第2章|脳性麻痺の理学療法と補装具

脳性麻痺・小児 第2章

2-1 発達の順序と「今の1つ先」の課題

小児の理学療法は正常発達の順序に沿って進める。症例文から「できていること」と「できていないこと」を仕分け、できていることの1つ先の課題を選ぶのが鉄則。

月齢の目安獲得する粗大運動
3〜4か月頸定、腹臥位での肘支持(on elbows)
6〜7か月寝返り、手で支えた座位(円背)
8〜9か月安定した座位(背すじが伸びる)、四つ這い
10〜11か月つかまり立ち、伝い歩き
12〜15か月独歩

順序は頸定 → 寝返り → 座位 → 四つ這い → 立位 → 歩行。治療は近位・体幹の安定 → 遠位の運動の順。

段階ごとの課題の選び方(代表例)

今の到達段階次に選ぶ課題まだ早い・不適切なもの
頸定あり、上肢支持で数秒だけ円背の床座位腹臥位での体幹伸展運動(on elbows/on hands で頭部・体幹を持ち上げる)。抗重力伸展を高めて座位を安定させる。家庭でのホームプログラムにも向く四つ這い保持、介助歩行、立位での下肢保護伸展反応(いずれも段階を飛ばす)。上肢の他動ROM(両麻痺は下肢優位で、上肢は支持に使う能動的活動が優先)
臥位で頭部コントロール良好、寝返り可能(2歳・痙直型四肢麻痺)座位での体幹の立ち直り反応の促通(座位獲得へ)介助歩行、椅子からの立ち上がり、陽性支持反射の促通(原始反射は促通しない)、下肢の筋力増強(座位獲得前のこの段階では発達順序に合わず優先度が低い)
座位良好・両手支持で立ち上がり可・片手支持で立位保持可。歩き出すと支持脚の股・膝が屈曲して崩れる低い台に片足を乗せるステップ練習(反対側の片脚支持で股・膝伸展を保ち、支持脚側へ重心を移す)バルーン上座位、腹臥位での体幹伸展、台からの立ち上がり、壁に殿部をつけた両脚立位(いずれも獲得済みか、片脚支持の要素がない)

「できている課題をもう一度練習する」選択肢と「何段階も先の課題(歩行・補助具なし歩行など)」の選択肢が並ぶのが定番のひっかけ。歩き出しの問題の鍵は片脚支持時の股関節伸展と側方への重心移動で、ステップ練習・段差昇降・片脚立位保持が中心になる。

2-2 痙直型両麻痺の姿勢パターンと治療の方向

出やすいパターン内容治療で目指す方向
はさみ肢位股関節内転・内旋、膝屈曲、尖足股関節外転・外旋、膝伸展、足関節背屈、足底接地
クラウチング姿勢(crouch)股・膝屈曲(足関節背屈)でしゃがみ込むような立位。骨盤は後傾して見えることも、前傾することもある骨盤を中間位に起こし股関節伸展位を保つ
体幹の屈曲・不安定体幹を前傾し上肢でもたれる、円背体幹の抗重力伸展・同時収縮

立位・腹臥位でのはさみ肢位・クラウチングに対する治療の方向は「股関節外転・外旋、膝伸展、足関節背屈、体幹伸展」が基本。ただし下肢の伸展・内転・尖足パターンが強い児の座位・遊びの姿勢では、逆に股・膝を屈曲させて足底を接地させる(2-3・2-4)。場面で分けて考える。選択肢に短縮しやすい筋(ハムストリングス・股関節内転筋・内旋筋・下腿三頭筋)の促通が混ざっていたら誤り。

症例別の優先課題

状態適切な介入不適切な選択肢と理由
GMFCSⅢ・4歳、立位でクラウチング姿勢・骨盤後傾腹筋群と殿筋群の同時収縮の促通で骨盤を中間位に起こす股関節内旋筋の促通(はさみ肢位を助長)/ハムストリングスの促通(膝屈曲・骨盤後傾を強める)/長下肢装具(Ⅲでは膝はある程度制御でき過剰。足部は短下肢装具で制御)/両側T字杖(この年齢・レベルでは後方支持型歩行器などを使う)
GMFCSⅢ・12歳、立位で体幹前傾し台に上肢でもたれる体幹筋の同時収縮を促し姿勢保持の土台をつくる長下肢装具(過剰)/選択的後根切断術(侵襲的治療は第一選択にしない)/介助量を急に減らす(転倒・努力性代償)/上肢支持能力の強化(もたれ姿勢を固定化)
腹臥位でボールに骨盤を乗せ、前方へ転がして手をつかせる。PTは両下肢を股関節伸展・外転位、膝伸展位に保持目的=前方パラシュート反応の促通、股関節内転筋の緊張抑制、股関節伸展筋の促通、体幹伸展筋の促通膝屈曲筋の促通は目的にならない(膝伸展位でハムストリングスは伸張されている)

