第5章|認知症・器質性・てんかん

精神医学 第5章

5-1 認知症の定義と頻度

認知症とはいったん獲得した知的機能が脳の器質的障害によって持続的に低下し、日常生活・社会生活に支障をきたす状態。意識は清明で、この点がせん妄と決定的に違う。

原因疾患の頻度順

順位疾患備考
1位(最多)Alzheimer型認知症全認知症の半数以上(過半数)を占める
2位血管性認知症Alzheimer型に次ぐ。調査によりLewy小体型と順位が入れ替わる
3位Lewy小体型認知症認知症全体の10〜15%。見落とされやすい
少数前頭側頭型認知症比較的若年発症。頻度は高くない
少数正常圧水頭症治療可能な認知症として重要だが頻度は低い。三徴=認知症・歩行障害・尿失禁

「最も頻度が高い認知症」を問われたら迷わずAlzheimer型。正常圧水頭症は「治療可能」で有名なだけで頻度では選ばない。

5-2 中核症状と周辺症状〈BPSD〉

中核症状周辺症状〈BPSD〉
成り立ち脳の器質的障害が直接起こす認知機能低下中核症状に環境・心理要因が加わって二次的に生じる
内容記憶障害・見当識障害・失語・失行・失認・遂行(実行)機能障害行動症状=徘徊・興奮・暴言暴力・異食/心理症状=妄想・幻覚・抑うつ・不安・睡眠障害
改善可能性直接的な改善は困難環境調整・ケアで改善しうる

過去問の言い回しで振り分ける

具体例正体分類
今日の日付が分からない時間の見当識障害中核症状
朝食で食べたものを思い出せない近時記憶障害中核症状
目の前にある物品の名称を言えない失語(呼称障害)中核症状
携帯電話を使えなくなる遂行機能障害・失行中核症状
夜になると家の中を歩き回る夜間徘徊周辺症状〈BPSD〉

妄想・徘徊・抑うつをうっかり中核症状に入れない。妄想・徘徊・幻覚・抑うつはBPSDの定番で、失行・失認・見当識障害・遂行機能障害は中核症状。

5-3 四大認知症の鑑別

疾患早期・中核の症状そのほかの特徴
Alzheimer型初期からの記憶障害(近時記憶・エピソード記憶)・見当識障害緩徐に進行。取り繕い物盗られ妄想
血管性意欲低下・まだら認知症階段状に進行・麻痺など巣症状を伴う・危険因子は高血圧・失語を伴いうる
Lewy小体型繰り返す具体的な幻視・認知機能の変動パーキンソニズム・レム睡眠行動障害・起立性低血圧
前頭側頭型人格変化・脱抑制・常同行動・自発性低下病識低下・社会的対人行動の障害。記憶は比較的保たれる

「常同行動」「取り繕い」「物盗られ妄想」「初期からの記憶障害」をLewy小体型の特徴とするのは誤り。→ 正しくは常同行動=前頭側頭型、残る3つ=Alzheimer型。Alzheimer型と比べたLewy小体型の特徴は繰り返される幻視ただ1つで決める。

5-4 Lewy小体型認知症〈DLB〉

中核的特徴(4つ)

  1. 繰り返し出現する具体的な幻視 — 人物や動物がありありと見える。早期から出現し診断の決め手
  2. 認知機能の変動(日や時間帯で良し悪しが揺れる)
  3. パーキンソニズム(筋強剛・寡動・姿勢反射障害)
  4. レム睡眠行動障害(夢の内容に応じて叫ぶ・動く)

支持所見:自律神経症状(起立性低血圧・便秘)、抗精神病薬への過敏性。転倒リスクが高く、離床時の血圧変動に注意する。

DLBの特徴として出される誤答肢と、その正しい行き先。
・失語 → 血管性認知症やAlzheimer型進行期。DLB早期には目立たない
・高血圧 → 血管性認知症の危険因子。DLBはむしろ起立性低血圧
・聴覚障害 → 無関係。DLBの幻覚は聴覚でなく視覚(幻視)が主
・入眠障害 → 誤り。DLBで特徴的なのはレム睡眠行動障害であって単なる入眠障害ではない

5-5 前頭側頭型認知症〈FTD〉

前頭葉・側頭葉が萎縮する変性性認知症。早期から人格・行動の変化が前景に立つ。

  • 人格変化・脱抑制(万引きなど反社会的行動)
  • 常同行動(同じ経路を周回する、時刻表的生活)
  • 自発性低下・意欲低下(アパシー)
  • 病識低下(自分の変化に気づかない)
  • 社会的対人行動の障害

幻視は前頭側頭型の早期にはみられない(=「みられないのはどれか」の答えになる)。→ 幻視はLewy小体型の症状。また考想伝播(自分の考えが他人に伝わる)は統合失調症の症状で、認知症の症状ではない。

