第3章|骨格筋の生理と作用

運動学 第3章

3-1 骨格筋の階層構造とサルコメア

  • 筋 → 筋束 → 筋線維(=筋細胞) → 筋原線維 → 筋節(サルコメア)。筋原線維は筋節に細分化され、筋節が収縮の最小単位
  • 筋線維は筋芽細胞が融合してできた多核の合胞体(核は辺縁に多数)。単核ではない
  • ミトコンドリアを多数もつ(とくにType Ⅰで豊富)。骨格筋は健常成人で体重の約40%(30〜40%)を占める
  • アクチン=細いフィラメント(約6nm)/ミオシン=太いフィラメント(約15nm)。ATPアーゼ活性をもつのはミオシン頭部でアクチンではない
部位中身収縮時
A帯(暗帯)ミオシンの全長。アクチンとの重複部を含む長さ不変
I帯(明帯)アクチンのみ。ミオシンなし短縮
H帯A帯の中央。ミオシンのみでアクチンが届かない短縮
Z帯(Z膜)I帯の中央。アクチンの付着部長さ不変(互いに近づく)
筋節(サルコメア)Z帯からZ帯まで短縮

ミオシンが存在するのはA帯とH帯だけ。I帯・Z帯にはない。「筋節」はI帯・Z帯まで含むので、ミオシンの所在としては選ばない。

「A帯を明帯という」は誤り → A帯=暗帯、I帯=明帯(A=暗と語呂で固定)。「A帯は収縮時に短縮する」も誤り → 不変。「Z帯は収縮時に伸長する」も誤り → 伸長せずZ帯どうしが近づく。

筋線維を包む膜と管

  • 筋外膜(筋全体)→筋周膜(筋束)→筋内膜(筋線維1本)の3層で包まれる
  • T管は筋線維膜が内部へ落ち込んだ管で活動電位を深部へ伝える。T管1本+両側の筋小胞体終末槽2つで三つ組(トライアド)をつくる
  • 筋節の長さは約2〜2.5μm。筋線維膜の下には再生を担う筋衛星細胞がある

筋の3分類

骨格筋心筋平滑筋
横紋・配列あり(規則的)あり(介在板)なし(不規則配列)
随意性随意不随意・自動能不随意(自律神経)
収縮速度速い中間遅いが持続的
代謝有酸素+解糖有酸素解糖系に依存
断面積あたりの張力骨格筋より大きい

平滑筋は横紋をもたない代わりに少ないエネルギーで強い緊張を長く保てる(血管・消化管の緊張維持)。「平滑筋は骨格筋より収縮が速い」「筋フィラメントが規則的に並ぶ」「随意的な運動が可能」「断面積あたりの張力が小さい」はいずれも誤り。

3-2 興奮収縮連関と滑走説

  1. 運動神経終末からアセチルコリン放出。神経筋接合部の伝達は一方向性(神経→筋のみ)
  2. 筋線維に活動電位 → T管を内部へ伝わる
  3. 筋小胞体からCa²⁺が放出される(貯蔵しているのはCa²⁺。Na⁺・K⁺ではない)
  4. Ca²⁺がトロポニン(トロポニンC)に結合
  5. トロポミオシンがずれ、アクチン上のミオシン結合部位が露出
  6. ミオシン頭部が結合(連結橋)→ ミオシンATPアーゼがATPを分解して首振り
  7. アクチンがミオシン間へ滑り込み筋節が短縮(フィラメント自体は縮まない=滑走説
  • 弛緩はCa²⁺がSERCAで筋小胞体へ再取り込みされて起こる
  • 電気刺激では筋活動電位が収縮に先行する
  • 最大収縮では筋線維は安静長の約30〜40%短縮する(約10%は誤りの定番)

「ATPを分解する酵素はアクチンにある」→ 正しくはミオシン頭部。「筋小胞体からK⁺放出で収縮が始まる」→ Ca²⁺。「Ca²⁺はトロポミオシンに結合」→ トロポニン。「神経筋接合部の伝達は両方向性」→ 一方向性

神経筋接合部:神経終末のシナプス小胞からACh放出 → 終板のニコチン性ACh受容体に結合 → 終板電位 → 筋の活動電位。AChはアセチルコリンエステラーゼで速やかに分解されるため伝達は1回ごとに終了する。重症筋無力症は受容体の障害、有機リン中毒は分解酵素の阻害で起こる。

