第4章|変性・脱髄・運動ニューロン疾患

神経内科学 第4章

4-1 疾患地図 ─ 病因・主病変・特徴的症候

組合せ問題が多い。まず病因の箱に分け、次に主病変と代表症候を一対一で押さえる。

病因による分類

病因該当疾患
神経変性Parkinson病/筋萎縮性側索硬化症(ALS)/Alzheimer型認知症/Huntington病/多系統萎縮症/進行性核上性麻痺/大脳皮質基底核変性症/脊髄小脳変性症
脱髄中枢=多発性硬化症・視神経脊髄炎/末梢=Guillain-Barré症候群・慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)
代謝性肝性脳症(アンモニア)/Wernicke脳症(ビタミンB₁欠乏)/亜急性連合性脊髄変性症(ビタミンB₁₂欠乏)
プリオン(伝達性=感染)Creutzfeldt-Jakob病(CJD)
血管性血管性認知症(脳梗塞・白質病変)
髄液循環障害正常圧水頭症(血行障害ではない)

CJDは神経細胞が脱落するので「神経変性疾患」と組ませる引っかけが定番。病因では異常プリオン蛋白の伝播=伝達性(感染性)疾患。病理=大脳皮質の海綿状変化、臨床=急速進行性認知症・ミオクローヌス。

主病変の対応

疾患主病変・病理所見
Parkinson病中脳黒質緻密部のドパミン神経細胞の変性・脱落、Lewy小体
Lewy小体型認知症Lewy小体(αシヌクレインの異常沈着)
Alzheimer型認知症大脳皮質・海馬の変性。老人斑(アミロイドβ)+神経原線維変化(タウ)
前頭側頭型認知症・Pick病前頭・側頭葉の萎縮。腫大神経細胞(Pick細胞)・Pick球はPick病固有
Huntington病線条体(尾状核・被殻)の変性
多系統萎縮症(MSA)小脳・脳幹・線条体・脊髄の変性。グリア細胞質内封入体
進行性核上性麻痺(PSP)タウ蛋白の蓄積
大脳皮質基底核変性症大脳皮質+基底核の神経細胞脱落
ALS脊髄前角細胞(下位)の脱落+側索=皮質脊髄路(上位)の変性。後索は保たれる
多発性硬化症(MS)中枢神経(脳・脊髄・視神経)の脱髄斑
Guillain-Barré症候群末梢神経の脱髄。脊髄前角の変性ではない

「Parkinson病 ─ 大脳白質の変性」は誤り → 正しくは中脳黒質の変性。「ALS ─ 脊髄後索の変性」も誤り → 前角+側索で後索(感覚)は保たれる。「Lewy小体型認知症 ─ 大脳白質の虚血」も誤りで、白質病変は血管性認知症の所見。

特徴的症候から疾患を引く

症候疾患
舞踏運動Huntington病
線維束性収縮ALS(下位運動ニューロン障害)
静止時(安静時)振戦Parkinson病
羽ばたき振戦肝性脳症
起立性低血圧多系統萎縮症(Shy-Drager型)
発症早期からの易転倒・垂直性核上性眼球運動障害進行性核上性麻痺
有痛性強直性けいれん・視神経炎多発性硬化症
眼球運動障害+運動失調+意識障害の三徴Wernicke脳症(ビタミンB₁欠乏)
カフェオレ斑神経線維腫症1型(葉状白斑=結節性硬化症)

母斑症・先天症候群は皮膚/顔貌の所見1つで引くカフェオレ斑(淡褐色の色素斑)=神経線維腫症1型(von Recklinghausen病)で多発神経線維腫を伴う。葉状白斑・顔面血管線維腫・てんかん=結節性硬化症ポートワイン母斑=Sturge-Weber症候群。同じ設問に並ぶネコ鳴き症候群=5番染色体短腕欠失でネコのような甲高い泣き声Williams症候群妖精様顔貌・大動脈弁上狭窄・過度に社交的な性格Prader-Willi症候群乳児期の筋緊張低下・過食・肥満・性腺機能低下。この3つはいずれも知的障害を伴いうるが皮膚の色素沈着(カフェオレ斑)は特徴ではない