筋力増強運動は痙縮を悪化させないとされ、痙直型でも行われる介入である。ただし座位・立位が未獲得の発達初期は、発達順序に沿った姿勢・移動の課題(体幹・近位の安定づくり)が優先される。選択的後根切断術などの外科的治療は、保存的にコントロールできる段階で第一選択にしない。

2-3 遊び・動作指導と小児の訓練用具

避けたい肢位・移動と、代わりに促すもの

避けたいもの理由代わりに促すもの
割り座(W座り)股関節内転・内旋を強め、下肢の分離運動を促さないあぐら座、横座り、椅子座位
バニーホッピング(両下肢を同時に引き寄せる跳ねるような四つ這い)左右同時の代償的移動で、異常パターンを強める左右交互の四つ這い(交互性パターン)
受動的な立位保持(立位保持装置に任せるだけ)能動的な体幹の安定化・姿勢制御を学ぶ機会が乏しい膝立ち位・四つ這い位など、自分で姿勢を保ちながら上肢で遊ぶ課題

段階に合った遊び・動作指導(代表例)

  • 4歳・痙直型両麻痺、割り座が多く、バニーホッピングと交互性四つ這いを併用、PCWで歩行練習中→四つ這い位で上方の物へリーチする遊び(体幹・上肢の支持、交互性、立位への準備)。割り座でボールを抱える遊びは不適切。
  • 5歳・痙直型両麻痺、屋内移動は車椅子、監視下でPCW(postural control walker、後方支持型歩行器)の歩行練習中→膝立ち位でのキャッチボール(体幹の安定化と上肢機能、遊びによる動機づけ)。補助具なし歩行・バニーホッピング・割り座保持・立位保持装置での受動的立位は不適切。
  • GMFCSⅡの痙直型脳性麻痺児→歩行補助具なしでの歩行練習で能力を伸ばす。車椅子の駆動練習(長距離を車椅子で移動するⅢ・Ⅳの児で検討する)や、スタンディングボード(立位保持器具。立位が困難な重症児向け)での立位は、補助具なしで歩けるⅡには過剰。

遊びの姿勢設定

下肢の伸展・内転・尖足パターンが強い児(抱っこで下肢が伸びて交差し、尖足になる)では、股関節と膝関節を屈曲させ、足底を支持面に接地させた姿勢で遊ばせる。

適切な例不適切な例
膝の下にロールを入れた床座位・背臥位(股・膝屈曲位)でのリーチ
前方テーブルに上肢を乗せ足底を接地した立位
骨盤ベルト付きの椅子で足台に足底を接地し股・膝・足関節を約90°に保った座位
椅子座位なのに膝を伸ばして下肢を前に投げ出し、足底がどこにも接地していない姿勢(骨盤・体幹が不安定になり伸展・内転パターンを助長)
病型強く出るパターンとらせる姿勢
痙直型両麻痺・四肢麻痺下肢の伸展・内転・内旋・尖足股・膝屈曲、股外転、足底接地
痙直型片麻痺上肢屈曲・下肢伸展麻痺側の肩甲帯前方突出・肘伸展
アテトーゼ型不随意運動・非対称正中位指向、支持面を広く安定させる

小児の訓練用具と目的

用具使う肢位・形目的
三角マット(ウェッジ)腹臥位で胸の下に入れる頭部挙上・上肢支持・体幹伸展(下肢の支持性が目的ではない)
クローラー腹臥位で腹部を支え、上肢で床をこいで進む頭頸部・体幹伸筋の抗重力活動、四つ這いの準備
スタビライザー(起立保持具)・プローンボード立位を保持させる下肢の支持性・抗重力伸展、臼蓋形成の促進、骨萎縮の予防(上肢伸筋の強化ではない)
ツイスター骨盤帯と靴・短下肢装具をケーブルやゴムでつなぐ下肢の回旋(内股歩行)のコントロール
PCW(後方支持型歩行器)歩行体幹を起こした歩行の安定
ターンバックル装具の継手に付け、ねじで長さを調節膝・肘の屈曲拘縮の矯正(前足部の変形矯正ではない)

2-4 座位保持装置の設定

座位が不安定な重度の児(全身の低緊張、座位が上肢支持で短時間しか保てない、頸定・体幹コントロール不良)では、歩行器・車椅子より先に座位保持装置で座位の安定をつくる。移動補助具は座位・体幹機能が安定してから検討する。