3-3 筋線維タイプの対比

項目Type ⅠType ⅡAType ⅡB(Ⅱx)
別名遅筋・赤筋中間型速筋・白筋
収縮速度遅い速い最速
単一線維の発生張力
線維径細い太い
疲労耐性高い低い(易疲労)
代謝有酸素(酸化系)中間解糖系(無酸素)
酸化酵素活性高い低い
解糖系酵素活性低い高い
ミオグロビン・ミトコンドリア・毛細血管多い少ない

張力・収縮速度はⅡB>ⅡA>Ⅰ、疲労耐性(持久力)はⅠ>ⅡA>ⅡB順序がちょうど逆。姿勢保持・抗重力筋(ヒラメ筋)はType Ⅰ優位、瞬発系はType Ⅱ優位。

Type Ⅱと比べたType Ⅰの特徴として「易疲労性」「収縮速度が速い」「ミオグロビンが少ない」「ミトコンドリア密度が低い」「酸化酵素活性が低い」「径が太い」はすべて誤り。Type Ⅰで低いのは解糖系酵素活性と発生張力だけ

  • 線維組成には部位差・個人差がある。ヒラメ筋などの抗重力筋はType Ⅰが多く、瞬発的に働く筋はType Ⅱの比率が高い
  • マラソン型=Type Ⅰ、短距離・パワー型=Type ⅡB とイメージで結びつけると序列を取り違えない

3-4 運動単位とサイズの原理

  • 運動単位=1個の運動ニューロン+それが支配する筋線維群。遠心性線維のみで、求心性(感覚)線維は含まない
  • 1つの筋は多数の運動単位で構成される(単一ではない)
  • 同じ運動単位に属する筋線維は同期して興奮する
  • 神経支配比が小さいほど微細な運動ができる(外眼筋・手内在筋)。大きい筋は大きな力を出す(大腿四頭筋など)
  • サイズの原理=小さい(低閾値)運動単位=遅筋から先に動員され、強い収縮ほど大きい(高閾値)=速筋が加わる
  • 低負荷の運動では赤筋(遅筋)が先に活性化する。伸張反射でも弱い刺激で先に活動を始めるのは遅筋
  • 筋力の調節は2通り。①動員=働かせる運動単位の数を増やす、②発火頻度=1つの運動単位の放電頻度を上げる
  • 神経支配比の目安:外眼筋・手内在筋は1ニューロンあたり数〜十数本、大腿四頭筋・下腿三頭筋は数百〜千本

「大きい運動単位/活動電位の大きな運動単位が先に活動する」は誤り → 小さいものから先。「神経支配比が大きいほど精密」も誤り → 小さいほど精密。「運動単位に求心性線維が含まれる」も誤り。

3-5 単収縮・強縮・階段現象

  • 単収縮(攣縮)=支配神経への単一刺激で起こる一過性の収縮
  • 階段現象(トレッペ)=一定間隔の刺激を続けると収縮力が次第に増大する
  • 刺激頻度を上げると単収縮が加重する。低頻度では不完全強縮数十Hz以上の高頻度で完全強縮(融合)
  • 速筋は収縮・弛緩が速いため、強縮を起こす刺激頻度の閾値が高い。遅筋は低頻度で強縮しやすい
  • 強縮の張力は単収縮の数倍に達する。生体内の随意収縮は不完全〜完全強縮の状態で行われている

「刺激頻度を5〜6Hzに上げると強縮が起こる」は誤り → 5〜6Hzでは不完全強縮にとどまる。完全強縮には数十Hz以上が必要。

3-6 筋張力と長さ・速度の関係

  • 全張力=活動張力+静止張力(受動張力)。活動張力は全張力から静止張力を差し引いたもの
  • 長さ–張力関係:活動張力は至適長(安静時筋長付近)で最大となる山型。長すぎても短すぎても低下する
  • 力–速度関係(Hill):求心性(短縮性)収縮では速度が速いほど最大張力は小さい。張力が一定なら負荷が小さいほど短縮速度は速い
  • 収縮様式別の発揮張力は遠心性>等尺性>求心性(遠心性は求心性の約1.3〜1.5倍)
  • 筋力は生理的断面積に比例。羽状筋は力に有利、平行筋(紡錘状筋)は速度・可動範囲に有利

「全張力と静止張力の和が活動張力」は誤り → 和になるのは全張力。「活動張力は筋長が長くなるほど大きい」も誤り。「求心性は遠心性より大きな張力を出せる」も誤り →

