第5章|下肢の運動学

運動学 第5章

5-1 股関節の構造・可動域・靱帯

臼状関節(球関節の一種で寛骨臼が深い)。3自由度をもち、骨性の安定性が高い。

参考可動域(日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会基準)

屈曲伸展外転内転外旋内旋
125°15°45°20°45°45°

外転・外旋・内旋は45/内転は20/伸展は15/屈曲は125」でまとめる。屈曲は膝屈曲位で測る。膝関節は屈曲130・伸展0。

頻出の誤り値 → 外旋20°(正しくは45°)/外転20°(20°は内転の値)/屈曲110°(正しくは125°)/内旋20°(正しくは45°)。

股関節を補強する靱帯

靱帯位置緊張する肢位
腸骨大腿靱帯(Y靱帯・最強)前方伸展(屈曲で弛緩)。立位で骨盤の後方傾斜を防ぐ
恥骨大腿靱帯前下方外転・外旋・伸展
坐骨大腿靱帯後方伸展・内旋
大腿骨頭靱帯(円靱帯)関節内内転・屈曲(外転で弛緩)。閉鎖動脈枝が走る

関節包靱帯は3本とも伸展で締まり屈曲で緩む。だから屈曲位が「ゆとりのある肢位」になる。円靱帯だけ逆(内転・屈曲で緊張)。

「屈曲時に腸骨大腿靱帯が緊張」は誤り → 伸展で緊張。「内旋時に恥骨大腿靱帯が緊張」も誤り → 外転・外旋。「外転時に大腿骨頭靱帯が緊張」も誤り → 内転・屈曲。腸脛靱帯は股関節の関節包靱帯ではない。

大腿三角(Scarpa三角)

  • 境界=上辺:鼠径靱帯/外側:縫工筋/内側:長内転筋
  • 底を作り触知できるのは腸腰筋(外側)と恥骨筋(内側)。大腿直筋は三角の外側にあり底ではない。内閉鎖筋・梨状筋は深部で触知不可
  • 内容は外側から N-A-V(大腿神経・大腿動脈・大腿静脈)。大腿動脈の拍動はここで触れる

5-2 股関節の筋と作用

運動主動作筋
屈曲腸腰筋(大腰筋+腸骨筋)=最強・大腿直筋・縫工筋・大腿筋膜張筋・恥骨筋
伸展大殿筋・ハムストリングス(大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋)
外転中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋(梨状筋は屈曲位で外転に働く)
内転内転筋群(大・長・短内転筋)・薄筋・恥骨筋
外旋深層外旋六筋(梨状筋・上下双子筋・内外閉鎖筋・大腿方形筋)・大殿筋・腸腰筋
内旋小殿筋・中殿筋前部・大腿筋膜張筋

多機能筋(組合せ問題はここが狙われる)

股関節での作用膝など他の作用
恥骨筋屈曲+内転(一部内旋)
大殿筋伸展+外旋腸脛靱帯を介し膝を安定
大腿筋膜張筋屈曲+外転+内旋膝屈曲位では屈曲補助、伸展位では伸展補助
腸腰筋屈曲+外旋
梨状筋外旋(屈曲位では外転)
大腿方形筋・双子筋・閉鎖筋外旋のみ
小殿筋外転+内旋
薄筋内転膝屈曲+下腿内旋(内転筋群唯一の二関節筋)
縫工筋屈曲+外転+外旋膝屈曲+下腿内旋
半腱様筋・半膜様筋伸展(+内旋)膝屈曲+下腿内旋
大腿二頭筋伸展膝屈曲+下腿外旋

典型的な誤り組合せ → 外転―薄筋(正しくは内転)/外旋―半腱様筋(正しくは伸展・内旋)/内旋―大殿筋(正しくは外旋)/内転―梨状筋(正しくは外旋)/伸展―腸腰筋(正しくは屈曲)/内転―中殿筋(正しくは外転)/屈曲―大腿二頭筋(正しくは伸展)/内転―小殿筋(正しくは外転・内旋)/屈曲―大腿方形筋(正しくは外旋)/伸展―恥骨筋(正しくは屈曲・内転)/内旋―上双子筋(正しくは外旋)/膝伸展―縫工筋(正しくは膝屈曲)。