Parkinson病で姿勢反射障害(転倒)が出るのは中等度進行期(Hoehn-Yahr Ⅲ)以降。発症初期からの易転倒はPSPで、左右対称・抗パーキンソン薬が効きにくい点も鑑別になる。

家族性と孤発性

  • 家族性が孤発性より多いのはHuntington病のみ。常染色体顕性遺伝、HTT遺伝子のCAGリピート伸長(42回以上で発症)。
  • Parkinson病・多系統萎縮症・Lewy小体型認知症はほぼ孤発性。ALSも孤発性が約90%、家族性は約10%。脊髄小脳変性症も日本では非遺伝性が約2/3
  • Parkinson病は50〜60歳代の発症が最多、緩徐進行性で再発寛解しない(再発寛解はMS)。喫煙は発症リスクをむしろ下げるとされ、有病率はAlzheimer病のほうが高い。

介護保険の特定疾病(16疾病)=第2号被保険者(40〜64歳)が要介護認定を受けられる要件。

含む:がん(末期)/関節リウマチ/ALS/後縦靱帯骨化症/骨折を伴う骨粗鬆症/初老期における認知症/進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症・Parkinson病脊髄小脳変性症/脊柱管狭窄症/早老症/多系統萎縮症/糖尿病性神経障害・腎症・網膜症/脳血管疾患/閉塞性動脈硬化症/慢性閉塞性肺疾患(COPD)/両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症。

含まない多発性硬化症・筋ジストロフィー・多発性筋炎・ポリオ後症候群・統合失調症・白内障・腱板損傷・拡張型心筋症・間質性肺疾患(COPDは○)変形性肘関節症(膝・股のみ○)

4-2 上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの振り分け

障害部位が上位か下位か末梢神経か筋かで症状が決まる。ここを固めると組合せ問題は消去法で落ちる。

所見上位運動ニューロン(錐体路)下位運動ニューロン(前角細胞・末梢神経)
筋緊張亢進(痙縮)低下(弛緩性麻痺)
腱反射亢進低下・消失
病的反射Babinski・Hoffmann陽性陰性
表在反射(腹壁反射)消失保たれる
筋萎縮軽度(廃用性)高度
線維束性収縮なしあり
球症状仮性球麻痺(両側皮質延髄路)球麻痺(延髄の脳神経核)

痙縮・腱反射亢進が出る疾患/出ない疾患

  • 出る=中枢(上位)障害:多発性硬化症・脳卒中・脊髄損傷・ALS(上位成分)・亜急性連合性脊髄変性症(側索)。
  • 出ない=末梢神経・筋の障害:Guillain-Barré症候群・腕神経叢麻痺・尿毒症性ニューロパチー・多発性筋炎・筋強直性ジストロフィー・Duchenne型筋ジストロフィー。いずれも弛緩性麻痺・腱反射減弱
選択肢が末梢神経疾患・筋疾患ばかりの中に多発性硬化症が1つ混ざる形が定番。唯一の中枢障害=正答と見抜く(「痙縮が出現し得るのはどれか」「腱反射が亢進する疾患はどれか」)。

上位・下位が混在する病態

疾患障害部位決め手
ALS上位+下位感覚障害がない
亜急性連合性脊髄変性症後索+側索ビタミンB₁₂低下・深部感覚障害・Romberg陽性(閉眼で動揺著明)・膝蓋腱反射亢進+Babinski陽性。末梢神経障害の合併でアキレス腱反射は低下しうる
ポリオ/ポリオ後症候群下位(脊髄前角細胞)のみBabinski陰性、感覚は保たれる

ビタミンB₁₂低下+後索+側索の症例で並ぶ誤答肢 → 正しくは。

皮膚筋炎」は誤り → 近位筋優位の筋力低下+特徴的な皮膚症状(ヘリオトロープ疹・Gottron徴候)が本態の筋疾患で、深部感覚障害・Babinski陽性・ビタミンB₁₂低下は説明できない(筋疾患なので腱反射亢進も出ない)。

