第1章|失語症の基礎・分類

失語症 第1章

1-1 失語症の定義・原因・側性化

失語症の定義

  • 失語症=後天的・器質的な大脳の言語野損傷による言語機能の障害
  • 聴く・話す・読む・書くの全言語モダリティが、程度差はあれ障害される
  • したがって「読字が正常なタイプがある」「書字が正常なタイプがある」はいずれも誤り。失語症では読みも書きも障害されうるため、読字だけが正常な型・書字だけが正常な型は存在しない
  • 純粋失読・純粋失書は失語症とは区別する=読みだけ/書きだけが選択的に障害される独立した症候で、失語症の一型(=他モダリティが正常な失語症)ではない

失語症について「正しいもの」を選ぶ設問の型モダリティ(読字・書字)が正常な型はない原因は器質的な脳損傷(知的能力障害・心因性は原因にならない)/てんかんは原因になる(てんかん性失語)。この3点で選択肢はほぼ切れる。

失語症の原因

  • 脳血管障害(最多)・脳腫瘍・頭部外傷・脳炎・てんかん・多発性硬化症
  • 知的能力障害・心因性・発達障害は失語症の原因ではない
  • ギラン・バレー症候群は末梢神経疾患であり失語症の原因ではない

「失語症の原因として知的能力障害・心因性がある」は誤り。てんかんは原因となる。

言語の側性化

  • 右利きの約95〜99%は左半球が言語優位
  • 左利きの過半数は左半球が言語優位(右半球優位は少数)
  • 書字が左半球優位 → 読字も一般的に左半球優位
  • 言語が左半球優位 → 視空間機能は一般的に右半球優位
  • 言語が左半球優位 → 行為も一般的に左半球優位

「左利きの過半数は右半球が言語優位」は誤り。「言語が左優位なら視空間も左優位」も誤り → 視空間は右優位。

失語症の症状

  • 意図性と自動性の乖離:意図的に言えない語が自動的文脈では出る
  • 計算障害は失語症に伴いやすい(左半球損傷に伴う)
  • 失語症に伴いやすい:観念運動性失行・観念性失行・口舌顔面失行
  • 病識に乏しいことが多い失語症型=ウェルニッケ失語:重度の聴覚的理解障害のため自分の発話(錯語・ジャルゴン)の誤りに気づきにくく、病識の低下(病態失認)を伴いやすい
  • 病識が保たれやすいのはブローカ失語(発話の努力性・非流暢さを自覚し、もどかしさや抑うつを伴いやすい)
  • 伝導失語も病識は保たれ、誤りに自分で気づいて自己修正(接近行為)を繰り返す
  • 健忘性失語(語が出ない自覚あり)・超皮質性運動失語(発話開始困難の自覚あり)も病識は保たれやすい

「失語症に伴うことが多いのは計算障害」は正しい。着衣失行・相貌失認・視覚性失認は失語症との合併頻度は低い。病識の対比=後方型(ウェルニッケ)は病識に乏しい/前方型(ブローカ)は病識が保たれる

失語症と軽度の意識障害の鑑別

急性期には失語症と軽度の意識障害(せん妄など)が併存・混同されやすい。両者に共通して出る症状は鑑別に使えず、どちらかに偏る症状が手がかりになる

症状失語症軽度の意識障害鑑別の価値
計算障害✅(失算・言語性の計算障害)✅(注意低下でも生じる)どちらにもみられる=鑑別に使えない
書字障害✅(失書)✅(注意・構成の乱れで生じる)どちらにもみられる=鑑別に使えない
音韻性錯語❌(目立たない)失語症に特異的
幻視✅(せん妄で典型)意識障害に特異的
記憶障害❌(中核症状ではない)意識障害側に偏る

考え方計算・書字は注意や全般的処理にも依存するため、言語の障害でも意識の障害でも落ちる(非特異的)。一方、音韻性錯語=失語症/幻視=せん妄(意識障害)のように偏りのある所見が鑑別の決め手になる。
したがって「失語症と軽度の意識障害のどちらにもみられやすいのはどれか」と問われたら計算障害・書字障害を選ぶ。逆に「失語症に特異的なのはどれか」なら音韻性錯語を選ぶ。

