第4章|上肢の運動学

運動学 第4章

4-1 肩複合体の構成と関節の型

肩を構成する5つの関節

  • 解剖学的関節:胸鎖関節・肩鎖関節・肩甲上腕関節
  • 機能的関節:肩甲胸郭関節・第2肩関節(肩峰下)

上肢の関節の型と運動軸(自由度)

関節軸(自由度)運動
肩甲上腕関節球関節3軸屈伸・内外転・回旋
胸鎖関節鞍関節(平面関節とも)3軸的挙上下制・前後進・回旋
腕尺関節蝶番関節1軸肘屈伸のみ
上橈尺関節車軸関節1軸前腕回内・回外
橈骨手根関節楕円(顆状)関節2軸掌背屈+橈尺屈
母指CM関節鞍関節2軸対立が可能
MP(MCP)関節楕円(顆状)関節2軸屈伸+内外転
PIP・DIP関節蝶番関節1軸屈伸のみ

1軸=蝶番・車軸/2軸=楕円・鞍/3軸=球。「運動軸が2つの関節」を問われたら上肢では橈骨手根関節(または母指CM関節)。

肩甲骨の運動用語

  • 上方回旋=関節窩が上を向く/下方回旋=関節窩が下を向く
  • 外転=前方突出(プロトラクション)内転=後退(リトラクション)
  • 上肢の挙上には肩甲骨の上方回旋が必須。第2肩関節(肩峰下)は骨頭と烏口肩峰アーチの間のすべり機構

肩甲上腕リズム

  • 肩の外転は肩甲上腕関節:肩甲骨上方回旋=2:1で分担する
  • 計算法=全外転角×2/3が上腕骨、×1/3が肩甲骨
全外転角肩甲上腕関節肩甲骨上方回旋
90°60°30°
150°100°50°
180°120°60°

「上腕:肩甲骨=1:2」は誤り → 2:1。「肩関節は臼状関節」も誤り → 球関節(臼状関節は股関節型の呼称)。「胸鎖関節は蝶番関節」「腕尺関節は球関節」「MP関節は鞍関節」もすべて誤り。

4-2 肩甲骨(肩甲胸郭関節)の運動と筋

肩甲骨の運動主動作筋
挙上僧帽筋上部・肩甲挙筋・菱形筋
下制鎖骨下筋・小胸筋・僧帽筋下部・広背筋
外転(前方突出)前鋸筋
内転(後退)菱形筋・僧帽筋中部
上方回旋前鋸筋+僧帽筋上部・下部
下方回旋菱形筋・肩甲挙筋・小胸筋
胸郭への圧着(固定)前鋸筋

上方回旋は前鋸筋・僧帽筋上部・僧帽筋下部のフォースカップル。前鋸筋と僧帽筋上部の共通作用=上方回旋(挙上・内転は共通しない)。僧帽筋下部は下制+上方回旋を同時に行う。

前鋸筋(長胸神経支配)

  • 作用は3つ=肩甲骨の外転・上方回旋・胸郭への固定。肩関節屈曲位の保持に必須
  • 麻痺=翼状肩甲。壁を押させると肩甲骨内側縁全体が胸郭から浮く
  • 僧帽筋麻痺(副神経)との鑑別:僧帽筋麻痺では肩甲骨が下方・外側へ偏位し外転で目立つ

肩甲帯・背部の筋の付着部

起始停止
広背筋下位胸椎〜腰椎・仙骨の棘突起、腸骨稜、第9〜12肋骨、肩甲骨下角上腕骨小結節稜
僧帽筋後頭骨・項靱帯・胸椎棘突起鎖骨外側1/3・肩峰・肩甲棘
大菱形筋胸椎棘突起肩甲骨内側縁
肩甲挙筋上位頸椎横突起肩甲骨上角〜内側縁上部
前鋸筋第1〜9肋骨の外側面肩甲骨内側縁(前面)
小胸筋第3〜5肋骨烏口突起
大円筋肩甲骨下角上腕骨小結節稜
鎖骨下筋第1肋骨鎖骨下面