5-6 器質性精神障害

脳の器質的障害(外傷・腫瘍・感染・変性・血管障害)や身体疾患・代謝異常・薬物を基盤として生じる精神障害。心因性(ストレスが主因)・内因性(統合失調症、気分障害)と対比して覚える。

経過代表症状性質
急性期せん妄(意識混濁+幻覚・興奮・見当識障害)動揺性・可逆的
慢性期認知症(知能低下)・健忘症候群(Korsakoff症候群)・器質性人格変化(性格変化)・失語などの巣症状持続性

器質性精神障害についての誤りやすい記述 → 正しくは以下。
・「妄想はみられない」→ 誤り。幻覚・妄想などの精神症状はみられる
・「安定した人格を認める」→ 誤り。人格変化(脱抑制・易怒性・無関心)を生じうる
・「記憶障害はみられない」→ 誤り。認知症・健忘症候群では記憶障害が中核
・「抗精神病薬は投与しない」→ 誤り。幻覚・妄想・興奮に対し投与することがある(DLBでは過敏性に注意)
・「心理的要因の影響を受ける」→ これが正しい。器質的基盤に加え、本人の性格や環境で症状が修飾される

5-7 せん妄

せん妄は意識障害(意識混濁)を背景に、注意障害・認知機能障害・幻覚・興奮・見当識障害が急性に出現し動揺する状態。器質性精神障害の急性期に最もみられる。

せん妄認知症
発症急性(数時間〜数日)慢性・緩徐
意識混濁(意識障害あり)清明
経過動揺性・日内変動あり・可逆的持続・進行性
時間帯夜間・薄暮に増悪(日没症候群)時間帯による変動は乏しい
睡眠睡眠覚醒リズムの逆転(昼間傾眠・夜間興奮)進行期に乱れる

危険因子=高齢(とくに75歳以上)・感染症・薬剤(抗コリン薬、ベンゾジアゼピン)・脱水・低栄養・手術後・ICU入室・環境変化。原因(感染治療、薬剤中止など)を除去すれば回復しうる。

せん妄の誤り記述 → 正しくは。「認知機能は保たれる」→ 認知機能障害は必須症状。「睡眠覚醒リズムは保たれる」→ 逆転する。「経過は不可逆的」→ 可逆的。「夜間に起こることはまれ」→ 夜間に多い。入院高齢者の急な混乱はまずせん妄を疑い、身体的原因を探す。

5-8 てんかん総論

てんかんは大脳ニューロンの過剰放電による発作を反復する慢性疾患。

  • 有病率約0.5〜1%、国内の患者は約100万人と推定(10万人ではない)
  • 発症年齢は小児期と高齢期の二峰性。高齢発症は稀ではなく増加傾向
  • 明らかな性差は乏しい(女性に多いとは言えない)
  • 意識障害は必発ではない(単純部分発作では意識が保たれる)
  • 熱性けいれんの大半は予後良好で、てんかんへの移行は数%程度(半数以上ではない)

病因による分類

特発性てんかん症候性てんかん
器質的病変特定できないあり(脳血管障害・外傷・腫瘍など)
素因遺伝素因の関与あり原因疾患による
好発若年発症・全般発作が多い高齢発症・部分(焦点)発作が多い
予後比較的良好難治・予後不良の傾向

5-9 発作型の分類

部分(焦点)発作全般発作
発作開始時の放電大脳半球の片側にとどまる両側半球に同時に広がる
下位分類単純部分発作/複雑部分発作欠神発作・強直間代発作・ミオクロニー発作・脱力発作
発作型意識ポイント
単純部分発作
(焦点意識保持発作)
保たれる意識障害を伴わないのが定義
複雑部分発作
(焦点意識減損発作)
減損する部分発作で最多。側頭葉てんかん(海馬など内側側頭葉の異常)に多い。自動症を伴う
欠神発作(小発作)数秒〜十数秒消失過換気で誘発される。脳波は3Hz棘徐波。小児に多い

「単純部分発作は意識障害がみられる」は誤り → 意識が保たれるのが単純、失われるのが複雑。「特発性てんかんは器質的病変が特定できる」も誤り → 特定できるのは症候性。「全般発作は片側にとどまる」も誤り → 片側は部分発作

てんかん重積状態=発作が遷延・反復して止まらない状態。緊急事態であり、高齢者でも起こりうる(「至ることはない」は誤り)。

5-10 高齢初発てんかん

  • 背景は脳血管障害・認知症・頭部外傷などの器質的病変=症候性が多い(特発性は少ない)
  • そのため焦点から始まる部分(焦点)発作を呈することが多い
  • 高齢化に伴い患者数は増加傾向(減少ではない)
  • てんかん重積状態に至ることがあり、予後に影響する緊急事態として注意
  • 抗てんかん薬は比較的少量でコントロール良好なことが多い(無効ではない)

複雑部分発作による一過性の意識減損は、認知症・失神・一過性脳虚血発作と紛らわしい。高齢者の「ぼんやりして反応しない数分間」を繰り返す場合はてんかんを鑑別に入れる。