1-2 古典型失語症候群の分類

失語症の3軸分類

古典型失語症候群の分類に必須な3項目:

1. 自発話(流暢性)

2. 聴理解

3. 復唱

「書称・読解」は分類に必須ではない。書称・読解は補助的情報。

8型分類

失語型自発話聴理解復唱主な特徴
ブローカ失語非流暢比較的良好障害発語失行・失文法・統語理解障害仮名の錯書・右片麻痺
ウェルニッケ失語流暢障害障害ジャルゴン・空語句(内容に乏しい空虚な発話)・音韻性/語性錯語・病識乏しい
伝導失語流暢良好障害接近行為・音韻性錯語/錯書・語長効果
全失語非流暢障害障害再帰性発話・右片麻痺
超皮質性運動失語非流暢良好良好発話開始困難・語列挙低下・保続
超皮質性感覚失語流暢障害良好反響言語・補完現象・語義失語を含む
混合型超皮質性失語非流暢障害良好反響言語・補完現象+言語野孤立症候群
健忘性失語(失名辞失語)流暢良好良好喚語困難が主・迂言が多い・音韻性錯語は少ない

症状語と失語型の対応(組合せ問題の頻出):ジャルゴン・空語句=ウェルニッケ失語/接近行為・語長効果・音韻性錯語(錯書)=伝導失語/発語失行・失文法・統語理解障害・仮名錯書=ブローカ失語/発話開始困難・保続=超皮質性運動失語/語義失語=超皮質性感覚失語
反響言語・補完現象は超皮質性感覚失語と混合型超皮質性失語の両方にみられる=どちらも復唱が保たれる群なので、「混合型超皮質性失語 ― 補完現象」も正しい組合せ(誤りとして選ばない)。
また「失名辞失語 ― 音韻性失語」は誤りの組合せ=失名辞(健忘)失語は喚語障害(語想起困難)が主体で、音韻性錯語が特徴的なのは伝導失語である。

逆向きの誤り組合せに注意。「ブローカ失語―ジャルゴン」「ウェルニッケ失語―語間代」「伝導失語―意味性錯語」「超皮質性感覚失語―接近行為」はいずれも誤り。ジャルゴンはウェルニッケ、接近行為は伝導、伝導失語の錯語は音韻性が主体。語間代はウェルニッケ失語の典型的特徴ではない。

ブローカ失語の詳細

  • 病巣:ブローカ野(左下前頭回弁蓋部・三角部)+中心前回下部
  • 典型的ブローカ失語はブローカ野単独病変では生じない(より広範な病変が必要)
  • 全失語からの移行例がある
  • 文構造が単純化(失文法)。失文法とともに統語理解の障害もみられる(理解は「比較的」良好であって完全ではない)
  • 書字では仮名の錯書が多い
  • 努力性発話に音韻性錯語を伴うことがある(音韻性錯語が少ない型ではない)
  • 発語失行の重症度と失語重症度は平行しない
  • 語頭音ヒントが有効
  • 復唱障害あり(良好ではない)
  • 病識は保たれやすく、ジャルゴンはみられない(ジャルゴンはウェルニッケ失語)

「典型的ブローカ失語はブローカ野に限局した病変で生じる」は誤り → より広範な病変が必要。「発語失行の重症度と失語重症度は平行する」も誤り。

ブローカ失語の「診断に重要な所見」と「重要でない所見」——所見がその型に固有か、多くの失語に共通するかで分ける。
診断に重要(型を絞れる)=①非流暢な発話・失文法/②発語失行(高率に合併し努力性発話の背景になる)/③復唱障害(復唱良好の超皮質性運動失語との鑑別点)/④聴覚的理解が比較的良好であること(流暢性失語との鑑別に必須なので、理解の程度を確かめること自体が重要)。
診断に重要でない(非特異的)=①保続——前頭葉症状として多くの失語・認知障害に出る非特異的所見/②語頭音ヒントの有効性——健忘(失名辞)失語などでこそ顕著で、ブローカ失語に固有ではない。ブローカ失語でも語頭音ヒントは有効だが、有効だからブローカ失語だとは言えない