肋骨に付着する筋=前鋸筋・小胸筋・大胸筋(肋骨部)・肋間筋・腹直筋・横隔膜・広背筋肋骨に付かない=僧帽筋・菱形筋・肩甲挙筋・小円筋・肩甲下筋(いずれも脊柱か肩甲骨に付く)。「肩甲挙筋は肩甲切痕に停止」は誤りで上角〜内側縁上部

「前鋸筋は下方回旋」「僧帽筋上部は外転」「菱形筋は下制」「小胸筋は挙上」はすべて誤り → 正しくは前鋸筋=外転・上方回旋/僧帽筋上部=挙上・上方回旋/菱形筋=内転・挙上・下方回旋/小胸筋=下制・下方回旋
肩外転挙上で最も関与が少ないのは肩甲挙筋(挙上・下方回旋筋なので上方回旋に逆行する)。

4-3 肩甲上腕関節の運動と筋

運動主動作筋
屈曲三角筋前部・大胸筋鎖骨部・烏口腕筋
伸展広背筋・大円筋・三角筋後部(上腕三頭筋長頭が補助)
外転三角筋中部・棘上筋(初期0〜30°は棘上筋)
内転大胸筋・広背筋・大円筋・烏口腕筋
外旋棘下筋・小円筋・三角筋後部
内旋肩甲下筋・広背筋・大円筋・大胸筋・三角筋前部
水平屈曲(水平内転)前方の筋=大胸筋・三角筋前部・烏口腕筋
水平伸展(水平外転)後方の筋=三角筋後部・棘下筋・小円筋・広背筋・大円筋

三角筋は部位で作用が分かれる。前部=屈曲・内旋/中部=外転/後部=伸展・外旋。腋窩神経支配で、外転はおよそ15〜90°で主役となる(0〜30°の初動は棘上筋)。

広背筋・大円筋=伸展・内転・内旋の3点セットで丸ごと覚える。逆に烏口腕筋=屈曲・内転(筋皮神経支配)。水平面の作用は「肩の軸より前の筋か後ろの筋か」で決まる。

頻出の誤り組合せ → 正しい対応
「屈曲=棘下筋/棘上筋」→ 棘下筋は外旋、棘上筋は外転
「伸展=棘上筋」→ 伸展は広背筋・大円筋
「外転=上腕三頭筋/棘下筋」→ 上腕三頭筋長頭は肩の伸展・内転補助。
「内旋=烏口腕筋/小円筋」→ 内旋は肩甲下筋など、小円筋は外旋。
「外旋=肩甲下筋/大円筋」→ どちらも内旋筋。
「広背筋は屈曲」「上腕二頭筋は肩外旋」「上腕三頭筋は肩内旋」もすべて誤り。

4-4 回旋筋腱板(ローテーターカフ)

停止作用神経代表的テスト
棘上筋大結節(上部)外転(初期0〜30°)肩甲上神経emptyキャンテスト
棘下筋大結節(中部)外旋肩甲上神経腹臥位・肩外転90°での外旋抵抗
小円筋大結節(下部)外旋腋窩神経同上(外旋)
肩甲下筋小結節内旋肩甲下神経lift-offテスト・belly press
  • 頭文字でSITS(棘上・棘下・小円・肩甲下)。骨頭を関節窩へ引きつけて動的に安定させる
  • 大円筋は腱板ではない(小円筋との取り違えが定番の引っかけ)。三角筋・僧帽筋・上腕筋・肩甲挙筋・広背筋・前鋸筋もすべて腱板ではない
  • 停止は小結節=肩甲下筋だけ、残る3筋は大結節。上腕二頭筋は長頭が関節上結節・短頭が烏口突起
  • 断裂は棘上筋が最多。60〜120°のpainful arc(有痛弧)

