第1章|失語症候群の分類と鑑別

対応過去問 52問/難易度 ★★★☆☆

1-1 失語症とは

大脳の言語野が損傷されることによって生じる後天性の言語障害。

「話す・聞く・読む・書く」4つのモダリティすべてが程度の差はあれ障害される。

原因疾患

  • 脳血管障害(最多)―脳梗塞・脳出血・くも膜下出血
  • 頭部外傷―びまん性損傷が多い
  • 脳腫瘍―緩徐発症
  • 脳炎―発熱・意識障害を伴う
  • 変性疾患―原発性進行性失語(PPA)
⚠️ てんかん・心因性・発達障害・知的能力障害は原因にならない
(後天性・器質性が前提)

1-2 鑑別の3軸

この3軸の組み合わせで失語型がほぼ決まる
  • 流暢性―自発話は流暢か?
  • 聴覚的理解―話しかけた言葉を理解できるか?
  • 復唱―復唱は良好か?
💡 まず復唱で2分割する
復唱不良 → ブローカ・ウェルニッケ・伝導・全失語
復唱良好 → 超皮質性(運動・感覚・混合)・健忘性

1-4 各失語型の詳細

ブローカ失語

最も非流暢。発語失行を伴うことが多い。

  • 発話は短文・電文体(失文法:助詞・助動詞が省略される)
  • 喚語困難―語頭音ヒントが有効
  • 聴覚的理解は比較的保たれるが、複雑な構文理解は低下
  • 書字:漢字より仮名の障害が強い(書き取りでは漢字が保たれやすい)
  • 右片麻痺を高率に合併
  • 血管:中大脳動脈(上部枝)
⚠️ ブローカ野だけの損傷ではブローカ失語にならない
ブローカ野+中心前回下部・縁上回の損傷が必要

ウェルニッケ失語

流暢だが内容が乏しい。病識に乏しいことが多い。

  • 発話は流暢だが錯語・ジャルゴンが多い
  • 聴覚的理解が著しく低下
  • 音韻性錯語・意味性錯語が混在
  • 書字も障害(錯書)
  • 右同名性半盲を合併することがある
  • 血管:中大脳動脈(下部枝)
💡「流暢なのに通じない」がウェルニッケの本質

伝導失語

復唱が際立って障害される。自発話は流暢、聴理解は保たれる。

  • 接近行為(目標語に近づこうと何度も言い直す)
  • 語長効果(長い単語ほど困難)
  • 音韻性錯語が頻出
  • 口唇・顔面失行を合併することがある
  • 責任病巣:弓状束(ウェルニッケ野→ブローカ野への伝達路)の損傷
💡「つなぐ道(弓状束)が切れたから聞いた通りに繰り返せない」

全失語

4つの言語機能すべてが重度障害。最重症型。

  • 自発話ほぼなし(再帰性発話のみのこともある)
  • 聴理解も著しく低下
  • 右片麻痺・右半身感覚障害を高率に合併
  • 観念運動性失行の合併は少ない(病巣が前方のため)
  • 血管:中大脳動脈主幹部閉塞

1-3 主要失語型の鑑別表

失語型流暢聴理解復唱主な病巣(目安)
ブローカ××左前頭葉(ブローカ野+周辺)
ウェルニッケ××左側頭葉(ウェルニッケ野)
伝導×左縁上回・弓状束
全失語×××中大脳動脈広汎域
健忘性多様
超皮質性運動×前頭葉内側・補足運動野
超皮質性感覚×頭頂・側頭・後頭接合部
混合型超皮質性××言語野を孤立させる広汎病変

(続き)超皮質性失語・健忘性失語

超皮質性失語(3型)共通の特徴

復唱が保たれる。「言語野孤立症候群」とも呼ばれる。

流暢聴理解特徴的症状
運動×発話開始困難・発動性低下
感覚×反響言語・補完現象
混合型××反響言語のみ保たれる
⚠️ 超皮質性運動失語に発語失行はない(ブローカ失語との違い)
発語失行があれば非流暢でも「ブローカ失語」を疑う

超皮質性失語の血管支配

  • 超皮質性運動失語 → 前大脳動脈領域(補足運動野・前頭葉内側)
  • 超皮質性感覚失語 → 後大脳動脈(左)領域(頭頂側頭後頭接合部)
  • 混合型超皮質性失語 → 分水嶺梗塞(内頚動脈閉塞など広汎な低灌流)

健忘性失語(失名辞失語)

喚語困難が主症状。他の機能は比較的保たれる最軽症に近い型。

  • 呼称障害が顕著(迂言で代替することが多い)
  • 語頭音ヒントが有効
  • 流暢性・聴理解・復唱はほぼ正常
  • 多くの失語型の回復過程で経由する

1-5 責任血管まとめ

中大脳動脈(上部枝)→ ブローカ失語 中大脳動脈(下部枝)→ ウェルニッケ失語 中大脳動脈(主幹部)→ 全失語 前大脳動脈     → 超皮質性運動失語 後大脳動脈(左)  → 超皮質性感覚失語(純粋失読も) 分水嶺(低灌流)  → 混合型超皮質性失語

1-6 よく出る組み合わせ問題の対策

✅ 正しい組み合わせ
失語型症状・特徴
ブローカ失語失文法、発語失行、右片麻痺、仮名の障害が強い
ウェルニッケ失語ジャルゴン、病識欠如、右同名性半盲
伝導失語接近行為、音韻性錯語、語長効果、弓状束損傷
超皮質性運動失語発話開始困難、発動性低下(発語失行はない
超皮質性感覚失語反響言語、補完現象、復唱良好
混合型超皮質性失語反響言語、言語野孤立症候群、分水嶺梗塞
全失語再帰性発話、右片麻痺、中大脳動脈主幹部閉塞
健忘性失語喚語困難、呼称障害、迂言、回復過程で経由
❌ よくある誤りの組み合わせ(引っかけ)
  • 超皮質性運動失語 + 発語失行 → ×(発語失行なし)
  • ブローカ失語 + 復唱良好 → ×(復唱不良)
  • 伝導失語 + 聴理解不良 → ×(聴理解良好)
  • ウェルニッケ失語 + 非流暢 → ×(流暢)
  • ブローカ野のみ損傷 → ブローカ失語 → ×(周辺も必要)
  • 全失語 + 観念運動性失行(多い) → ×(合併少ない)
  • 超皮質性感覚失語 + 復唱不良 → ×(復唱良好)
  • 健忘性失語 + 聴理解不良 → ×(聴理解良好)

確認問題

Q1. 流暢・聴理解不良・復唱不良の失語型はどれか。
Q2. 前大脳動脈閉塞で生じやすい失語型はどれか。
Q3. 「復唱が保たれる」特徴を持つ失語型をすべて挙げよ。
Q4. 伝導失語の責任病巣はどこか。
Q5. ブローカ失語で書字障害が強いのは漢字か仮名か。
Q6. 超皮質性感覚失語に特徴的な発話症状を2つ挙げよ。
Q7. 分水嶺梗塞(低灌流)で生じやすい失語型はどれか。
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