Shy-Drager症候群」は誤り → 多系統萎縮症で起立性低血圧などの自律神経障害+小脳症状が主体。ビタミンB₁₂とは無関係。

ポリオ後症候群=罹患後の安定期を経て数十年後に新たな筋力低下が出る。Halsteadらの診断基準に入るのは筋萎縮・筋肉痛・関節痛・疲労など。感覚障害は含まれない。対応はオーバーユース回避。

運動単位

  • 1個の運動ニューロン(遠心性)+その支配筋線維の総体。求心性線維は含まない。1個を刺激すると支配下の筋線維はすべて同時に収縮する。
  • 動員(recruitment)=参加する運動単位の数が増える過程。Hennemanのサイズの原理で小さい運動単位から先に活動する(小→大)。
  • 細かい動きを要する筋(外眼筋・手指)は1ニューロンの支配筋線維数が少ない(外眼筋で3〜6本)。多いのではない。

4-3 筋萎縮性側索硬化症(ALS)─ 臨床像・陰性四徴・検査

病態と症状

  • 上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが同時に障害される進行性変性疾患。
  • 下位徴候=筋萎縮・筋力低下・線維束性収縮(線維束攣縮)・舌萎縮。上位徴候=痙縮・腱反射亢進・Babinski/Hoffmann反射陽性
  • 筋萎縮は手指の小筋など四肢遠位から始まり近位へ進行する。
  • 球麻痺=構音障害(鼻音化)・摂食嚥下障害・舌萎縮。球麻痺先行型もある。
  • 呼吸筋麻痺で拘束性換気障害が進み、PaCO₂は上昇する(低下ではない)。予後を左右するのは呼吸不全。

陰性四徴(末期まで保たれやすいもの)

保たれるもの補足
感覚障害が出ない痛覚脱失・振動覚低下・深部感覚障害はいずれも出ない
眼球運動障害が出にくい人工呼吸器装着後の意思伝達手段になる
膀胱直腸障害が出ない仙髄のOnuf核が保たれる
褥瘡ができにくい皮膚の性状が保たれる
  • 認知機能も原則保たれる(ALS-FTDの合併はあるが一般的ではない)。
  • ALSでみられない他疾患の所見=筋固縮(パーキンソニズム)・測定異常(小脳)・筋の仮性肥大(Duchenne型の腓腹筋)・静止時振戦(Parkinson病)。

「ALSでは早期から感覚障害・眼球運動障害が目立つ」は誤り。逆に、四肢の筋萎縮+脱力(下位)に錐体路徴候(Hoffmann反射陽性など)が加わるのが診断の要。

検査所見

  • 診断に最も有用なのは針筋電図。脱神経所見(線維自発電位・陽性鋭波)、線維束攣縮電位、高振幅・長時間の運動単位電位が複数領域で出る。
  • 運動神経伝導検査=伝導速度は保たれ、遠位潜時も正常範囲(脱髄ではないため)。感覚神経伝導も正常で、体性感覚誘発電位(SEP)は診断に不向き。
  • 反復刺激試験は正常。SPECT・頭部CT・頸部超音波も診断的価値は低い(他疾患の除外用)。
電気生理所見示唆する疾患
線維束攣縮電位・脱神経所見(針筋電図)ALS
伝導速度低下・遠位潜時延長・伝導ブロック脱髄性ニューロパチー(GBS・CIDP・Charcot-Marie-Tooth病)
活動電位の振幅低下(速度は保持)軸索障害(軸索型ニューロパチー・ALS)
反復刺激で漸減現象〈Waning〉重症筋無力症
反復刺激で漸増現象〈Waxing〉Lambert-Eaton症候群
筋原性変化(低振幅・短持続電位)多発性筋炎・筋ジストロフィー