lift-offテスト=手背を腰に当て、そこから手を背部から離せるか。離せない=肩甲下筋(内旋)の筋力低下。外旋筋(棘下・小円)の検査ではない。

図で運動方向から筋を逆算する出題が多い。腹臥位・肩90°外転・肘90°屈曲で前腕を上(背側)へ挙げる=外旋=棘下筋・小円筋同じ肢位で前腕を下げる、または手背を腰から持ち上げる=内旋=肩甲下筋。ゴムバンドやダンベルで外旋方向に抵抗する運動=棘下筋の強化。

4-5 上肢の神経支配と局所解剖

神経支配筋麻痺の徴候
腋窩神経(後神経束)三角筋・小円筋外転障害+上腕外側上部の感覚障害
肩甲上神経棘上筋・棘下筋外転初期・外旋の低下(皮膚感覚はなし)
肩甲下神経肩甲下筋・大円筋内旋低下(運動枝のみ)
胸背神経(後神経束)広背筋肩伸展・内転の低下
長胸神経前鋸筋翼状肩甲
筋皮神経(外側神経束)上腕二頭筋・上腕筋・烏口腕筋肘屈曲・前腕回外の低下
橈骨神経上腕三頭筋・肘筋・回外筋・手根伸筋群・指伸筋(後骨間神経を分枝)下垂手
正中神経円回内筋・方形回内筋・橈側手根屈筋・浅指屈筋・母指球筋(短母指外転筋・母指対立筋母指対立障害・猿手
尺骨神経骨間筋・小指外転筋・母指内転筋・短小指屈筋・尺側手根屈筋鉤爪手・Froment徴候

ペアで固定して覚える。棘上・棘下=肩甲上神経/小円筋・三角筋=腋窩神経/肩甲下筋・大円筋=肩甲下神経。腱板の中で小円筋だけ腋窩神経が最大のひっかけ。
回旋も対で。回外筋=橈骨神経/円回内筋・方形回内筋=正中神経

腕神経叢の神経束と分枝

  • 後神経束→腋窩神経・橈骨神経・胸背神経・肩甲下神経
  • 外側神経束筋皮神経(+正中神経の外側根)
  • 内側神経束→尺骨神経(+正中神経の内側根)

外側腋窩隙(四辺形間隙)

  • 上=小円筋/下=大円筋/内=上腕三頭筋長頭/外=上腕骨
  • 通るもの=腋窩神経・後上腕回旋動脈
  • 内側腋窩隙(三角隙)=小円筋・大円筋・三頭筋長頭で囲まれ、肩甲回旋動脈が通る

肩関節は前(前下方)脱臼が最多で、合併症は腋窩神経麻痺。整復後に上腕外側上部の感覚鈍麻を訴えたらこれ。
神経伝導検査ではCMAP振幅の低下=軸索障害伝導速度の低下=脱髄。尺骨神経のみ振幅が著減していれば、障害される運動は小指外転(小指外転筋)であって、母指対立(正中)や指伸展(橈骨)ではない。

「腋窩神経は広背筋を支配」→ 誤り。広背筋は胸背神経
「腋窩神経は後骨間神経を分枝」→ 誤り。後骨間神経は橈骨神経の枝。
「腋窩神経は上腕内側の感覚」→ 誤り。上腕外側
「腋窩神経は外側神経束から分枝」→ 誤り。後神経束(外側神経束からは筋皮神経)。
「棘上筋=肩甲下神経」「三角筋=肩甲上神経」「大円筋=肩甲上神経」「肩甲下筋=腋窩神経」もすべて誤り。
「背側骨間筋・短母指外転筋・方形回内筋は橈骨神経支配」→ 誤り。順に尺骨・正中・正中(前骨間)

