する(心理教育)
- 破壊的・自傷的行動は許容せず、安全確保と枠組みの設定を行う
- 空想の肥大化は指摘して現実検討を促す。放置しない
- 症状を悪化させる有害なストレス因子は調整・除去する
- 心的外傷の直面化は段階的・慎重に。速やかな直面化は再外傷化の危険
4-8 精神療法・行動療法の技法と適応
技法名と適応疾患を入れ替えた組合せ問題が繰り返し出る。表ごと覚える。
| 技法 | 中身 | 主な適応 |
| 曝露反応妨害法(ERP) | 不安場面に曝露し、強迫行為をさせない | 強迫症(第一選択) |
| 系統的脱感作法 | リラクセーション+不安階層表で弱い刺激から段階的に | 恐怖症・限局した不安 |
| フラッディング | 強い不安刺激に一気に長時間曝す | 恐怖症など |
| 持続エクスポージャー法 | 外傷記憶と回避場面への反復曝露 | PTSD |
| EMDR・認知処理療法 | 眼球運動を用いた外傷処理/外傷に関する認知の修正 | PTSD |
| 認知行動療法(CBT) | 認知再構成+行動的介入 | うつ病・摂食障害・全般性不安障害・心気障害・慢性疼痛 |
| 自律訓練法 | 段階的な自己暗示によるリラクセーション | 心身症・緊張の緩和 |
| バイオフィードバック法 | 生体情報を提示して自己制御を学習 | 筋緊張の調整など |
| 電気けいれん療法(ECT) | 通電によりけいれんを誘発 | 重症うつ病・昏迷・切迫した自殺念慮 |
語の意味から引ける。ERP=「曝して・行為をさせない」=止めるべき行為がある強迫症。神経性過食症は食行動と認知を扱う認知行動療法が中心で、ERPが第一ではない。
4-9 慢性疼痛・がん性疼痛への心理的アプローチ
恐怖回避モデル
痛みへの恐怖 → 活動の回避 → 廃用・抑うつ → さらに痛みが増悪、という悪循環。これを断つのが慢性腰痛に対する認知行動療法。
| 認知行動療法として行う | ねらい |
| 痛みへの不安を解消する映像を見せる | 心理教育。恐怖・不安の軽減 |
| 腰を反らしても痛まない体験を反復させる | 段階的曝露と成功体験。回避行動の改善 |
| 痛みがあっても行える活動があると認識させる | 破局的思考(痛み=活動禁止)の修正 |
| 適切な身体活動は痛みを増悪させないと説明する | 誤った信念の修正、運動恐怖の軽減 |
痛みの有無を頻回に確認・質問するのは誤り。痛みへの注意を強化し痛み行動を助長する。→ 正しくは痛みに注目させず活動性を高める。安静の強調も同様に不適切。
がん性疼痛
- トータルペイン(全人的苦痛)=身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛の複合。疼痛マネジメントは精神的ケアを含む
- 原因は腫瘍の浸潤・骨転移・神経圧迫・治療副作用など複数が関与することが多く、単一に絞れないのが通常
- 診断された時点ですでに疼痛を伴うことがある
- 鎮痛はWHO方式の段階的使用。軽度の痛みにはまず非オピオイド、必要に応じてオピオイドへ。軽度から積極的にオピオイドを使うのは誤り
- 突出痛にはレスキュー薬。体動時痛など予測可能な突出痛もあり予防投与が有効
4-10 周辺で問われる2テーマ
注意の4要素
| 要素 | 機能 | 障害の具体例 |
| 選択性 | 多数の刺激から必要なものを選ぶ | 雑音の中から相手の声を拾えない |
| 持続性 | 一定時間集中を保つ | 作業がすぐ途切れる |
| 転換性 | ある対象から別の対象へ切り替える | 料理中にかかってきた電話に気付けない |
| 配分性 | 複数の課題へ同時に注意を割く | 歩きながら会話ができない |
これらとは別に方向性の注意障害があり、半側空間無視など空間的方向性の障害を指す。
チームビルディングとコンフリクトマネジメント
- チームビルディング=関係づくり・打ち解ける段階。ここが成熟していれば人間関係構築はもはや課題でない
- コンフリクトマネジメント=意見が対立したときの調整・管理。課題があると指摘されたら衝突時に注意深く対応することが最優先
- 異論を唱えずに進めるのは衝突の回避にすぎず解決にならない。傾聴だけでも調整には届かない
- 「自分の意見を積極的に述べる」も答えにならない。意見の表出は対立を生む側の行為で、コンフリクトが課題として挙がっている場面で優先されるのは生じた対立をどう扱うか(調整・管理)のほう。課題として指摘されたテーマそのものに手を打つ肢を選ぶ