中殿筋は歩行の立脚期に骨盤を水平に保つ。弱化するとTrendelenburg徴候(遊脚側の骨盤が下がる)が出る。鵞足=縫工筋・薄筋・半腱様筋、いずれも膝屈曲+下腿内旋の二関節筋。

5-3 起始停止・神経支配・触診ランドマーク

付着部付く筋
腸骨翼外面(殿筋面)大殿筋・中殿筋・小殿筋
腸骨翼内面(腸骨窩)腸骨筋
上前腸骨棘縫工筋・大腿筋膜張筋
仙骨前面梨状筋(大坐骨孔を通る)
大転子中殿筋・小殿筋(外転筋)+梨状筋・上下双子筋・内外閉鎖筋(外旋筋)
小転子腸腰筋
殿筋粗面・腸脛靱帯大殿筋(=大転子には付かない)
舟状骨粗面後脛骨筋
第5中足骨底・粗面第三腓骨筋・短腓骨筋
第1中足骨底・内側楔状骨長腓骨筋(足底を斜走する)
鵞足(脛骨内側)縫工筋・薄筋・半腱様筋

神経支配

神経支配筋
大腿神経腸骨筋・大腿四頭筋・縫工筋(大腰筋は腰神経叢の枝L1〜L3が直接支配)
殿神経大殿筋
殿神経中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋
閉鎖神経内転筋群・外閉鎖筋(大内転筋の一部は脛骨神経)
仙骨神経叢の枝内閉鎖筋・双子筋・大腿方形筋(=閉鎖神経ではない)
深腓骨神経前脛骨筋・長趾伸筋・長母趾伸筋・第三腓骨筋(前面=背屈群)
浅腓骨神経長腓骨筋・短腓骨筋(外側=外がえし群)
脛骨神経下腿三頭筋・足底筋・膝窩筋・後脛骨筋・長趾屈筋・長母趾屈筋(後面)

下腿は区画で覚える=前を背屈させるのが深腓骨、横を外がえしさせるのが浅腓骨、後ろを底屈させるのが脛骨神経。総腓骨神経が腓骨頭で圧迫されると背屈・外がえしが落ちて下垂足・内反尖足になる。

組合せ問題で「前脛骨筋―腓骨神経」は誤り → 正しくは深腓骨神経。「腓骨神経」だけでは浅・深が割れず不正確とされる(総腓骨神経は幹の名前。支配筋を問う設問では深腓骨/浅腓骨まで書けているかを見る)。同型の誤り → 「大殿筋―上殿神経」(正しくは下殿神経)/「小殿筋―下殿神経」(正しくは上殿神経)/「内閉鎖筋―閉鎖神経」(正しくは仙骨神経叢の枝=内閉鎖筋神経。閉鎖神経が支配するのは閉鎖筋と内転筋群)。

横断面・体表からの同定

  • 大腿中央の横断面=前:大腿四頭筋/後:ハムストリングス/内側:内転筋群+薄筋。薄筋は最内側かつ最表層の細長い筋。長内転筋はその深部・前方、大内転筋は最深層で広い、短内転筋は近位のみで大腿中央には現れない。縫工筋は前面を斜走し前内側にある
  • 下腿横断面=前脛骨筋は脛骨前面(前内側)、その外側に長趾伸筋、外側区画に長・短腓骨筋、骨間膜の直後で脛骨と腓骨に挟まれるのが後脛骨筋
  • 皮下組織の直下に筋膜を触知できる=長腓骨筋(下腿外側の表在筋)。棘上筋・小殿筋・中間広筋・方形回内筋はいずれも他筋に覆われ触知できない
  • 動脈の触知=大腿動脈:Scarpa三角内/足背動脈:長母趾伸筋腱と長趾伸筋腱の間/後脛骨動脈:内果後方(外果後方は腓骨筋腱の通り道で動脈はない)
  • (参考・上肢が混ざる組合せ用)上腕動脈=上腕二頭筋の内側縁(血圧測定で聴診する部位)/橈骨動脈=前腕掌側の橈側遠位部(手関節での脈拍測定)。この2つは正しい組合せとして出るので、誤りを探す設問では下肢側(後脛骨動脈=外果後方)を疑う