4-6 肘関節と前腕の運動

  • 腕尺関節(蝶番)・腕橈関節・上橈尺関節(車軸)+下橈尺関節
  • 運搬角(肘外反)=伸展位で前腕がやや外側へ向く生理的角度、約10〜15°

肘屈筋3つの区別(頻出)

停止作用神経
上腕二頭筋橈骨粗面肘屈曲+前腕回外(+肩屈曲を補助)筋皮神経
上腕筋尺骨粗面肘屈曲のみ(回旋作用なし)筋皮神経
腕橈骨筋橈骨茎状突起肘屈曲+前腕を中間位へ戻す(回外位からは回内)橈骨神経

前腕の回内・回外

運動主動作筋補助筋
回内円回内筋・方形回内筋腕橈骨筋(回外位から)・橈側手根屈筋
回外回外筋・上腕二頭筋腕橈骨筋(回内位から)

上腕二頭筋は肘屈曲位でもっとも強い回外筋(栓抜き・ねじ回し動作)。肘伸展は上腕三頭筋+肘筋(ともに橈骨神経)。
主動作筋が選択肢になく補助筋(橈側手根屈筋・腕橈骨筋)が正答になる回内問題のパターンに注意。

停止部の入れ替えが定番の誤り選択肢上腕二頭筋=橈骨粗面/上腕筋=尺骨粗面腕橈骨筋=橈骨茎状突起、肘筋=尺骨近位後面、橈側手根屈筋=第2中手骨底。下肢も同様に半膜様筋=脛骨内側顆/大腿二頭筋=腓骨頭前脛骨筋=内側楔状骨・第1中足骨底(第2中足骨底ではない)。

「上腕筋は前腕回外/肘伸展」は誤り → 屈曲のみ(尺骨停止なので回旋できない)。
「腕橈骨筋は肘伸展」は誤り → 屈曲。「円回内筋は肘伸展」も誤り → 回内+肘屈曲の補助
「肘筋は肘屈曲」は誤り → 伸展の補助。「烏口腕筋は肘の運動に関与」も誤り → 肩の屈曲・内転のみ。
「長橈側手根伸筋は前腕回内」は誤り → 手関節背屈・橈屈

4-7 手関節の運動と筋

  • 橈骨手根関節=楕円(顆状)関節・2軸。掌屈90°・背屈70°・橈屈25°・尺屈55°
  • 橈屈の可動域は前腕回内位より回外位で大きい
  • 橈屈の主動作筋=橈側手根屈筋・長橈側手根伸筋・短橈側手根伸筋。補助=長母指外転筋・長母指屈筋・長/短母指伸筋
  • 尺屈=尺側手根屈筋・尺側手根伸筋。掌屈=橈側手根屈筋・尺側手根屈筋・長掌筋

「橈側を通る腱は橈屈を助け、尺側を通る腱は尺屈を助ける」という走行の原則で未知の筋も判定できる。母指球筋(短母指外転筋・短母指屈筋)は手関節をまたがないので手関節運動には関与しない。

手根屈筋の停止部

停止作用
橈側手根屈筋第2(一部第3)中手骨底掌屈+橈屈(+回内補助)
尺側手根屈筋豆状骨・有鈎骨・第5中手骨底掌屈+尺屈
長掌筋手掌腱膜掌屈のみ
浅指屈筋第2〜5指の中節骨底PIP屈曲
円回内筋橈骨外側面中央前腕回内

前腕の筋配列(断面図・矢印図の対策)
掌側浅層は橈側から円回内筋→橈側手根屈筋→長掌筋→浅指屈筋、深層に深指屈筋・長母指屈筋正中神経は前腕中央尺骨神経は尺骨側を走る。
背側浅層は橈側から腕橈骨筋→長橈側手根伸筋→短橈側手根伸筋の順。したがって「腕橈骨筋のすぐ尺側」は長橈側手根伸筋。総指伸筋・示指伸筋・長母指伸筋はより尺側・深層。