ウェルニッケ失語の詳細

  • 病巣:ウェルニッケ野=左上側頭回後部を中心とする後方(側頭葉)病変中大脳動脈領域の梗塞で生じる
  • 発話は流暢で構音・プロソディは保たれ、発話量はむしろ多い(多弁)。発語失行はみられない(発語失行はブローカ失語の特徴)
  • 中核症状は聴覚的理解の障害語聾(語音認知の障害)を伴う「語聾 ― ウェルニッケ失語」は正しい組合せ
  • 復唱は障害される。とくに無意味語の復唱が困難(意味の支えが使えないため)
  • 錯語は音韻性錯語・語性錯語のどちらも多い。音韻性錯語が少ないのは失名辞(健忘性)失語・超皮質性失語で、ウェルニッケ失語はその逆側にいる
  • ジャルゴン空語句(内容に乏しい空虚な発話)がみられる=「ウェルニッケ失語 ― ジャルゴン」「ウェルニッケ失語 ― 空語句」はいずれも正しい組合せ
  • 病識に乏しい=理解障害のため自分の発話の誤りに気づけない。伝導失語のような自己修正(接近行為)は乏しい
  • 読解は仮名より漢字のほうが保たれる(日本語では表語文字の漢字が意味に直結し、音韻変換を要する仮名より残りやすい)
  • 声量低下はみられない(声量低下=視床性失語)。語間代も典型的特徴ではない

ウェルニッケ失語で誤りとされる記述・組合せ:「無意味語の復唱ができる」(復唱は障害される)/「ウェルニッケ失語 ― 発語失行」(発語失行はブローカ失語)/「ウェルニッケ失語 ― 語間代」「読解では漢字よりも仮名が保たれる」(逆。漢字が保たれる)/「ウェルニッケ失語 ― 片麻痺」「ウェルニッケ失語 ― 着衣失行」(いずれも随伴・合併しにくい)。

ウェルニッケ失語に随伴する症状・しない症状

随伴のしやすさは病巣がどこまで広がるかで決まる。ウェルニッケ野は左側頭葉の後方にあり、運動野(中心前回)からも右半球からも離れている。

症状随伴理由
語聾(語音認知障害)✅ 伴う聴覚性の語音処理が障害される。聴覚的理解障害の中身そのもの
右同名性上四分盲✅ 伴うことがある側頭葉深部を通る視放線(マイヤーループ)を巻き込むと生じる
右片麻痺❌ 伴いにくい病巣が後方(側頭葉)で、運動野(中心前回)から離れる。右片麻痺を伴いやすいのはブローカ失語・全失語
着衣失行❌ 合併しにくい着衣失行は右頭頂葉の症状で、そもそも半球が違う

半球と前後で切る失語=左半球着衣失行・相貌失認・地誌障害=右半球なので、失語型と右半球症状の組合せは「合併しにくい」側に落ちる。さらに左半球の中でも前方(ブローカ・全失語)=右片麻痺を伴う/後方(ウェルニッケ)=片麻痺を伴いにくいと前後で分ける。
したがって「合併しにくい組合せはどれか」と問われたら、ウェルニッケ失語 ― 着衣失行伝導失語 ― 相貌失認のような左右をまたぐ組合せを選ぶ。

流暢性失語の鑑別(ウェルニッケ失語をどう切り出すか)

ウェルニッケ・伝導・超皮質性感覚・健忘性はいずれも流暢である。流暢性では割れないので、聴理解と復唱の2軸で切る

聴理解復唱決め手
ウェルニッケ失語障害障害理解も復唱も悪い=流暢性失語で両方落ちるのはここだけ
超皮質性感覚失語障害良好復唱が保たれる(反響言語・補完現象が出る)
伝導失語良好障害理解が保たれ、接近行為・語長効果が出る
健忘性失語良好良好喚語困難と迂言だけが残る
純粋語聾障害(聴覚のみ)障害自発話・読み書きは正常=失語症ではない。聴覚入力だけが遮断される

「伝導失語とウェルニッケ失語は流暢性で鑑別する」は誤りどちらも流暢。両者を分けるのは聴覚的理解(ウェルニッケ=障害/伝導=良好)である。
また「発話は流暢・聴覚的理解は不良・復唱は良好」ならウェルニッケ失語ではなく超皮質性感覚失語。復唱が良いかどうかがウェルニッケ失語との分岐点になる。