4-4 ALSの理学療法とマネジメント

大原則=過用(オーバーワーク)と廃用の両方を避け、残存機能でADLを維持する。進行性なので「鍛えて戻す」発想は取らない。

やってはいけない介入

  • 下肢の漸増抵抗運動・鉄アレイでの上肢筋力トレーニング・重錘を装着した歩行練習=高負荷は過用性筋力低下を招く。
  • 両松葉杖での歩行練習=上肢の負担が大きく上肢を疲労させる。下垂足はまず装具で対応する。
  • 感覚再教育・感覚再教育によるバランス練習=感覚は保たれるので適応がない。
  • ADL自立・歩行可能な段階での車椅子操作練習は優先度が低い。まず歩行機能の維持。

適切な介入

問題対応
下垂足による鶏歩・下肢筋力低下(ADLは自立)プラスチックAFOを装着した歩行練習で背屈を補助し、躓きを防いで歩行を維持
歩行可能で下垂足がまだ明らかでない早期からのAFO導入は不要。下肢機能をみて必要時に検討
拘束性換気障害の進行早期から胸郭のストレッチで胸郭可動性を保つ
呼吸機能のモニタリング%肺活量などを数か月ごとに頻回評価(年1回では遅い)。導入の目安は%VC 70%以下またはPaCO₂ 45 Torr以上
球麻痺先行型誤嚥が出る前から嚥下・栄養管理を開始(体重減少の予防)
上肢近位筋の筋力低下BFO(バランス式前腕装具)で前腕を支持し、食事などの上肢動作を保つ
構音障害の進行代替コミュニケーション手段の準備

実地問題での時期の切り分け:%肺活量が保たれ動脈血ガスが正常(PaO₂ 90 Torr・PaCO₂ 40 Torr)なら気管切開・在宅酸素療法は適応外明らかな嚥下障害がなければ胃瘻造設も時期尚早下肢MMT 4で移動が保たれていれば電動車椅子の優先度は低い

組合せ問題での判断:ALS・重症筋無力症=過用を避ける(漸増抵抗運動・重錘負荷は誤り)/多発性硬化症=過熱を避ける(交代浴・温熱は誤り)/ジストニア=筋電図バイオフィードバック(過剰収縮する筋を視聴覚的に返して抑制を学習)/Böhler体操は末梢循環改善の運動でGuillain-Barré症候群とは結びつかない。

4-5 多発性硬化症(MS)─ 疫学・病態・診断

項目内容
病態中枢神経(脳・脊髄・視神経)の脱髄。自己免疫機序の後天性疾患で遺伝性疾患ではなく、免疫不全とも別
経過時間的・空間的に多発し、再発と寛解を繰り返す
好発20〜40歳代の若年女性。男女比およそ1:2〜3
地理・人種高緯度地域・白色人種に多い
診断MRIで脱髄プラークを検出。空間的・時間的多発の証明に有用
予後障害が蓄積し、後遺障害(歩行障害・視力障害)を残すことは稀ではない
介護保険特定疾病16には含まれない

症状

  • 錐体路障害=痙縮・腱反射亢進・病的反射陽性・運動麻痺。感覚路障害=しびれ・感覚低下。
  • 視覚=視神経炎による視力低下・視野欠損、複視、核間性眼筋麻痺。
  • 小脳症状=運動失調・測定異常・企図振戦・断綴性言語。膀胱直腸障害も生じうる。
感覚障害を合併する合併しない
多発性硬化症(中枢の脱髄)/CIDP・Guillain-Barré症候群(末梢の脱髄で感覚線維も侵す)重症筋無力症(神経筋接合部)/ALS(運動ニューロン)/肢帯型・Duchenne型筋ジストロフィー(筋)

MSの誤答肢はすべて反対に読み替える。「男性に多い」→女性/「50歳以上に多い」→20〜40歳代/「低緯度で有病率が高い」→高緯度/「末梢神経の脱髄」→中枢神経/「後遺障害は稀」→残しうる/「遺伝性疾患」→自己免疫性/「免疫不全で発症しやすい」→自己免疫/「高体温で症状が改善」→悪化(Uhthoff)。Phalenテストは手根管症候群の誘発テストでMSとは無関係。

