第6章|体幹・姿勢と重心
運動学 第6章
6-1 脊柱の構成と生理的弯曲
- 椎骨は頸椎7・胸椎12・腰椎5・仙椎5(癒合して仙骨)・尾椎3〜5
- 生理的弯曲は上から前・後・前・後と交互に並ぶ
- 一次弯曲(胎生期からある後弯)=胸椎・仙椎/二次弯曲(出生後に獲得する前弯)=頸椎(定頸で獲得)・腰椎(立位で獲得)
| 部位 | 弯曲 | 凸の向き |
| 頸椎 | 前弯 | 前方凸 |
| 胸椎 | 後弯 | 後方凸 |
| 腰椎 | 前弯 | 前方凸 |
| 仙椎(仙骨) | 後弯 | 後方凸 |
「胸椎と仙椎は前弯を示す」「仙骨は前弯を示す」は誤り → 胸椎・仙椎はいずれも後弯。前弯は頸椎と腰椎の2か所だけ。
骨盤中間位と腰仙角
- 正常立位では骨盤は中間位にあり、左右の上前腸骨棘(ASIS)と恥骨結合を含む面が前額面とほぼ一致する。これが骨盤中間位の指標
- 腰仙角(仙骨底=S1上面と水平面のなす角)は約30度(資料により40〜50度とするものもある)
腰仙角を「約5度」「約10度」とする選択肢はいずれも誤り。1桁の値はすべて切ってよい。
6-2 脊柱の可動性と移行部の力学
| 部位 | 屈曲・伸展 | 回旋 | 備考 |
| 上位頸椎 | 環椎後頭関節=屈伸(うなずき) | 環軸関節が最大(頸部回旋の約1/2) | 回旋の主役 |
| 下位頸椎 | 大 | 中(上位より小さい) | — |
| 胸椎 | 小(肋骨・棘突起で制限) | 大 | 回旋は胸椎>腰椎 |
| 腰椎 | 大(屈伸が主) | 最小 | 椎間関節面が矢状方向のため回旋が制限 |
「上位頸椎に比べ下位頸椎で回旋可動域が大きい」は誤り → 回旋は環軸関節(C1-C2)で最大。「腰椎に比べ胸椎で回旋可動域が小さい」も誤り → 回旋は胸椎で大きく腰椎で小さい。
移行部=不安定/仙骨=安定
- 可動性の異なる部位の境目(移行部)に力学的ストレスが集中し、不安定になる
- 移行部=後頭頸椎/頸胸移行部(C7〜T2)/胸腰移行部(T11〜L1)=脊柱で最も不安定で骨折・転移の好発部位/腰仙移行部(L5・S1)=剪断力がかかる
- 腰椎(L2・L3)も可動性が高く荷重も大きいため不安定側
- 最も安定するのはS2〜S5。仙腸関節で骨盤と一体化しほぼ可動性がない。胸椎中央も安定側
- 転移性脊椎腫瘍の不安定性評価(SINS)でも移行部=不安定/固定された仙骨=安定
6-3 頸部・体幹の筋
回旋の方向(同側か対側か)
| 筋 | 片側収縮の作用 |
| 胸鎖乳突筋 | 対側回旋+同側側屈(両側収縮で頸部屈曲) |
| 頭板状筋・頸板状筋 | 同側回旋+同側側屈(両側収縮で頭頸部伸展) |
| 斜角筋(前・中・後) | 同側側屈・頸椎前屈・肋骨挙上(吸気補助)。回旋の主動作筋ではない |
| 半棘筋・多裂筋(横突棘筋群) | 対側回旋 |
「板状筋=同側/胸鎖乳突筋=対側」で覚える。「中斜角筋は対側回旋」は誤り。
体幹深部筋(インナーユニット)と骨盤の傾き
- インナーユニット=腹横筋・多裂筋・横隔膜・骨盤底筋群。協調して腹腔内圧を高め、腰椎・骨盤を安定させる
- 骨盤前傾=腸腰筋・脊柱起立筋/骨盤後傾=腹筋群・大殿筋・ハムストリングス
骨盤底筋群と尿失禁
| 型 | 病態 | 対応 |