手のアーチと対立運動

  • 手のアーチは横アーチ(近位=手根・遠位=中手骨頭)・縦アーチ・斜アーチの3系統。斜アーチ=母指と第2〜5指を結ぶ対立方向のアーチで、つまみ動作をつくる。「手のアーチは横アーチのみ」は誤り
  • 対立運動で横アーチを深くするのは母指CM関節(鞍関節)と第5CM関節。第2・第3CM関節はほぼ動かない固定要素
  • 母指対立筋・短母指外転筋は正中神経支配。母指内転筋だけ尺骨神経
関節側副靱帯が緊張する肢位固定するときの肢位
MP(MCP)関節屈曲位で緊張・伸展位で弛緩(中手骨頭が幅広いカム形状で、屈曲すると靱帯が引き伸ばされる)MP屈曲位。伸展位で固定すると靱帯が短縮して屈曲拘縮になる
PIP関節伸展位で緊張・屈曲位で弛緩(MPと逆IP伸展位

MPとPIPで緊張する肢位が逆。この2つを合わせた結果が良肢位=MP屈曲-IP伸展(内在筋プラス肢位)。PIPの性質をMPにそのまま当てはめると必ず逆を答えるので、必ず関節名で区別する。

  • 把握様式鉤形握り(フックグリップ)=母指を使わず、第2〜5指の屈曲だけで引っ掛ける握り(鞄の取っ手)で、母指の対立運動は不要。対立を要するのは握力把握(円筒握り・球握り)と精密把握(つまみ)のほう
  • 手掌の皮膚は厚く手掌腱膜で深部に固定されており、手背の皮膚に比べ伸展性に乏しい。逆に手背は皮下組織が疎で伸展性に富み、浮腫が出やすいのも手背側

「側副靱帯はMP関節伸展で緊張する」は誤り → MP屈曲で緊張する(緊張するのが伸展位なのはPIP)。
「手掌の皮膚は手背の皮膚に比べ伸展性に富む」も誤り → 乏しい(手背のほうが富む)。
「鉤形握りは母指と他の指の対立運動により可能となる」も誤り → 母指を使わない握りで対立は不要。
「手のアーチは横アーチのみ」も誤り → 横(近位・遠位)+縦+斜のアーチからなる。

「手関節背屈に長母指外転筋が作用する」は誤り → 長母指外転筋は母指外転と手関節橈屈。背屈は長・短橈側手根伸筋、尺側手根伸筋
「橈屈の可動域は回内位で大きい」は誤り → 回外位で大きい
「PIP関節の側副靱帯は伸展位で弛緩」は誤り → 伸展位で緊張・屈曲位で弛緩
「対立運動の横アーチ変化に第2CM関節が関与」は誤り → 第5CM関節が主役。

4-8 手指の筋と内在筋プラス肢位

作用神経
浅指屈筋PIP関節屈曲(中節骨に停止)正中神経
深指屈筋DIP関節屈曲(末節骨に停止)正中・尺骨神経
総指伸筋MP関節伸展橈骨神経
虫様筋MP屈曲+PIP・DIP伸展正中・尺骨神経
背側骨間筋指の外転(DAB)+MP屈曲・IP伸展尺骨神経
掌側骨間筋指の内転(PAD)+MP屈曲・IP伸展尺骨神経
短小指屈筋小指MP屈曲尺骨神経
小指外転筋小指外転尺骨神経
短母指伸筋母指MP伸展橈骨神経
長母指伸筋母指IP伸展橈骨神経
短母指屈筋母指MP屈曲正中・尺骨神経
母指内転筋母指を手掌面で示指へ内転尺骨神経
短母指外転筋・母指対立筋母指掌側外転・対立正中神経