5-4 膝関節の構造(靱帯・半月板・膝蓋骨)

  • 顆状関節(楕円関節)。屈伸に加えわずかな回旋をもつ2自由度。屈曲130°・伸展0°
  • 関節面は内側顆のほうが大きく接触面が広い(外側顆が広い、は誤り)
  • 大腿骨と脛骨の長軸は一直線ではなく、約170〜175°の生理的外反(FTA)をなす
靱帯制動するもの緊張する肢位
内側側副靱帯(MCL)外反・回旋伸展位で緊張・屈曲位で弛緩。幅広い膜状で内側半月板と結合
外側側副靱帯(LCL)内反伸展位で緊張。索状で細い。外側半月板とは結合しない
前十字靱帯(ACL)脛骨の前方移動・過伸展完全伸展位で緊張
後十字靱帯(PCL)脛骨の後方移動屈曲位(とくに深屈曲)で緊張
斜膝窩靱帯過伸展伸展で緊張

「膝を屈曲すると前十字靱帯は弛緩する」は誤り → ACLは完全伸展位で最も緊張するが、屈曲位でも一部の線維は緊張を保ち、一様に弛緩することはない。屈曲ではっきり弛緩するのは側副靱帯のほう。伸展・屈曲のどちらでも脛骨前方移動の制動は続く。

関節包

  • 後面=伸展で緊張して過伸展を制動する厚く強靱な制動構造(斜膝窩靱帯で補強)。伸縮性は低い
  • 前面膝蓋上包(膝蓋上嚢)を含んでたるみが大きく、屈曲に伴ってよく伸びる=伸縮性が高いのは前面のほう
  • 深屈曲を最終的に止めるのは関節包ではなく大腿後面と下腿後面の軟部組織の接触

関節包の後面は前面に比べて伸縮性が高い」は誤り → 前後が逆。伸縮性が高いのは前面、後面は過伸展を止める制動構造。

半月板

内側半月板外側半月板
C字状・大きいO字状(ほぼ円形)・やや小さい
側副靱帯との結合MCLと結合するLCLには付着しない
可動性小さい → 損傷しやすい大きい → 屈曲時に大きく後方移動
  • 断面は外縁が厚く関節包に付着、内縁は薄く遊離。大腿骨と脛骨の適合性を高める(膝蓋骨との適合ではない)
  • 移動方向=伸展で前方・屈曲で後方
  • 外反+外旋+屈曲の強制でMCL・内側半月板・ACLを痛めるのがunhappy triad

膝蓋骨

  • 大腿四頭筋腱内にある最大の種子骨。伸展モーメントアームを延長し膝伸筋の作用効率を高める(切除すると伸展力が約30%低下)
  • 関節面は外側面のほうが内側面より広い
  • 屈曲=顆間溝にはまり込んで安定し可動性は低下、膝蓋骨は下方へ移動/伸展=上方へ引かれ可動性が高く、大腿骨との接触面は膝蓋骨の下方へ移る

5-5 膝関節の運動学(転がり・滑り・ロック)

  • 屈曲は初期=転がり(roll)→ 進むにつれ滑り(glide)へ移行する。最終域まで転がりが続くと大腿骨が脛骨後方へ転落するため、滑りで補正して可動域を確保する
  • 転がり量は外側顆のほうが内側顆より大きい。これが終末回旋の力学的な基盤
  • 終末強制回旋運動(screw-home movement)=伸展の最終域で脛骨が大腿骨に対し外旋(大腿骨側からみれば内旋)してロックし、最も安定する。屈曲を始めるときは脛骨が内旋してロックが解除される(膝窩筋が起点)
  • 完全伸展位(ロック肢位)では側副靱帯・前十字靱帯が緊張。回旋は屈曲位でのみ可能
  • 屈曲の最終制限因子は大腿後面と下腿後面の軟部組織の接触(軟部組織性の制限)。靱帯性・骨性ではない

「屈曲初期に滑り、続いて転がり」は順序が逆 → 転がり→滑り。「屈曲角度が増すと転がりが増える」も誤り → 増えるのは滑り。「屈曲位から伸展すると下腿は内旋する」も誤り → 外旋する。「側副靱帯は屈曲時に緊張」も誤り → 伸展時に緊張。「前十字靱帯は屈曲運動の制限になる」も誤り → 制限するのは脛骨前方移動と過伸展