| 腹圧性 | 咳・くしゃみ・運動で腹圧が上がったときだけ漏れる。膀胱の収縮は伴わない。女性・出産後・肥満に多い | 骨盤底筋訓練が第一選択 |
| 切迫性 | 膀胱の不随意収縮を伴う | 膀胱訓練・抗コリン薬 |
| 溢流性 | 排尿障害と残尿で持続的に漏れる | 原因治療・導尿 |
| 機能性 | 移動・認知の問題でトイレに間に合わない | 環境調整 |
腹圧性尿失禁に腹筋群の強化を優先するのは誤り(腹圧を上げてかえって誘発する)。最優先は尿道・膀胱頸部を下から支える骨盤底筋群で、殿筋群・脊柱起立筋・股関節外旋筋群はいずれも優先度が低い。「男性に多い」「痩身に多い」「膀胱の収縮を伴う」「持続的に失禁が生じる」もすべて誤り。
6-4 身体重心と矢状面の重心線
重心の位置
- 成人立位の身体重心(COG)は第2仙椎のやや前方(骨盤内)。床から身長の約55〜56%の高さ
- 「仙骨の後方」「第2腰椎のやや前方」はいずれも誤り
- 小児・幼児は頭部が相対的に大きく重心が高い(足底から遠い)。成長とともに下がり、成人のほうが相対的に低い
重心線が通る位置と、そこで起こること
| 部位 | 重心線の通過位置 | 生じるモーメントと対抗する構造 |
| 頭部 | 乳様突起(外耳孔)/環椎後頭関節のやや前方 | 頭部が前へ倒れる → 後頸筋群が制動 |
| 肩 | 肩峰をほぼ通る | — |
| 股 | 大転子をほぼ通る(股関節中心のやや後方) | 伸展方向 → 腸骨大腿靱帯の張力で保持。大殿筋の持続活動は不要 |
| 膝 | 膝関節中心のやや前方(膝蓋骨の後方) | 伸展モーメント → 受動的にロック。大腿四頭筋は不要 |
| 足 | 外果の前方 約2cm(足関節軸の前方) | 背屈モーメント → ヒラメ筋(下腿三頭筋)が持続的に制動 |
誤答肢の定番はすべて誤り:後頭隆起・耳垂の前方・烏口突起・肩峰の前方・大転子の前方・上前腸骨棘・膝蓋骨の前方・膝関節中心の後方1〜2cm・足関節中心を通る。とくに「大転子の前方」「足関節の中心」は前後関係が1つずれた引っかけ。
6-5 支持基底面と安定性の条件
- 支持基底面(BOS)=身体が床と接する点を結んだ範囲とその内側。立位では両足底とその間の領域を含む面
- 重心線がBOS内にあれば安定し、外れると転倒する
| 条件 | 安定する | 不安定になる |
| 支持基底面 | 広い | 狭い |
| 重心の高さ | 低い | 高い |
| 重心線の位置 | BOSの中心に近い | 中心から離れる |
| 床と足底の摩擦抵抗 | 大きい | 小さい |
| 質量 | 大きい | 小さい |
| 上半身と下半身の重心線 | 一致している | ずれている |
- Romberg肢位(両足を揃える)は開脚立位よりBOSが狭く、安定性は低い。狭めることでバランス機能を検出する検査肢位
荷重線と受動的ロックは義肢のアライメントでも同じ原理。カナダ式股義足は股継手を正常股関節軸より前下方に置き、荷重線が継手の後方を通ることで伸展位にロックされて立位が安定する(「45度前上方につける」は誤り)。股継手と膝継手を通る線は踵の25〜40mm後方、ソケットは両腸骨稜上部と坐骨の3点支持、懸垂は切断対側の腸骨稜、股屈曲制限バンドを付ける。膝離断義足は末端荷重・自己懸垂・回旋/前後の安定性に優れる一方、断端が長く膝継手を生理的な高さに設定しにくい(設定は簡便ではない)のが欠点。