暗記の軸は停止部から作用関節を導くこと。中節骨停止=PIP屈曲(浅指屈筋)/末節骨停止=DIP屈曲(深指屈筋)。母指は短母指伸筋=MP・長母指伸筋=IP
骨間筋はDAB=Dorsal ABduct(背側=外転)/PAD=Palmar ADduct(掌側=内転)。外転・内転はいずれも中指を基準にした遠近で定義する。

内在筋プラス肢位(intrinsic plus position)

  • 虫様筋・骨間筋の作用でできる肢位=MP屈曲-PIP伸展-DIP伸展
  • 拘縮予防の良肢位(安全肢位)としてスプリント固定に用いる
  • 逆に内在筋麻痺で生じるのが鉤爪手=MP過伸展+IP屈曲(尺骨神経麻痺で環指・小指に顕著)
  • 母指内転筋=Froment徴候の責任筋(尺骨神経麻痺で陽性)

「虫様筋はMP関節伸展」は誤り → MP屈曲+IP伸展。中指MP伸展を担うのは総指伸筋
「掌側骨間筋はMP伸展」も誤り → 内転+MP屈曲・IP伸展。「背側骨間筋はPIP屈曲」も誤り → 外転+MP屈曲・IP伸展
「浅指屈筋はDIP屈曲」は誤り → PIP屈曲。「短母指伸筋はIP伸展」も誤り → MP伸展

4-9 上肢の徒手筋力テスト(Daniels)の要点

大原則

  • 抵抗は運動の遠位端に、運動と反対方向へ加える(手関節背屈なら手背へ掌屈方向、母指MP屈曲なら基節骨へ伸展方向)
  • 段階3=重力に抗して全可動域/段階4=抵抗に抗するが最大ではない/段階2=重力を除いた肢位
検査する運動抵抗を加える位置と方向
手関節背屈手背(中手骨遠位)に掌屈方向
母指MP屈曲母指基節骨に伸展方向
肩関節外旋前腕遠位に内旋方向
肘関節伸展前腕遠位に屈曲方向
肩甲骨下制・内転(僧帽筋下部)肩甲骨内側縁〜下角付近
段階3以上の肢位段階2(重力除去)
肩関節屈曲座位・前腕回内(中間)位背臥位
肩外旋筋群(棘下筋・小円筋)腹臥位・肩外転90°/肘屈曲90°から外旋腹臥位
肩甲下筋(内旋)腹臥位・肩外転90°/肘屈曲90°から内旋腹臥位
前鋸筋座位で上肢を前方挙上し肩甲骨を前方突出、肩甲骨下角部に抵抗座位(前方リーチ)
菱形筋腹臥位・肩甲骨内転+下方回旋腹臥位(側臥位ではない)
棘上筋(外転初動)座位で外転に抵抗座位など(腹臥位ではない)
大胸筋背臥位で肩関節水平内転

肩関節屈曲の段階4(狙われる細部)

  • 肢位は座位(背臥位は重力除去=段階2の肢位)
  • 前腕は回内位または中間位(回外位ではない)
  • 抵抗は屈曲90°付近上腕骨遠位部(肘の上)に加える(最終肢位や上腕骨近位部では不可)
  • 肘関節の屈曲が出現しないことを確認する=上腕二頭筋による代償の排除

段階3で肩屈曲を指示したときに肘が屈曲する代償の原因筋=上腕二頭筋(肩屈曲と肘屈曲の両方に働くため)。ほかに肩甲骨挙上(僧帽筋上部)・体幹後傾も代償として排除する。
MMTの図問題は肢位+運動方向+抵抗位置の3点で筋を特定する。

4-10 上肢の運動学の臨床応用

頸髄損傷の残存レベルと上肢機能

レベル新たに可能になる動作(キー筋)
C5肩外転・肘屈曲・前腕回外(三角筋・上腕二頭筋・回外筋)
C6手関節背屈(長橈側手根伸筋)=テノデーシス把持、前腕回内(円回内筋)
C7肘伸展(上腕三頭筋)・指伸展・尺側手根伸筋
C8手指屈曲(深指屈筋=DIP屈曲)
C8〜T1手内在筋(小指外転・母指内転)