下腿の回旋にはたらく筋

下腿内旋下腿外旋
半腱様筋・半膜様筋・縫工筋・薄筋・膝窩筋大腿二頭筋
  • 膝屈曲と足底屈の両方に働く二関節筋=腓腹筋・足底筋(ともに大腿骨遠位から起こり踵骨腱へ)
  • ヒラメ筋は脛骨・腓骨起始で膝関節をまたがない単関節筋膝の運動には関与しない(足関節での作用は底屈+内がえし)。「単関節筋」は膝に作用しないという意味で、足での作用が底屈だけという意味ではない。膝窩筋は膝屈曲+下腿内旋のみで足関節には作用しない。長趾屈筋・後脛骨筋も膝はまたがない

5-6 足関節・足部の関節

関節運動ポイント
距腿関節背屈20°・底屈45°運動自由度は1(底背屈のみ)。内外がえしはここでは起こらない
距骨下(距踵)関節内がえし・外がえし(回外・回内)足部の内外反はここが担う
横足根(Chopart)関節距舟+踵立方前足部と後足部の境
足根中足(Lisfranc)関節主な運動は滑り可動性は小さく足部の剛性維持に働く

距骨滑車は前方が広いため、背屈位で果間にはまり込み最も安定する(底屈位で安定、は誤り)。

足関節の靱帯と捻挫

  • 外側靱帯の損傷頻度=前距腓靱帯>踵腓靱帯>後距腓靱帯。内反捻挫(全捻挫の約8割)で最初に切れるのが前距腓靱帯
  • 評価法の対応=前方引き出しテスト=前距腓靱帯/内反ストレス(距骨傾斜)テスト=踵腓靱帯/前脛腓靱帯は外旋・背屈ストレスと圧痛
  • 内側の三角靱帯は外反ストレスで損傷する
  • 二分靱帯踵立方靱帯+踵舟靱帯のY字型の靱帯で、足関節(距腿関節)ではなくChopart関節(足根部)を補強する。したがって前方引き出しテストや内反ストレステストの対象にならない(足根部の圧痛と回内・回外の強制で評価する)。前方引き出しテストで陽性になるのはあくまで前距腓靱帯
  • 内側縦アーチを構成するのは踵骨・距骨・舟状骨・楔状骨・第1〜3中足骨立方骨は外側縦アーチの骨

5-7 下腿の筋と足部への作用

区画神経作用
前面前脛骨筋深腓骨背屈+内がえし
前面長趾伸筋深腓骨背屈+外がえし+第2〜5趾伸展
前面長母趾伸筋深腓骨背屈+母趾伸展(わずかに内がえし側)
前面第三腓骨筋深腓骨背屈+外がえし(外果前方を通る)
外側長腓骨筋浅腓骨底屈+外がえし。横アーチ・外側縦アーチを支持
外側短腓骨筋浅腓骨底屈+外がえし(第5中足骨粗面に停止)
後面浅層腓腹筋脛骨膝屈曲+底屈(二関節筋)
後面浅層ヒラメ筋脛骨底屈(単関節筋)+内がえし
後面浅層足底筋脛骨膝屈曲+底屈の補助
後面深層後脛骨筋脛骨底屈+内がえし(主動筋)。内側縦アーチを支持
後面深層長趾屈筋脛骨第2〜5趾屈曲+底屈+内がえし。内側縦アーチを支持
後面深層長母趾屈筋脛骨母趾屈曲+底屈+内がえし補助
後面深層膝窩筋脛骨膝屈曲+下腿内旋のみ(足には作用しない)

原則は2つ。①脛骨筋は内がえし・腓骨筋は外がえし(例外は前脛骨筋が背屈側、第三腓骨筋が背屈側にあること)。②腱が果の前を通れば背屈、後ろを通れば底屈

腱の走行

通る場所
内果後方(足根管・前から順)後脛骨筋腱・長趾屈筋腱・後脛骨動脈・脛骨神経・長母趾屈筋腱
外果後方長腓骨筋腱・短腓骨筋腱
外果前方第三腓骨筋腱(ここを通るのはこの1本だけ)