収縮様式

様式筋長内容
等尺性(アイソメトリック)不変関節運動を伴わない。関節への負担が小さい
求心性(短縮性)短縮張力>負荷。物を持ち上げる動作
遠心性(伸張性)伸張張力<負荷。降ろす・ブレーキ動作。発揮張力が最も大きく遅発性筋痛を起こしやすい
等速性(アイソキネティック)専用機器で角速度を一定に保つ。全可動域で最大負荷をかけられる

3-7 固有受容器と脊髄反射

受容器位置感知するもの求心線維反射
筋紡錘錘内筋線維(筋腹内・筋と並列)筋の長さ・伸張速度Ⅰa(一次終末・動的)+(二次終末・静的)伸張反射(単シナプス)
ゴルジ腱器官(腱紡錘)筋腱移行部(筋と直列)筋の張力ⅠbⅠb抑制(自原抑制)
  • 腱をたたいて筋を急速に伸ばすと起こる単収縮=腱反射。経路は筋紡錘→Ⅰa→脊髄→α運動ニューロン→筋収縮の単シナプス反射
  • 折りたたみナイフ現象=痙縮筋を他動伸張すると強く抵抗した後に急に抵抗が消える。関与する求心性線維はⅠb(ゴルジ腱器官の自原抑制)でⅠaではない
  • α運動線維は錘外筋、γ運動線維は錘内筋を支配する遠心性線維。γが錘内筋を収縮させて筋短縮中も紡錘の感度を保つのがα-γ連関
  • 相反抑制(Ⅰa抑制)=Ⅰaの側枝が介在ニューロンを介して拮抗筋のα運動ニューロンを抑制し、主動作筋が働くとき拮抗筋が緩む
  • 腱反射(伸張反射)は単シナプス反射。Ⅰb抑制や屈曲反射は介在ニューロンを挟む多シナプス反射

Golgi装置(ゴルジ体)は蛋白の修飾・分泌を行う細胞小器官で感覚受容器ではない。受容器は「Golgi腱器官」。表記が「装置」なら受容器ではないと判断する。

3-8 末梢神経線維の分類と皮膚受容器

線維群番号機能
Ⅰa・Ⅰb錘外筋線維を支配するα運動線維/筋紡錘Ⅰa・腱器官Ⅰbの固有感覚
触圧覚・筋紡錘二次終末
錘内筋線維を支配するγ運動線維
有髄。速く鋭い一次痛・温度覚
B有髄。自律神経の節前線維
C無髄。遅く鈍い二次痛・温度覚、自律神経節後線維
  • 直径・伝導速度の順はAα>Aβ>Aγ>Aδ>B>C。Aαは70〜120m/s、C線維は直径0.4〜1.2μm・0.5〜2.0m/sでB線維(1〜3μm)より細い
  • 疼痛を伝えるのはAδとCの2つ。けが直後の鋭い痛み(Aδ)→ じわっとくる痛み(C)
  • 有髄線維は跳躍伝導を行うため速い。C線維は無髄で跳躍伝導ができず、骨格筋の支配も筋紡錘の求心路も担わない
受容器感覚順応
Meissner小体触覚(軽い接触)速順応
Merkel盤触圧覚遅順応
Pacini小体振動・速い圧変化速順応
Ruffini終末持続的な圧・皮膚の伸展遅順応
自由神経終末痛覚・温度覚(被膜をもたない)

「Aβが錘内筋を支配」→ 。「Aγが皮膚の痛覚を伝える」→ 痛覚はAδ・C。「Aδが自律神経節前線維」→ B。「C線維が圧覚を伝える」→ 圧覚は。「C線維は有髄」→ 無髄

CRPS(複合性局所疼痛症候群):typeⅠ(旧RSD)=明らかな神経損傷なし/typeⅡ(旧カウザルギー)=明らかな神経損傷あり。痛覚過敏・発汗異常・皮膚温異常・Sudeck骨萎縮は両タイプ共通で鑑別に使えない。typeⅡにだけ認められるのは末梢神経伝導検査異常