6-6 安静立位の筋活動と重心動揺
- 重心線が足関節の前方を通るため身体は前へ倒れようとする → ヒラメ筋(下腿三頭筋)が持続的に活動して制動する。立位保持の主役
- 股関節は腸骨大腿靱帯、膝は伸展位のロックで受動的に安定するので、他の抗重力筋は持続的活動を要しない
| 筋 | 安静立位での持続的活動 |
| ヒラメ筋・腓腹筋(下腿三頭筋) | あり(主役) |
| 前脛骨筋 | 動揺に応じて断続的 |
| 大腿四頭筋・大腿直筋・大腿二頭筋 | なし |
| 大殿筋・腸腰筋 | なし |
| 腹直筋 | なし |
重心動揺
- 安静立位でも重心は常に微細に動揺する。頭部が静止する・重心は前後に動揺しないとする記述は誤り
- 動揺は前後方向>左右方向(前後が小さいとするのは誤り)
- 閉眼で動揺は増大する(視覚を断つと体性感覚・前庭系への依存が増す)。ただし「後方へ移動する」など一定方向へずれるわけではない
- 加齢に伴い重心動揺面積は増大する。転倒リスクの指標として使う
6-7 外乱に対する姿勢制御戦略
| 戦略 | 外乱の大きさ | 内容 |
| 足関節戦略 | 小さい・ゆっくり | 足関節を軸に、身体を1本の棒のように動かして制御 |
| 股関節戦略 | 中〜大/支持面が狭いとき | 股関節の屈伸で体幹を大きく振り重心を戻す |
| ステッピング戦略 | 大きい | 足を踏み出して支持基底面そのものを移動させる |
- 姿勢制御に使う感覚情報=視覚・前庭覚・体性感覚の3つ
- 足関節戦略の筋活動は遠位から近位(distal-to-proximal)の順に起こる
| 外乱 | 身体の傾き | 活動する筋(早い順) |
| 床(プラットホーム)が後方へ動く | 前方へ倒れる | 後面筋:腓腹筋(約110msで最速)→ハムストリングス→脊柱起立筋 |
| 床が前方へ動く | 後方へ倒れる | 前面筋:前脛骨筋→大腿四頭筋→腹直筋 |
前方への傾きに対して前脛骨筋が最初に働くとするのは誤り → 前方への傾きを止めるのは底屈筋(腓腹筋)。倒れる向きと反対側の面の筋が働くと考える。大胸筋・大腿四頭筋・腹直筋は足関節戦略の初発筋にはならない。
6-8 バランス練習の難度調整
| 操作する要素 | 難度を上げる | 難度を下げる |
| 支持基底面 | 狭くする | 広くする |
| 重心の高さ | 高くする(立位・つま先立ち) | 低くする(座位・膝立ち) |
| 感覚情報 | 閉眼・不安定面(バランスパッド) | 開眼・硬い床 |
| 重心移動 | 支持基底面内で大きく動かす | 小さくする |
| 課題 | 二重課題(ボール投げ・会話・計算)を加える | 単一課題 |
| 上肢支持 | 手すりを外す | 手すり・平行棒を使う |
閉眼=感覚情報の遮断、ボール投げ=外乱+二重課題。どちらも難化させる操作。逆に「重心を低く」「支持基底面を広く」「重心移動を小さく」は易化=難度を高める方法ではない。
6-9 立ち上がり動作の運動学
| 相 | 内容 | 足圧中心(COP) |
| ①屈曲相 | 股関節屈曲・体幹前傾で重心を前方へ運ぶ(膝屈曲によるのではない) | 殿部から足部へ前方移動 |
| ②離殿相 | 殿部が座面を離れる。最も不安定な時期 | 最も前方 |