作用の入れ替えが定番の誤り → 後脛骨筋=外がえし(正しくは内がえし)/前脛骨筋=外がえし(正しくは内がえし)/第三腓骨筋=底屈・内がえし(正しくは背屈+外がえし)/長腓骨筋=背屈(正しくは底屈)/長趾伸筋=内がえし(正しくは外がえし)/ヒラメ筋=外がえし(外がえし作用はなく、底屈と内がえし)。

5-8 足部アーチとウィンドラス機構

内側縦アーチ外側縦アーチ横アーチ
要石舟状骨立方骨中間楔状骨側が頂点(立方骨は外側で低い)
高さ・長さ高く長い低く短い
動的支持(筋)後脛骨筋(最重要)・長趾屈筋・長母趾屈筋・前脛骨筋長腓骨筋・短腓骨筋長腓骨筋(+後脛骨筋)
静的支持底側踵舟靱帯(スプリング靱帯)・足底腱膜長足底靱帯
機能衝撃吸収・推進荷重支持前足部の支持
  • ウィンドラス機構=MTP関節(とくに母趾)の伸展で足底腱膜が巻き上げられ、内側縦アーチが挙上して足部が剛体化する
  • アーチの高さは内がえし(回外)で上がり、外がえし(回内)で下がる
  • 後脛骨筋腱機能不全(PTTD)は成人期扁平足(内側縦アーチ低下)の主因。外側から見えるつま先が増えるtoo many toes signが所見

アーチ保持の主役として誤って挙げられるもの → 虫様筋(MP屈曲・IP伸展の内在筋)/短母趾伸筋(母趾伸展)/前距腓靱帯(外側の靱帯で内反捻挫で損傷)/浅横中足靱帯(横方向の連結)/足底筋(寄与は乏しい)/三角靱帯(内側の安定には効くがアーチの主役ではない)。「後脛骨筋が外側縦アーチを支える」も誤り → 支えるのは内側縦アーチ。「内側縦アーチは外がえしで高くなる」も誤り → 低くなる。

5-9 下肢のMMTと選択的な伸張運動

段階1=収縮を触知するだけ/段階2=重力を除いた肢位で全可動域/段階3=重力に抗して全可動域。開始肢位は「主作用の方向」と「重力の扱い」で決まる。

段階2(重力除去位)段階3以上・注意点
腸腰筋側臥位(検査側を上)端座位で大腿を挙上
縫工筋背臥位で股屈曲・外転・外旋+膝屈曲座位で同じ複合運動
中殿筋(股外転)背臥位で水平方向に移動側臥位。股屈曲の代償=腸腰筋(大腰筋+腸骨筋)が出やすい
小殿筋(股外転+内旋)背臥位で水平方向に移動(中殿筋と同じ)Danielsでは中殿筋と一括して「股関節外転」で検査する。側臥位は段階3以上の抗重力肢位で段階2の肢位ではない
大殿筋(股伸展)側臥位腹臥位。膝屈曲位=大殿筋を分離/膝伸展位ではハムストリングスも働く。片側ずつ検査
ハムストリングス(膝屈曲)側臥位腹臥位
大腿四頭筋(膝伸展)側臥位(検査側を上・検者が支える)端座位(股屈曲位)で膝を伸展しきる=Danielsの段階3〜5は端座位が標準の開始肢位。したがって「大腿四頭筋の段階2=股関節屈曲位」は誤り → 股屈曲位(端座位)になるのは段階3以上で、段階2は側臥位
後脛骨筋側臥位・足関節底屈位から内がえし底屈+内がえしが主作用
短腓骨筋段階1は底屈・外がえし位で第5中足骨基部の腱を触知
腓腹筋立位で片脚踵上げ。代償筋=後脛骨筋(長・短腓骨筋、長母趾屈筋、長趾屈筋も底屈を補助)

