第2章|義足の部品・アライメントと異常歩行

切断・義肢 第2章

2-1 ソケットと懸垂(下腿義足・大腿義足)

下腿義足ソケットの種類

ソケット荷重・懸垂見分け方・適応
PTB式(Patellar Tendon Bearing/膝蓋腱支持)膝蓋腱を主な耐圧部とする部分荷重。カフベルトで懸垂標準的な下腿義足。耐圧部と除圧部を分けて作る
TSB式(Total Surface Bearing/全表面荷重)断端の全表面で荷重を分散。シリコンライナー+ピンで懸垂ライナー・ピン・全面接触がキーワード。圧を分散できるので糖尿病・末梢循環障害の例でも選ばれる
KBM式ソケットの側壁を高くし、大腿骨顆部の上で懸垂(カフ不要)ライナー+ピンは用いない
在来式差し込み式+大腿コルセットで懸垂旧来の形式

PTB式の耐圧部と除圧部

耐圧部(荷重する)除圧部(荷重を避ける)
膝蓋腱・脛骨内側面(前内側面・内側フレア)・前面の骨間部(筋部)・腓腹筋部(膝窩部)腓骨頭(総腓骨神経)・脛骨稜・脛骨粗面・脛骨顆部の隆起部・腓骨遠位端・断端末・膝蓋骨

「骨が皮下に浅く出ている所と神経の通り道は逃がす。軟部組織が厚い所と平らな骨面で受ける」。腓骨頭を圧迫すると腓骨神経麻痺(下垂足)の危険がある。

シリコンライナー

利点欠点
断端に密着してピストン運動(ソケット内での断端の上下動)が減る・懸垂性が高い・剪断力を分散して皮膚を守る・衝撃吸収・トリムラインを低くできる通気性が乏しく発汗・蒸れ・接触皮膚炎などの皮膚トラブル・装着に手間がかかる・費用
  • スポーツ復帰など高活動の下腿切断で、断端が成熟し皮膚が良好なら、シリコンライナー付きソケットが適する(高い懸垂性・密着性・衝撃吸収)
  • 大腿コルセット付きソケットは膝の側方支持が強いが重く、膝の不安定性が強い例向け。カフベルト懸垂はピストン運動が起こりやすく激しい運動には不向き

大腿義足のソケットと懸垂

  • 四辺形ソケット:前後径が狭く内外径が広い。坐骨結節を後壁上縁の坐骨受けに乗せて支持する
  • 坐骨収納型ソケット(IRC/ICS):坐骨結節と坐骨枝を内側に包み込む。四辺形より内外側の安定性にすぐれ、現在の主流
  • 吸着式ソケット:ソケット遠位端のバルブ(吸着弁)から空気を抜き、陰圧で断端を吸着させて懸垂する=懸垂帯(腰ベルト・シレジアバンド)が不要

写真の判定:ソケット遠位にバルブがあってベルト類が見えない→吸着式。ベルト・バンドが外に見える→非吸着式。ライナーと遠位のピン・ロック機構→ライナー+ピンロック。

2-2 膝継手と足部

膝継手は「立脚相の安定」か「遊脚相の制御」か

目的膝継手・機構働き
立脚相の安定固定膝(手動ロック膝)膝を伸展位で固定。遊脚相の制御はしない
荷重ブレーキ膝体重がかかると制動がかかり膝折れを防ぐ
イールディング機構(yielding)荷重下で膝が屈曲しようとしても油圧抵抗でゆっくり曲げ、急な膝折れを防ぐ。坂道・階段の交互降段・不整地で有用
バウンシング機構立脚初期に膝をわずかに屈曲させて衝撃を吸収
多節リンク膝(4節リンクなど)瞬間回転中心が後方に移り、立脚相で安定
遊脚相の制御定摩擦・可変摩擦膝摩擦で下腿の振り出し速度を制御する
空気圧・油圧(流体制御)・マイクロプロセッサ制御(インテリジェント膝)歩行速度の変化に合わせて振り出しを調整

イールディング機構は「立脚相の膝折れ防止」であって、膝過伸展の防止や遊脚相の伸展・屈曲補助ではない。振り出し速度の制御は可変摩擦膝(遊脚相)であって荷重ブレーキ膝・イールディング・バウンシング(いずれも立脚相)ではない。