回復パターン:ウェルニッケ失語は復唱が改善して超皮質性感覚失語へ移行し、さらに理解が改善すると健忘性失語へ移行する。「ウェルニッケ失語から超皮質性感覚失語に移行する」は正しい(=みられる)回復パターンなので、「みられないのはどれか」で選ばない。失語症の移行は重い型から軽い型へ・復唱が良くなる方向に進むのが原則である。

臨床対応での注意ウェルニッケ失語は透明文字盤など文字を使うAAC(拡大・代替コミュニケーション)の適応にならない。文字盤は言語機能が保たれ、出力手段だけが失われた状態(ALS・喉頭全摘後など)に使うものであり、言語そのものが障害される失語症では成立しない。

超皮質性運動失語の詳細

  • 語列挙が低下する(保たれるは誤り)
  • 発話の開始困難あり(自発話が乏しい・発動性の低下)
  • 保続がみられる(超皮質性運動失語=保続は正しい組合せ。保続は皮質下病変だけの症状ではない)
  • 構音は保たれ発語失行はみられない(発語失行はブローカ失語の特徴)
  • 聴覚的理解は比較的良好
  • 復唱は良好(超皮質性失語に共通)
  • 音韻性錯語は目立たない(超皮質性失語は音韻性錯語が少ない群)

「発話の開始困難はみられない」は誤り。「語列挙が低下しない」も誤り。「発語失行がみられる」は誤り → 発話開始困難(発動性低下)と発語失行を混同しない。発語失行はブローカ失語でみられる。

超皮質性感覚失語の詳細

  • 反響言語・補完現象あり
  • 流暢な発話
  • 復唱良好
  • 声量低下はみられない(視床失語でみられる)
  • 音韻性錯語は出現しない
  • 類音性錯読がみられる
  • 語義失語はこの型に含まれる:復唱は良好だが語の意味(語義)の理解が選択的に障害される。類音的錯読を示す
  • 語音認知は保たれる(聞いた音は繰り返せるので復唱が良好)。「超皮質性感覚失語―語音認知障害」は誤りの組合せで、語音認知障害は純粋語聾の特徴
  • 接近行為はみられない(接近行為は伝導失語)

語義失語の位置づけ:復唱良好+語の意味理解障害 → 超皮質性感覚失語に含まれる。超皮質性運動失語(復唱良好だが発話起動・発話量の低下が主で理解は比較的良好)、言語野孤立症候群=混合型超皮質性失語(復唱以外のほぼすべてが障害される重い型)、ジャルゴン失語(意味をなさない発話が多発する流暢性失語)、皮質下失語(視床・基底核病変による失語)とは区別する。

健忘性失語(失名辞失語)の詳細

  • 発話は流暢聴理解良好復唱良好
  • 喚語困難が主体で、語が出ないため迂言(回りくどい言い換え)が多い
  • 音韻性錯語は目立たない(少ない)。音韻性錯語が多いのは伝導失語・ウェルニッケ失語
  • 言いたい語が出ない自覚があり、病識は保たれやすい

音韻性錯語の多い/少ない多い=伝導失語・ウェルニッケ失語(ブローカ失語も努力性発話に伴うことがある)/少ない=失名辞(健忘性)失語・超皮質性失語。「失名辞失語は音韻性錯語が多い」は誤り。

全失語の詳細

  • 観念性失行の合併頻度が最も高い(着衣失行ではない)
  • 再帰性発話
  • 右側の体性感覚障害を伴う

伝導失語の詳細

  • 流暢な発話・聴理解良好・復唱障害
  • 接近行為(音韻的探索)が特徴
  • 誤りは音韻性錯語・音韻性錯書が主体(意味性錯語が主体ではない
  • 観念運動性失行の合併頻度が高い
  • 相貌失認とは合併しにくい
  • 口舌顔面失行を伴うことがある
  • 呼称成績に語長効果がみられる

「伝導失語では読み書きが保たれる」は誤り → 音韻性錯書がみられる。「伝導失語と相貌失認の合併が多い」は誤り → 合併しにくい。

混合型超皮質性失語(言語野孤立症候群)