段階2(除重力位)は肢位の名前が合っているだけでは成立しない。除重力位の測定では検者が被検側下肢の重さを支える(または滑走板・パウダーボードに乗せる)ことが必須条件で、支えがなければ自重と台との摩擦が残り「重力を除いた」ことにならない。下側の下肢は屈曲させて骨盤を安定させる。
だからMMTの図問題は肢位だけでなく「検者の手がどこにあるか」まで見る腸腰筋を側臥位・検査側を上で行っていても、検者の手が骨盤(腸骨稜)を押さえているだけで上側=被検側の下肢を支えていなければ段階2の測定にならない(肢位は正しくても図としては誤り)。
股関節外転(中殿筋・小殿筋)の段階2は背臥位で下肢を台上に置き、水平方向へ滑らせる長座位(体幹を起こして後方に手をつく肢位)は背臥位ではないので、これで外転を測っている図は誤り。側臥位も段階3以上の抗重力肢位なので同じく誤り。

股関節伸展MMTで腹臥位がとれない股関節屈曲拘縮例は、ベッド端に体幹を伏せて立位で行う変法を使う。ただしこの変法は抗重力位なので段階2は測れない(段階2は側臥位)。

これに対し通常法=腹臥位・膝伸展位で片側ずつ下肢全体を持ち上げ抵抗を加える方法は、抗重力位で段階5〜3を判定し、そのまま重力除去位へ移して段階2まで判定できる=通常法(腹臥位法)は段階5〜段階2をカバーする。変法との違いはここ。なお通常法は両側同時には行わないし、膝伸展位なのでハムストリングスも含んだ伸展力をみている(大殿筋だけを分離するなら膝屈曲位)。

底屈の代償筋として前脛骨筋・長趾伸筋・長母趾伸筋を選ぶのは誤り → いずれも背屈筋で底屈方向には働かない。母趾外転筋(足底の内在筋)も足関節底屈を代償できない。

求心性収縮での抵抗運動・選択的伸張

  • 抵抗運動は対象筋の主作用=運動方向で組む。中殿筋なら股伸展0°位での外転が正しい。前脛骨筋は背屈+がえしなので「外がえし位での背屈」は方向が合わない。ハムストリングスは膝屈曲90°位では短縮して効率が落ちる
  • 選択的伸張の原則=①作用と逆方向へ動かす ②二関節筋は両関節をまたいで伸ばす ③隣接筋の影響を除く肢位をとる
  • ハムストリングス=骨盤を固定し膝伸展位で股関節屈曲、足関節は中間位。足背屈を加えると腓腹筋まで伸びて選択性が落ちる
  • ヒラメ筋膝屈曲位で背屈(膝伸展位だと腓腹筋も伸びる)/腓腹筋=膝伸展位で背屈
  • 薄筋=膝伸展位で股外転(膝屈曲位では伸張が不十分)
  • 中間広筋単関節筋(膝伸展のみ)なので股関節の肢位は伸張量に影響しない。膝屈曲で伸びるが、「股伸展位で膝屈曲」と指定しても選択性は上がらない(股伸展位が効くのは二関節筋の大腿直筋を伸ばすとき)

ASIAの下肢key muscle=L2 腸腰筋(股屈曲)/L3 大腿四頭筋(膝伸展)/L4 前脛骨筋(背屈)/L5 長母趾伸筋(母趾伸展)/S1 下腿三頭筋(底屈)。下肢を固定して体幹前屈させ、膝の固定角度を変えると前傾角度が変わる場合は、その角度差に関与する大腿四頭筋の筋力低下を疑う。

参考|下肢の設問に混ざる上肢の選択肢

MMT・抵抗運動・伸張運動の設問は下肢と上肢を混ぜて出る。下肢の知識だけでは肢を消せないので、頻出の3点だけ押さえる。

  • 選択的伸張長橈側手根伸筋は手関節の背屈+橈屈筋 → 伸張は作用と逆方向の肘伸展位・前腕回内位・手関節尺屈位で掌屈(この組合せは正しい)。三角筋前部(肩屈曲+内旋)は肩伸展だけでなく外旋位を加えないと選択性が出ない
  • MMTの開始肢位菱形筋群=腹臥位で手を腰背部に置き肩甲骨を内転・下方回旋(「肘関節伸展位」は誤り)/上腕三頭筋=腹臥位で肩外転90°・前腕下垂位から肘伸展(「肩関節屈曲位」は誤り)
  • 抵抗運動の方向上腕二頭筋=肘屈曲+前腕回外(肩関節伸展は主作用ではない)/上腕三頭筋=肘伸展(肩関節水平内転は大胸筋の作用で上腕三頭筋ではない)