使用者に合わせた選び方

使用者優先すること例
短断端立脚相の安定性(てこが短く股伸展筋で膝折れを止めにくい)膝軸の後方設定・荷重ブレーキ膝・手動ロック膝
長断端遊脚相の制御(断端で操作でき立脚相は安定させやすい)空気圧・油圧制御
低活動者・高齢者安定性。アライメントによる安定化(膝軸をTKA線より後方に置く)固定膝・荷重ブレーキ膝など
不整地を歩く立脚相の膝折れ防止イールディング機構
高活動・歩行速度を変える人遊脚相の速度追従インテリジェント膝・油圧膝

TKA線=大転子(Trochanter)・膝(Knee)・足関節(Ankle)を結ぶ基準線。膝継手軸がTKA線より後方→安定(膝折れしにくい)、前方→膝折れしやすい。

「高齢の切断者には多軸インテリジェント膝」は誤り。インテリジェント膝は重く高価で充電管理も要る、活動性の高い使用者向け。

義足の足部

足部特徴
SACH足足関節に可動軸のない一体成型の足部。踵のクッションが底屈の代わりをする。安定重視・低活動者向け
単軸足底背屈の1軸で動く。前後のバンパーで制動
多軸足(Greissinger足など)不整地に対応
SAFE足SACH足の改良型。内外側の動きに対応
エネルギー蓄積型足部(フレックス足・Flex-Foot、カーボン板バネ)立脚期にたわんで蓄えた弾性エネルギーを蹴り出しで放出し大きな推進力を得る。高活動・スポーツ用
  • ターンテーブル:ソケットと膝継手の間に入れて下腿以下を回旋させ、正座・あぐらを可能にする部品
  • 写真の判定:足関節部に軸(ボルト)や継手の分割線がなく一体成型→SACH足。回転軸が1本の膝→単軸膝(多節リンクではない)

参考:短下肢装具の足継手(クレンザック継手)

チャンネルにロッドを入れたクレンザック継手は背屈遊動・底屈制限。チャンネルにスプリングを入れると背屈補助として働くので、図や条件で使い方を確かめる。遊動=自由に動く、制限=機械的に止める、制動=動きに抵抗をかけて制御する、補助=動きを助ける、と言葉を区別する。

2-3 下腿義足のアライメントと膝の挙動

矢状面:膝が曲がりすぎるか、伸びたままか

踵接地では床反力が膝の後方を通り膝屈曲モーメントが生じる(正常でも荷重応答期に軽く膝屈曲する)。アライメントはこのモーメントを大きくするか小さくするかで考える。

膝が屈曲しすぎる(膝折れ・不安定感)膝が屈曲しない(伸展位のまま・突っ張る)
ソケット初期屈曲角が過大ソケット初期屈曲角が不足
ソケットが足部に対して前方(=足部が後方)ソケットが足部に対して後方(=足部が前方)
後方バンパー(踵)が硬い・底屈制動が強すぎる・足部が背屈位後方バンパーが軟らかい・足部が底屈位
大腿四頭筋(膝伸展筋)の筋力低下で膝を支えられない断端前面末梢部の疼痛(膝を曲げるとソケット前壁に当たるので避ける)
  • 下腿切断は膝関節が残るので、大腿四頭筋が膝の安定の鍵。筋力低下は膝折れの不安定感の原因になり、また膝折れを恐れて膝を伸展位に固めて歩く原因にもなる
  • 立脚初期(踵接地〜荷重応答期)の急な膝屈曲は、初期屈曲角過大・ソケット前方位・踵(後方バンパー)の硬さ(底屈制動過大)を疑う
  • 立脚後期の膝折れは、まず初期屈曲角過大・ソケット前方位を疑う。後方バンパーの硬さは立脚初期の問題で、前足部が硬すぎるとむしろ膝は伸展方向に押される

「ソケットが足部に対して後方すぎる」「足部が底屈しすぎる」「初期屈曲角が小さすぎる」は膝を伸展(安定)方向にするので、膝折れの原因にはならない。初期内転角・toe-out角は前額面・水平面の設定で、矢状面の膝折れの主因ではない。

前額面:初期内転角(静的立位で足部のどちらが浮くか)