4-6 MSの特徴的徴候と紛らわしい徴候

徴候誘因・所見意味
Uhthoff現象(徴候)体温上昇(入浴・運動・発熱・高い外気温)で症状が一過性に悪化脱髄した神経は温度上昇で伝導がさらに障害される
Lhermitte徴候頸部前屈や体動で項部から背中・下肢へ走る電撃痛頸髄後索の脱髄
有痛性強直性けいれん発作性の有痛性けいれん脱髄による異常興奮。脊髄小脳変性症にはみられにくいMS特有の陽性症状
2大徴候は引き金で区別する。体温で悪化=Uhthoff頸部前屈で電撃痛=Lhermitte。運動強度を軽〜中等度に抑え、外気温の高い時間帯を避ける配慮の根拠はUhthoff。

他疾患の徴候(誤答肢の常連)

徴候内容対象
Barré徴候上肢挙上保持で麻痺側が下垂錐体路障害(軽度麻痺の検出)
Gowers徴候床から立つとき自分の体を手で這い上がる近位筋力低下(Duchenne型など)
Horner徴候縮瞳・眼瞼下垂・眼球陥凹・発汗低下交感神経障害
Tinel徴候神経の絞扼部の叩打で支配領域へ放散痛末梢神経の絞扼・再生
Patrick徴候FABERテスト股関節・仙腸関節病変

紛らわしい病態

  • 視神経脊髄炎(NMO)=視神経と脊髄を侵す中枢の脱髄疾患。MSと同様に体温上昇で悪化するため温熱療法を避ける。「温熱療法を避けるべき疾患」で問われる(多発性筋炎・Parkinson病・亜急性連合性脊髄変性症・Charcot-Marie-Tooth病は温熱が特に禁忌ではない)。
  • 視床痛=脳卒中(視床)後に数週〜数か月遅れて出る中枢性疼痛。非侵害刺激で痛む(アロディニア)。CRPS Ⅰ型ではなく、Lhermitte徴候も伴わない。音・光・ストレスで増悪する。

4-7 MSの理学療法と疾患別評価尺度

問題対応理由
痙縮温熱療法・交代浴は行わないUhthoff現象で悪化する
筋力低下1RMの反復など最大負荷は行わない易疲労性が強く過用性筋力低下を招く
運動失調重錘を負荷して練習する固有感覚入力を増やし動揺を抑える
視野欠損照明などの環境整備で代償視機能障害は代償・環境調整で対応
歩行障害早期からの下肢装具作製は適切とは限らない再発寛解で症状が変動する
全般暑い時間帯・入浴・発熱を避け疲労を管理Uhthoff現象+易疲労性

疾患別の評価尺度

尺度対象
EDSS多発性硬化症の障害度(機能系・歩行)
SARA/ICARS運動失調(脊髄小脳変性症)
UPDRSParkinson病
QMG score重症筋無力症
BADS遂行機能障害

4-8 末梢神経の脱髄と軸索障害

Guillain-Barré症候群(GBS)

  • 先行感染(感冒・下痢)後 数日〜2週で急性に進行する自己免疫性の末梢神経脱髄疾患。
  • 下肢から上行する弛緩性の運動麻痺四肢の深部腱反射消失病的反射は陰性。表在感覚低下・異常感覚を伴うことがある。髄液の蛋白細胞解離
  • 神経伝導検査=複数の神経で運動神経伝導速度が低下(脱髄型)、または活動電位の振幅が著明に減少(軸索型)。

急性の四肢麻痺で迷う相手

疾患腱反射感覚電気生理
Guillain-Barré症候群消失障害されうる伝導速度低下または振幅著減
CIDP低下障害される慢性経過の脱髄
ALS亢進正常伝導速度は保たれ、針筋電図で脱神経
多発性硬化症亢進障害される中枢病変(MRI)
多発性筋炎保たれる/進行で減弱正常伝導は正常、筋原性変化
Charcot-Marie-Tooth病低下軽度伝導速度低下。凹足・鶏歩が緩徐に進行