5-10 下肢の運動学の臨床応用

捻挫・靱帯損傷と強化筋

  • 損傷した靱帯が防いでいた方向を制動する筋を鍛える。内反捻挫(前距腓靱帯)→腓骨筋群(長腓骨筋)を強化。外反で三角靱帯を痛めた場合→後脛骨筋を強化
  • 内反捻挫の再発予防で後脛骨筋・前脛骨筋を鍛えるのは逆効果(内反を助長する)
  • 組合せとして成立するのは2つだけ前距腓靱帯―腓骨筋群(長腓骨筋)三角靱帯―後脛骨筋。「三角靱帯―短腓骨筋」は方向が逆で誤り
  • 特定の筋と対応しない靱帯=二分靱帯(Chopart関節の踵立方・踵舟靱帯)/前脛腓靱帯(脛腓間をつなぐ靱帯結合。損傷は高位捻挫)/リスフラン靱帯(足根中足関節)。どれも「その方向を制動する筋」が存在しないので、「二分靱帯―後脛骨筋」「前脛腓靱帯―前脛骨筋」「リスフラン靱帯―下腿三頭筋」はいずれも誤り
  • 足根管症候群=内果下方で後脛骨神経が圧迫。足底のしびれ・母趾外転筋の萎縮を生じ、Tinel signが陽性。Thompson testはアキレス腱断裂、Silfverskiöld testは下腿三頭筋短縮、single heel rising testは底屈力の検査

痙縮・片麻痺

  • 脳卒中後で最多の下肢パターンは内反尖足。過活動筋=尖足:下腿三頭筋/内反:後脛骨筋/趾屈曲:長趾屈筋。ボツリヌス療法はこれらに投与し、弱化側の前脛骨筋・腓骨筋には投与しない
  • 尖足・下垂足への機能的電気刺激は前脛骨筋(腓骨頭直下の前外側=総腓骨神経・運動点)を刺激する。下腿後面を刺激すると底屈して逆効果
  • 斜面台の目的=早期離床・立位感覚・覚醒レベル向上・体幹筋の維持・底屈筋の持続伸張による内反尖足予防。膝伸展筋の痙縮抑制は目的にならない(膝伸展位では短縮側になる)
  • Wernicke-Mann肢位上肢屈曲・下肢伸展。肩内転内旋・肘屈曲・前腕回内・手指屈曲/股伸展・膝伸展・足内反尖足(足背屈位ではない)
  • Brunnstrom下肢=Ⅲ:共同運動/Ⅳ:座位で膝90°以上屈曲・踵接地で背屈/Ⅴ:立位・股伸展位で膝のみ屈曲/Ⅵ:立位・膝伸展位で足の内外反
  • (参考・上肢)Brunnstrom上肢=Ⅳ:肘屈曲位での前腕回内・回外、手を腰の後ろへ回す/Ⅴ:肘伸展位での前腕回内・回外、肩外転90°・肩屈曲180°。「上肢Ⅳ=肘伸展位で回内外」は誤り(それは)。ステージ全体はⅠ弛緩/Ⅱ連合反応・痙性出現/Ⅲ共同運動/Ⅳ共同運動からの分離開始/Ⅴ分離進行/Ⅵほぼ正常
  • Strümpell現象=股関節屈曲に抵抗をかけると随伴して足関節背屈が起こる。遊脚期の背屈練習に応用できる