3-9 エネルギー供給系と筋疲労

供給系酸素持続特徴
ATP-CP系(クレアチンリン酸系・非乳酸性)無酸素細胞質約8〜10秒運動開始直後に最初に使われる。乳酸を産生しない
解糖系(乳酸系)無酸素細胞質約30秒〜数分グルコース→ピルビン酸→酸素不足で乳酸へ。正味ATP2分子
酸化系(有酸素系)有酸素ミトコンドリア長時間TCA回路+電子伝達系。ATPを大量(約30分子)産生し持久力を支える
  • ATPは体内にごくわずかしか貯蔵できず、運動中は常に再合成が必要
  • 嫌気的代謝(解糖系)の生成物はピルビン酸クエン酸・イソクエン酸・コハク酸・フマル酸・リンゴ酸はすべてTCA回路=好気的代謝の中間産物で、混同が定番の引っかけ
  • ATPを産生する細胞小器官はミトコンドリア。リボソーム=蛋白合成、粗面小胞体=蛋白合成の場、滑面小胞体=脂質合成・Ca²⁺貯蔵、Golgi装置=修飾・分泌、リソソーム=分解、中心小体=紡錘体形成
  • クレアチンリン酸はADPへリン酸を渡してATPを即時に再合成する。産生された乳酸は肝臓で糖新生に回される(コリ回路
  • エネルギー基質:運動初期・高強度は糖質、20分以上続く有酸素運動では脂質の利用割合が高まる。呼吸商は糖質1.0・脂質0.7で、下がるほど脂質利用が優位

「20分以上の有酸素運動では脂質より糖質が利用される」は誤り → 長引くほど脂質優位になる(脂肪燃焼に20分以上が推奨される根拠)。「解糖系の過程をTCA回路という」「酸化系は無酸素性」「ATP-CP系は有酸素性」もすべて誤り。

AT(嫌気性代謝閾値)=運動強度を上げる過程で血中乳酸が急増し始める点(低下する点ではない)。CPX(心肺運動負荷試験)でV-slope法により算出できる。AT以降は無酸素性のATP産生が加わり、乳酸増加→重炭酸で緩衝→CO₂排出増→換気亢進、pHは低下する。健常者では最大運動でもPaO₂・SaO₂は低下しない。より正確には運動の全経過を通じてほぼ一定に保たれ、低下も上昇もしない(換気量と肺血流が同時に増えてバランスが保たれるため)。したがって運動初期でも「動脈血酸素分圧(PaO₂)が上昇する」とする肢は誤りで、最大運動付近で「SaO₂が低下し始める」とする肢も誤り(低下するのは呼吸器疾患などの病態)。VO₂max=全身持久力の指標。

筋疲労時の増減:増える=ADP・無機リン酸・乳酸・H⁺/減る=ATP・グリコーゲン・pH(酸性化)。筋小胞体のCa²⁺取り込み・放出機能も低下する。国試では「筋疲労の化学的原因=乳酸の蓄積」として扱われる。

3-10 トレーニング適応・加齢・運動時の血流

持久力トレーニングの適応

  • 変化する=安静時心拍数↓・一回拍出量↑・最大心拍出量↑・VO₂max↑・毛細血管密度↑・ミトコンドリア↑・筋の脂肪代謝能↑・速筋/遅筋の割合(ⅡB→ⅡAへ移行)
  • 変化しにくい=最大心拍数。おおむね「220−年齢」で年齢に規定され、トレーニングでほとんど変わらない(Karvonen法の予備心拍数=最大心拍数−安静心拍数もこの固定値を使う)

加齢による変化(サルコペニア)

  • 筋断面積は減少し、Type Ⅱ(速筋)線維の萎縮が強い
  • 遅筋が比較的保たれるため持久力は筋力ほど低下しない
  • 高齢者でもレジスタンストレーニングによる筋力増強効果は得られる

「加齢で運動単位数が増加する」は誤り → 運動ニューロンの減少により運動単位の数は減少する(残存ニューロンが脱落線維を再支配するため、1運動単位あたりの筋線維数は増える)。

不活動と筋力増強の原則

  • 廃用性筋萎縮は抗重力筋・遅筋(Type Ⅰ)優位に進む(加齢がType Ⅱ優位なのと対照的)
  • 筋力増強の初期数週間は神経性適応(動員数の増加・発火の同期化)が主体で、筋肥大は遅れて現れる
  • 過負荷の原則:最大筋力の20〜30%以下の負荷では筋力は向上しない

運動時の局所血流調節

臓器刺激反応
骨格筋乳酸・アデノシンなど代謝産物の蓄積拡張(活動筋へ血流増加)
心臓低酸素冠細動脈は拡張
二酸化炭素分圧上昇拡張
低酸素収縮(低酸素性肺血管収縮HPV)=体循環と逆
皮膚交感神経亢進収縮