  • 反響言語が出現
  • 補完現象もみられる=ことわざや慣用句の途中まで聞かせると末尾を自動的に補って言う。言語野そのものは孤立していても入出力の経路は保たれているため生じる(「混合型超皮質性失語 ― 補完現象」は正しい組合せ
  • 復唱が保たれる(言語野への入出力は保たれる)
  • 言語野孤立症候群とも呼ばれる

補完現象・反響言語は「復唱が保たれる群」に共通する所見超皮質性感覚失語混合型超皮質性失語両方でみられる。補完現象を超皮質性感覚失語だけの所見と覚えると、「混合型超皮質性失語 ― 補完現象」を誤りと判断してしまうので注意する。

超皮質性失語群でみられる症状・みられない症状

超皮質性失語(運動・感覚・混合型)に共通する核は復唱が保たれることである。ここから出る症状・出ない症状が決まる。

症状超皮質性失語で理由・本来の出どころ
反響言語✅ みられる復唱の機構が保たれるため、聞いた語をそのまま返してしまう
補完現象✅ みられる言いかけ(ことわざ等)の末尾を自動的に補う。復唱系が保たれる群に共通
表層性失読✅ みられる語義失語を含む超皮質性感覚失語で、意味を介さず規則読みに当てはめて誤る
再帰性発話❌ みられない常に同じ発話を繰り返す症状で、全失語・重度ブローカ失語など復唱も困難な重度非流暢性失語の症状
音韻性錯書❌ みられない音韻処理の障害を示す誤りで、伝導失語に典型。超皮質性失語は音韻処理が保たれる群

覚え方超皮質性失語=復唱が良い群。復唱が良いから反響言語・補完現象が出る。逆に再帰性発話は「復唱すらできない重度例」の症状なので同居しない——この対照で切ると迷わない。音韻の誤り(音韻性錯語・音韻性錯書)も、音韻処理が保たれる超皮質性失語では前面に出ない。

1-3 病巣と失語症型

血管領域と失語症型

血管失語症型
中大脳動脈ブローカ失語・ウェルニッケ失語・全失語(最多)
前大脳動脈超皮質性運動失語
後大脳動脈(左)純粋失読・超皮質性感覚失語
視床・基底核皮質下性失語(視床失語・線条体失語)

「前大脳動脈閉塞 → ブローカ失語」は誤り → 超皮質性運動失語。「後大脳動脈閉塞 → 伝導失語」も誤り → 純粋失読。

脳部位の解剖

部位場所
ブローカ野左下前頭回弁蓋部・三角部(左前頭葉)
ウェルニッケ野左側頭葉(上側頭回後部)
エクスナーの領域左前頭葉(書字中枢)
角回下頭頂小葉
縁上回下頭頂小葉(上頭頂小葉ではない)
紡錘状回側頭葉後下部(純粋失書の責任病巣)

「縁上回は上頭頂小葉」は誤り → 下頭頂小葉。純粋失書の責任病巣から下前頭回は含まれない。脳部位の最後方:紡錘状回 > 角回 > 縁上回 > 横側頭回 > 中心後回の順。

水平断(MRI・CT)で言語野の高さを読む

画像で言語関連領域を同定するには、まず断面に写っている目印の構造から「その断面の高さ」を決める。高さが決まれば、そこに含まれる領域は自動的に絞られる。

断面の高さ目印になる構造含まれる主な領域
低位眼窩・中脳・小脳・側頭葉内側側頭葉下部・眼窩前頭領域(ブローカ野は含まれない
中位側脳室前角・大脳基底核・島下前頭回=ブローカ野(前方外側)/上側頭回後部=ウェルニッケ野(後方外側)
高位側脳室体部より上・大脳鎌のみ上前頭回・中心前後回上部・頭頂葉(ブローカ野は含まれない

ブローカ野を探す手順=①基底核・島・側脳室前角がみえる高さの断面を選ぶ ②その断面の前方外側(シルビウス裂の前方=前頭弁蓋)を見る。ブローカ野は左下前頭回の弁蓋部・三角部なので、脳の縁に近い前外側に位置する。
逆に、眼窩・小脳が写る低位や、側脳室体部より高位の断面にはブローカ野は含まれない。「高さの目印 → 含まれる領域」の順で絞るのが画像問題の定石である。