C5残存で「肘伸展・手関節背屈・指伸展ができる」は誤り → いずれもC6以下。C6残存で「小指外転・母指内転・中指DIP屈曲ができる」も誤り → C8〜T1

片麻痺と共同運動

  • 上肢屈曲共同運動=肩甲帯挙上・肩外転外旋・肘屈曲・前腕回外
  • Brunnstromステージ上肢Ⅲで、肘伸展位の肩屈曲を指示して肘が曲がる=屈曲共同運動。分離を促すには上腕三頭筋(肘伸展)を促通する。上腕二頭筋の促通は共同運動を助長するので逆効果
  • 肩関節亜脱臼=弛緩期に三角筋・棘上筋の支持が失われ骨頭が下方偏位。肘屈曲型アームスリングは肩=軽度内旋位(整復位)・前腕=中間位・手関節=軽度背屈(機能的肢位)・手部は肘より高く。頸部だけで吊らない

収縮様式とストレッチ肢位

  • 遠心性収縮=張力を出しながら引き伸ばされる。懸垂位からゆっくり体を下ろす(肩が屈曲していく)とき、ブレーキをかける肩伸展筋=広背筋が遠心性に働く
  • ストレッチ肢位はその筋の作用と逆方向大円筋(伸展・内転・内旋)は上肢を頭側へ挙上すると最大に伸長される(投球肩の後方タイトネス)

肢位・動作の応用

場面要点
熱傷の抗拘縮肢位原則=瘢痕が拘縮していく方向と逆に保持する(瘢痕は屈曲・内転方向へ縮む)。頸部前面=軽度伸展/腋窩・肩=外転位(約90°)/肘・前腕=伸展・回外〜中間位/手=MP屈曲・IP伸展・母指外転/体幹=伸展/股=伸展・外転/膝=伸展/足=背屈0°(下垂足予防)
松葉杖歩行体重支持=上腕三頭筋(肘伸展)/脇当ての固定=大胸筋(上腕内転)/握り=手指屈筋群/手関節の固定=手関節伸筋群。腋窩を圧迫すると橈骨神経麻痺
肩ROM制限とADL結髪動作(後頭部へ手を回す)=屈曲+外転+外旋結帯動作(背中で手を組む・エプロンの紐)=内旋+伸展肩関節周囲炎(五十肩)は外旋・外転の制限が最も強いので結髪動作が最初に障害される。洗顔・歯磨き・爪切りは口元〜体幹前面の作業で屈曲90〜100°あれば可能、靴下の着脱は前下方リーチで肩の挙上も外旋も要さないため、いずれも制限例でも遂行できる
早産児のポジショニング屈曲・正中位指向=肩甲帯前方突出位・股関節内外転中間位。頭部/体幹伸展位・肩外転位は伸展パターンを助長し不適
上肢の動脈触診橈骨動脈=手関節掌側の橈側/上腕動脈=肘窩の上腕二頭筋腱の内側/鎖骨下動脈=鎖骨上窩(下肢では足背動脈=第1・2中足骨間、長母指伸筋腱の外側/膝窩動脈=膝窩(膝裏)の深部で、膝を軽度屈曲させて深く押すと触れる後脛骨動脈=内果の後方

熱傷で「前腕を最大回内位に保持」は誤り → 回外〜中間位。「頸部中間位」も不十分 → 軽度伸展位。「体幹軽度屈曲位」も誤り → 伸展位。上肢・体幹の熱傷で起立歩行や筋力増強を一律禁止するのも誤り(下肢機能は保たれるので早期離床が原則)。ただし植皮術後の早期に植皮部を圧迫するsqueezingは生着を妨げるため行わない
アームスリングで「前腕回外位」「手関節掌屈位」「手部を肘より低く」はいずれも誤り。