そもそも神経伝導検査に異常が出ないのに肢に並ぶ常連を先に切る。閉塞性動脈硬化症=下肢動脈の血流障害間欠性跛行が主症状。末梢神経そのものは侵されず、運動神経伝導速度も活動電位振幅も正常。髄膜炎=髄膜の炎症で頭痛・発熱・髄膜刺激徴候が主体。四肢の弛緩性麻痺や活動電位振幅の著減は来さない。視神経脊髄炎=視神経と脊髄を侵す中枢の脱髄で、末梢神経伝導検査では主病態を捉えられない。多発性筋炎=筋の炎症なので伝導は正常で筋原性変化のみ。

逆に、複数の末梢神経で運動神経伝導速度が低下活動電位振幅が著明に減少と書かれた急性の四肢麻痺はGuillain-Barré症候群。速度低下=脱髄型(GBS・CIDP・Charcot-Marie-Tooth)、振幅低下で速度は保たれる=軸索障害(ALSなど)という読み分けも押さえる。

「末梢神経の脱髄がみられるのはどれか」=Guillain-Barré症候群。多発性硬化症を選ぶと誤り(中枢の脱髄)。進行性核上性麻痺はタウ蓄積の変性疾患、腰部脊柱管狭窄症は機械的圧迫、de Quervain病は腱鞘炎で、いずれも脱髄ではない。

末梢神経損傷の分類(予後の順)

分類病態予後
ニューラプラキシア構造的破壊がない一過性の伝導ブロック(圧迫など)。軸索・髄鞘は温存最良。数日〜数週で完全回復
アクソノトメーシス軸索は断裂するが神経鞘は保存。Waller変性を生じる再生に数か月
ニューロトメーシス神経幹が完全に断裂最不良。手術的修復が必要
神経根引き抜き損傷神経根が脊髄から引き抜かれる極めて不良
Waller変性は損傷型の名称ではなく、軸索損傷後に遠位端で起こる変性の過程。選択肢に混ざっていても「予後が最も良い損傷」には該当しない。

4-9 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症と失調の鑑別

疾患の輪郭

  • 脊髄小脳変性症(SCD)=小脳・脳幹・脊髄が変性し運動失調を主症状とする疾患群。日本では非遺伝性(孤発性)が約2/3で多数派。有病率は人口10万人あたり数人〜十数人の規模で100人/10万人は過大
  • 多系統萎縮症(MSA)は非遺伝性SCDの代表。小脳症状+パーキンソニズム+自律神経障害(起立性低血圧・排尿障害)。自律神経障害が前景の型がShy-Drager症候群。
  • 自律神経障害は非遺伝性(MSA等)で目立ち、遺伝性では相対的に少ない。視覚・視野障害を高頻度に伴うわけではない(中核はあくまで失調)。

小脳症状

  • 運動失調(体幹失調・四肢失調)、ワイドベースの失調性歩行、平衡障害、筋緊張低下。
  • 小脳症状は同側性。左小脳半球の病変なら上下肢の失調(右ではない)。片麻痺・感覚障害・同名半盲・遂行機能障害・球麻痺は小脳症状ではない。
  • 小脳梗塞では運動失調と眼振、加えて回転性めまい・嘔吐・構音障害が急性に出る。
  • 頭部MRIで後頭蓋窩・小脳の萎縮を見たら、つまずき・ふらつきの原因は運動失調。歩行失行は前頭葉障害(正常圧水頭症)で別。
用語内容
測定異常(dysmetria)運動の距離・量・方向の誤り。指鼻試験や過回内テストで終点が行き過ぎる/届かない
企図振戦目標に近づくほど増強する振戦
反復拮抗運動不能(変換運動障害)回内回外などの素早い反復ができない
運動分解一連の動作が分節的に分かれる
協働収縮異常主動筋と拮抗筋の協調的タイミングの障害
断綴性(爆発性)言語小脳性構音障害