「骨盤を制する者が姿勢を制する」。調整の順序は①骨盤の固定 → ②体幹の支持 → ③頭部の支持 → ④上下肢の位置。基本は股・膝・足関節をそれぞれ約90°に保つ(90度ルール)。

部位設定理由
骨盤ベルト付ける。大腿に対し約45°方向(斜め下方)に引く骨盤を座面に密着させ、前方への滑り(すべり座り)を防ぐ
座面前方を高く(後方を下げて軽く後傾)する。体に合わせたモールド型水平・平面の座面では骨盤が前へ滑り出て伸展パターンを誘発する
胸ベルト・体幹の側方支持付ける体幹の前方への崩れや側屈を防ぎ、上肢・頭部の活動を引き出す
ヘッドサポート(ヘッドレスト)頸定不良なら付ける。背もたれは頭部まで支える高さ頭部を正中・軽度屈曲に保つと緊張性反射の影響が減る
背もたれの角度リクライニング・ティルトで軽く後傾。垂直固定にしない支持面を広げ重力の影響を減らす。伸展パターンや姿勢の崩れに対応
下肢内転が強くはさみ肢位になるなら外転パッド(股間パッド)。足底は足台に接地足底が浮くと骨盤が後傾し体幹が崩れる

後弓反張(後弓姿勢)・はさみ肢位を伴う伸展パターン優位の児に「座面を水平に保つ」は誤り。座面前方を高くして股関節屈曲位を保つ。重度の痙直型四肢麻痺児の車椅子(座位保持)では胸と骨盤をベルトで固定し、座面は床面と平行にせず、平面の座面にせず、背もたれは肩までで止めない。

2-5 車椅子の設定(自走する児)

座位が保て自分で駆動・移乗する児(GMFCSⅢ前後)では、重度児の座位保持装置とは逆に駆動と移乗を妨げない設定にする。原則は残存能力を活かし、本人の自立を優先すること。

項目自走・移乗できる児の設定誤りになる設定
フットサポートスイングアウト式(外側へ開く・着脱)。足元を空けて立ち座り・乗り移りを容易に—
座面高足が床・足台に届く高さ。床上移動(四つ這い)が自立していれば床からはい上がれる低めの高さ標準より高くする(駆動・移乗がしにくい)
背もたれの高さ低め(自走なら肩甲骨下角より低い程度)。肩甲帯・上肢の動きを妨げない肩の高さまで
背もたれの角度固定式リクライニング式(重く大きくなり操作性が落ちる・活動を制限)
ヘッドサポート頭部保持が可能なら不要付ける(上肢動作の妨げ)
座幅殿部の幅に合わせ、広すぎないようにする。成長には調節機構やクッションで対応成長を見越して広くする(骨盤が側方へずれ、側弯・骨盤傾斜を助長)

重度(GMFCSⅣ・Ⅴ)ほどヘッドサポート・ティルト/リクライニング・胸ベルト・骨盤ベルトを足す。自走できる児ほど背もたれ低め・リクライニングなし・スイングアウト式フットサポート。どちら向きの問題かを症例の座位能力と移動手段で先に決める。

2-6 NICUの低出生体重児と重症心身障害児

NICUのポジショニング

早産・低出生体重児は生理的屈曲が未熟で、頭頸部・体幹が伸展し、四肢が外転・外旋(カエル様肢位)しやすい。ポジショニングは子宮内に近い屈曲・正中位指向を再現し、ネスト(巣)で包み込む(ネスティング)。

部位適切(誘導する方向)不適切
頭頸部・体幹軽度屈曲・正中位頭部(頸部)伸展位・体幹伸展位
肩甲帯前方突出(前方・下制方向)肩甲骨挙上位(肩のすくみ)
上肢肩関節内転・内旋気味に、手を正中・口元へ(自己鎮静を助ける)肩関節外転位
股関節内外転中間位〜内転、軽度屈曲外転位(カエル肢位)

「伸展・外転・挙上=NG」「屈曲・内転・内旋・前方突出・正中=OK」と方向で覚える。

NICU入室中の低緊張児の優先順位

優先度が高いのは呼吸理学療法、ポジショニング、運動発達指導、保護者への育児指導。装具療法は外来期以降の選択肢で、NICU入室中の優先順位は低い。

重症心身障害児の気管吸引(人工呼吸器使用中)

項目原則
モニタリング吸引中はSpO₂で酸素化を確認する
効果判定吸引後に聴診し、分泌物の除去と換気を確かめる
吸引圧20 kPa(150 mmHg)を超えない。小児ではさらに低圧で
挿入の深さカテーテルは気管分岐部より手前まで
1回の吸引時間10〜15秒以内(長いほど低酸素)

「20 kPa以上に設定」「分岐部の先まで挿入」「1回30秒程度」はいずれも誤り。数字は上限として覚える。