下腿義足ソケットには通常わずかな初期内転角を付ける。過不足は「足部のどちら側が浮くか」「断端のどこが痛むか」で現れる。

初期内転角静的立位歩行時の断端の圧迫
不足外側荷重となり足部内側が浮く断端外側遠位に圧迫感
過大内側荷重となり足部外側が浮く断端内側遠位に圧迫感

「内側が浮く=内転不足、外側が浮く=内転過大」。圧迫部位は不足なら外側遠位、過大なら内側遠位。後方バンパー・初期屈曲角・トウブレーク・ソケットの前後位置は矢状面の設定なので、左右の浮き上がりの原因にはならない。

2-4 大腿義足のアライメントと異常歩行

ソケットの初期屈曲角

  • 目的:股関節伸展筋(大殿筋・ハムストリングス)を伸張位に置いて効率よく働かせる/断端の屈曲拘縮に対応する/腰椎前弯による代償を防ぐ(腸腰筋を働かせるためではない)
  • 設定:切断側股関節の最大伸展角度(屈曲拘縮の角度)+5°。拘縮が強いほど大きくなる(通常は5°前後)
  • 短断端は屈曲拘縮を起こしやすく、てこも短いので標準より大きくする
  • 不足すると立脚期に腰椎前弯が増強する(後弯ではない)

ソケットの初期内転角

断端を内転位に置いて中殿筋(股関節外転筋)を伸張し働きやすくする設定。不足や外側の支持不足は、立脚期の体幹の義足側への側屈につながる。

異常歩行と原因(相ごとに整理)

異常歩行相主な原因
体幹の義足側への側屈(側方動揺)立脚期ソケット外壁の高さ不足(外側支持不足)・義足側の股関節外転筋(中殿筋)筋力低下・義足が短すぎる・坐骨支持不良・初期内転角の不足
過度の腰椎前弯立脚期ソケット初期屈曲角の不足・股関節屈曲拘縮・股関節伸展筋(大殿筋)の筋力低下・腹筋弱化
伸び上がり歩行(vaulting)=遊脚相に健側でつま先立ち遊脚期義足が長すぎる・膝継手の摩擦過大(膝が曲がらない)・懸垂不良
分回し歩行遊脚期義足が長すぎる・膝継手の摩擦が強すぎる・遊脚期の膝屈曲不足
外転歩行全周期義足が長すぎる・ソケット内壁が高すぎる(会陰部の痛みを避ける)・外転拘縮・坐骨支持不良
踵の過度の上がり(下腿が後方へ大きく蹴り上がる)遊脚期膝継手の摩擦が弱すぎる・伸展補助が弱い
ターミナルインパクト(膝の伸展衝撃)遊脚終期膝継手の摩擦不足・伸展補助装置が強すぎる
フットスラップ踵接地直後後方バンパー(ヒールクッション)が軟らかすぎる
踵接地時の足部の回旋(外旋)踵接地後方バンパーが硬すぎる(底屈抵抗が強い)・ソケットが緩い
踵接地後の膝折れ(膝の不安定)立脚初期膝継手軸が前方すぎる(TKA線より前)・後方バンパーが硬い・股関節伸展筋の筋力低下
内側ホイップ踵離地膝継手軸の回旋設定の誤り(外旋位)・ソケット適合不良

「長すぎる→伸び上がり・分回し・外転」「短すぎる→義足側への体幹傾斜」が出発点。膝継手の摩擦は「強い=膝が曲がらない(分回し・伸び上がり)/弱い=曲がりすぎる(踵の過度の上がり・ターミナルインパクト)」。ヒールクッションは「軟らかい=フットスラップ/硬い=踵接地で回旋・膝折れ傾向」。

「外転歩行の原因は義足が短すぎる」「過度の腰椎前弯の原因は初期屈曲角が大きすぎる」「内側ホイップの原因はトウブレークが進行方向に直角(=正常設定)」は誤りの定番。図の問題では、まず立脚期の異常か遊脚期の異常か、矢状面か前額面かで切り分ける。

原因への理学療法

  • 立脚期の腰椎前弯増強:義足側(断端側)の股関節伸展筋群の強化と股関節伸展可動域の改善。脊柱起立筋の強化は前弯を助長するので行わない。屈曲可動域を広げても改善しない
  • 立脚期の体幹側屈:義足側の股関節外転筋(中殿筋)の強化とソケット外側支持の確認。健側の外転筋や膝伸筋を鍛えても改善しない
  • 原因は「義足側(アライメント・ソケット・継手)」と「身体側(筋力・拘縮・痛み・恐怖心)」の両方から探す