失調の3型鑑別

特徴的所見Romberg試験
小脳性断綴性の構音障害・測定異常・企図振戦・眼振・筋緊張低下閉眼で大きくは変わらない
後索性深部感覚障害(亜急性連合性脊髄変性症など)陽性(閉眼で動揺が著明に増大)
前庭性めまい・耳鳴り・難聴・眼振(内耳症状。例:Ménière病)陽性になりうる
眼振は小脳性でも前庭性でも出て、Romberg陽性は後索性でも前庭性でも出る。前庭性に最も特異的なのは耳鳴り(聴覚症状)=前庭が蝸牛と同じ内耳にあるため。構音障害は小脳性、深部感覚障害は後索性の本態。

評価

  • SARA=運動失調の包括的評価尺度。歩行・立位・座位・言語障害・指追い試験・鼻指試験・手の回内回外・踵すね試験の8項目(0〜40点)。ICARSも失調の尺度。
  • 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018で、集中リハビリテーションの転帰指標として示されているのはSARA。筋力・咳嗽力・深部感覚・関節可動域ではない。

4-10 失調の理学療法 ─ 段階づけと歩行補助具

  • Frenkel体操は有効(無効ではない)。運動学習に基づく協調性訓練の代表。
  • 重錘負荷・弾性緊縛帯で固有感覚入力を増やし動揺を軽減する。視覚代償・環境調整も併用。

バランス課題の難易度

難易度は支持基底面の広さ・支持点の数・重心の偏りで決まる。四つ這いでの難易度順は次のとおり。

  1. 四つ這い位保持(4点支持=最も易しい)
  2. 一側上肢挙上/一側下肢挙上(3点支持)
  3. 対側上下肢挙上(残る支持点が対角線上にあり重心が収まりやすい)
  4. 同側上下肢挙上(残る支持が反対側の上下肢だけで重心が挙げた側へ大きく偏る=最難)
座位から立位への段階づけ=座位(上肢支持あり→支持なし→重心移動)→立ち上がり→立位(支持あり→支持なし→外乱・不安定板)選ぶのは常に「現在のレベルの一段上」。上肢支持なしの端座位を獲得した直後なら端座位での重心移動練習で、セラピーボール上での四肢挙上・片膝立ちでの上肢挙上・不安定板上の立位は難易度過剰。

歩行補助具

支持基底面の広さ=安定性の順に並ぶ。T字杖<ロフストランド杖<多脚杖(ウォーカーケイン)<歩行器<歩行車

状況選択理由
伝い歩きが主で方向転換時に不安定歩行車持ち上げ操作が不要で支持面が広い
体幹失調が顕著で前後方向の振り子様動揺上肢支持面を前腕で支持できる高さ(前腕支持・プラットフォーム型)前腕全体で支えると支持面が広がり体幹を安定させやすい
歩行器の重量重量のある安定したもの軽量だと歩行器自体が揺れて不安定になる

失調で不適な選択:ピックアップ型・交互型歩行器(持ち上げ操作のたびに支持が途切れる)/T字杖・ロフストランド杖・ウォーカーケイン(支持基底面が狭い)/サドル付型(下肢の支持性が著しく低い場合の免荷用で、筋力が保たれる失調例には的外れ)/側方への重錘装着(側方が安定している症例では的外れ)。

自助具の対応

障害自助具
両側上肢の切断台付き爪切りなど固定式・口や足で操作する用具
ROM制限・リーチ困難リーチャー・ソックスエイド・長柄ブラシ
握力低下(関節リウマチなど)太柄スプーン
  • 脊髄小脳変性症は失調が主体で、リーチャーはリーチ困難向けの用具なので第一選択にならない
  • 片側上肢切断は健側手で代償できるためプルトップオープナーの必要性は低い。アテトーゼ型脳性麻痺は不随意運動が強く、細かい操作を要するソックスエイドは使用困難。
  • 片麻痺とボタンエイド=片手でボタンを留める用具なので組合せとして間違ってはいないが、片麻痺は健側上肢が丸ごと残るため自助具なしでも代償が効き、必須性は低い。「疾患と自助具の組合せで正しいのはどれか」と1つだけ選ばせる設問では、その自助具がなければ動作自体が成立しない組合せ(両側上肢切断=台付き爪切りのように、手指でつまむ操作が不可能な例)が優先される。