| ③伸展相 | 股・膝の伸展で重心を上方へ運ぶ | 支持基底面内へ収まる |
- 重心は前方移動が先、上方移動が後。上方移動が前方の約2倍という関係はない
- 二関節筋(大腿直筋・ハムストリングス)が関節をまたいで力を伝え、体重心の移動方向を制御する
「体幹前傾後に座圧中心が後方へ変位する」「離殿までの重心前方移動は膝の屈曲で起こる」「立位になる直前に足圧中心が大きく後方へ変位する」はいずれも誤り。前傾すればCOPは前方へ動くを基本にして消去する。
異常パターンからの原因推定
| 観察された所見 | 示唆される問題 |
| 両上肢で大腿前面を支持+体幹を過度に前傾+早期の膝伸展、動揺なし・左右差なし | 両下肢(膝伸展)筋力低下の代償 |
| 顕著な姿勢の動揺 | 運動失調 |
| 左右非対称・麻痺側への偏り | 片麻痺 |
| 動作の開始困難・緩慢 | 無動(Parkinson病) |
| 最後に体幹を起こしきれない | 股関節伸展可動域制限 |
何で代償しているかから原因を逆算し、否定情報を消去法に使う。動揺なし=失調の否定、左右差なし=片麻痺の否定、最後に体幹を起こせた=股関節伸展制限の否定。
6-10 座位の力学と姿勢保持
椎間板内圧(腰椎への負荷)
- 立位を100とすると、負荷は仰臥位<立位<座位(背筋を伸ばす)<座位前傾<前傾で重量物を持つの順に増える
- 核心は座位>立位、そして前傾でさらに増大の2点
「立位が最大」「背筋を伸ばした座位>前傾座位」はいずれも誤り。前かがみの座位が最大。
ただし立位と「背筋を伸ばした座位」はほぼ同等で、資料によって前後が入れ替わる(Nachemsonの原著と改訂値でも違う)。順序を並べさせる設問で確実に言えるのは「前傾座位が最大」「仰臥位が最小」の2点だけなので、立位と座位の前後を入れ替えた選択肢が2つあれば複数正答を疑う。
低緊張・痙性でみられる座位姿勢
| 病態 | 特徴的な姿勢 | 対応・二次障害 |
| Down症候群(筋緊張低下・関節弛緩) | 股関節を大きく外転外旋して支持基底面を広げ、体幹を前に倒した開脚前傾座位。W座りも多い | 二次障害=体幹の側弯・股関節(亜)脱臼・環軸関節亜脱臼・外反扁平足・膝過伸展。環軸関節不安定性があるため前転など頸部に負荷をかける運動は避ける |
| 痙直型両麻痺 | 割り座(W座り)を好む。バニーホッピング(両下肢同時)で移動 | 割り座は股関節内旋・内転を強めるためあぐら座・横座りへ誘導。四つ這い位でのリーチなど左右交互性と体幹・上肢支持を促す遊びを選ぶ |
Down症候群で「足部の内反変形」「膝関節の屈曲拘縮」を挙げるのは誤り → 低緊張・関節弛緩が本態なので、変形は外反扁平足・過伸展など「緩い」方向に出る。
重度脳性麻痺の座位保持(車椅子設定)
- 体幹・骨盤の支持性が低いので、まず胸ベルトと骨盤ベルトで固定して安定をつくる
- 骨盤ベルトはアンチスラスト(45度方向)で前すべり・ずり落ちを防ぐ
- 座面はやや後傾(床面と平行は不適)、身体に適合したモールド座面(平面形状は不適)
- 頭部コントロール不良なら背もたれは頭部まで支える高さ(肩までは不足)
- 背もたれは軽度後傾(ティルト・リクライニング)で伸展パターンに対応(床面と垂直に固定するのは不適)