脳性麻痺・二分脊椎

  • 痙直型両麻痺=クラウチング肢位(股・膝屈曲、骨盤後傾、股内転・内旋、尖足)とはさみ脚歩行。介入は腹筋群と殿筋群の同時収縮で骨盤を起こすこと。股内旋筋やハムストリングスの促通は変形を助長するので不適。装具は短下肢装具が基本で長下肢装具は過剰
  • GMFCS=粗大運動能力の重症度分類。Ⅰ:制限なし/Ⅱ:制限はあるが補助具なしで歩行/Ⅲ:手に持つ移動器具(歩行器・クラッチ)を使って歩行/Ⅳ:自力移動が制限され電動や介助/Ⅴ:手動車椅子でも移動困難レベルⅢの幼児には後方支持型歩行器(PCW)が標準で、両側T字杖はバランス保持と上肢操作の面で幼児には適さない
  • 二分脊椎の残存レベル=L2:股屈曲のみ/L3:膝伸展可/L4:前脛骨筋で背屈可(短下肢装具で短距離独歩)/L5:長母趾伸筋は働くが中殿筋が弱くTrendelenburg様の動揺/S1:下腿三頭筋で蹴り出し可。装具の目安はL4までAFO、それより高位はKAFO〜車椅子
  • L5レベルで歩行が不安定なとき最優先で鍛えるのは中殿筋(腸腰筋L1-3・大腿四頭筋L2-4・前脛骨筋L4-5はすでに機能している)
  • Sharrard分類Ⅲ群=L4〜L5。大腿四頭筋が良好で前脛骨筋がある程度働き、内反尖足変形を生じやすい
Sharrard分類髄節レベル働く主な筋・特徴
Ⅰ群胸髄〜L1下肢の筋はほとんど働かない。股屈曲も出ない高位麻痺
Ⅱ群L2〜L3腸腰筋・内転筋が働き股屈曲・内転可。大腿四頭筋は部分的
Ⅲ群L4〜L5大腿四頭筋が良好(膝伸展可)・前脛骨筋がある程度働く。内反尖足変形
Ⅳ群L5〜S1中殿筋・長母趾伸筋が働き底屈も一部残る。背屈筋優位で踵足になりやすい
Ⅴ群S1以下下腿三頭筋が働き蹴り出しが可能。ほぼ歩行自立

読み方は「最も遠位で働いている筋はどれか」の1点。大腿四頭筋5・内側ハムストリングス3・前脛骨筋3・後脛骨筋2なら、L4までは保たれL5以下が落ちている=Ⅲ群(L4〜L5)。大腿四頭筋が働いた時点でⅠ・Ⅱ群は消え、後脛骨筋・下腿三頭筋が落ちている時点でⅣ・Ⅴ群も消える。

装具・靴の補正・切断

問題対応
立脚期の膝折れ・下垂足前方制動(背屈を制限して膝伸展を保つ)
尖足・反張膝・下腿三頭筋の痙縮後方制動(底屈を制限)
内反足外側ソールウェッジ(外側を上げて荷重を内側へ)
外反(回内)足・扁平足内側ソールウェッジ・Thomasヒール・内側フレアヒール
中足骨痛(横アーチ低下)メタタルザルバー
踵の衝撃吸収クッションヒール(内外反の矯正作用はない)
  • ウェッジは「持ち上げた側と反対へ荷重が移る」と覚える
  • PTB式免荷装具=膝蓋腱で荷重(膝蓋骨ではない)。パッテン底は舟状骨の真下に置く。膝関節は固定しない。脛骨高原骨折には不適
  • 切断後は残存筋の優位な方向へ拘縮する。大腿切断=股屈曲・外転・外旋拘縮(予防は腹臥位を1日1〜2回30分程度。大腿下に枕・長時間の車椅子座位・屈曲位側臥位はいずれも屈曲拘縮を助長)。下腿切断=膝屈曲拘縮。Chopart・Lisfranc離断=背屈外がえし筋の停止を失い尖足・内反変形Lisfrancも外反ではなく内反
  • (参考・上肢)同じ「残存筋の優位な方向へ拘縮する」原則で、上腕切断(短断端)=肩の外転・屈曲位の拘縮内転拘縮ではない)/前腕切断(中断端)=屈筋優位で肘屈曲拘縮伸展拘縮ではない)。切断部位が近位になるほど断端が短く、拘縮の予防肢位の管理が重要になる
  • 大腿骨骨幹部骨折の転位=近位骨片は腸腰筋(屈曲・外旋)と外転筋群で屈曲外転外旋位、遠位骨片は大腿四頭筋(大腿直筋)・ハムストリングス・下腿三頭筋に近位へ牽引されて短縮する
  • 踵骨骨折の術後=固定外の膝関節と足趾は翌日から可動域練習、距腿関節・距踵関節は動かさず、荷重は骨癒合を待つ