前方(前頭葉)病変と後方病変の言語症状

症状の責任病巣は前方=発話・構音・語想起/後方=読み・語の意味という大枠で整理すると判別しやすい。

症状主な責任病巣前頭葉損傷で生じるか
発語失行ブローカ野近傍(左中心前回下部)✅ 生じる
純粋失書エクスナーの領域(左後部中前頭回)付近ほか✅ 生じる
喚語障害前頭葉を含む広範な言語関連領域✅ 生じる
聴覚的理解障害側頭葉が中心だが、広範な前頭葉病変・前方型失語でも軽度に出る✅ 生じうる
純粋失読左後頭葉+脳梁膨大部(後方)❌ 生じない

前後で対にして覚える前方症状=発語失行・純粋失書・喚語障害後方症状=純粋失読
「前頭葉損傷による言語症状として誤っているのはどれか」と問われたら、純粋失読だけが後方(左後頭葉+脳梁膨大部)由来なので外れる。純粋失読は視覚情報が言語野に届かなくなる離断で生じる症候であり、発話側の病巣では起こらない。

交叉性失語

  • 右利きで右半球損傷により生じる失語
  • 失文法が多い・非流暢型が多い
  • 言語理解が比較的良好
  • 頻度は観念運動性失行の合併が多いという特徴はない
  • 病変部位と失語型の対応は一定せず、「鏡像型では後方病変でブローカ失語が出現する」とは一般化できない

「交叉性失語は左利き右半球損傷で生じる」は誤り → 右利き+右半球損傷「観念運動性失行の合併が多い」も誤り。正しいのは「失文法が多い・非流暢型が多い・言語理解が比較的良好」の3点。

皮質下性失語

特徴
視床性失語声量低下・保続
線条体失語保続

視床性失語で「みられる」もの:声量低下(小声)・保続・意味性錯語(語性錯語)・書字障害・呼称障害。復唱は比較的良好で、変動しやすいのが特徴。
視床性失語で「みられない」もの:発語失行——発語失行は左中心前回下部・島前部などの皮質病変で生じ、視床病変では出ない。「視床性失語―発語失行」は誤った組合せ。

声量低下=視床性失語(「視床性失語―声量低下」は正しい組合せ)。一方保続は皮質下性失語に限らない超皮質性運動失語でも保続がみられるので、保続を視床・線条体だけの症状と覚えない。

1-4 原発性進行性失語

3型の特徴

流暢性主な症状原因
非流暢/失文法型非流暢発語失行・失文法・電文体・構文(統語)理解障害前頭側頭葉変性症
意味型流暢単語意味理解障害・呼称障害・類音的(類音性)錯読・表層性失読・失書/復唱は保たれる前頭側頭葉変性症
ロゴペニック型流暢音韻性錯語・音韻性錯読・喚語困難・復唱障害アルツハイマー病
  • 進行に伴いやがて認知症に至る
  • 脳梗塞の再発では生じない(変性疾患)
  • エピソード記憶障害・視知覚障害は初期には目立たない
  • 流暢・非流暢どちらのタイプもある
  • 意味型では類音的(類音性)錯読がみられる=音の似た別語へ読み誤る。表層性失読(規則化錯読)とあわせて意味型の読みの誤りとして押さえる。「意味型―類音的錯読」は正しい組合せ
  • 意味型は復唱が保たれるのが鑑別の要点。「意味型―復唱障害」は誤りの組合せ(復唱が障害されるのはロゴペニック型)

「ロゴペニック型では復唱はできるが喚語困難が強い」は誤り → ロゴペニック型では復唱障害あり。「意味型―復唱障害」も誤り → 意味型は復唱良好意味型の類音的錯読・ロゴペニック型の音韻性錯読・非流暢/失文法型の発語失行と構文理解障害は、いずれも正しい組合せなので誤りとして選ばない。

語義失語と意味型PPAの共通点:どちらも復唱が保たれるのに語の意味理解が障害され、類音的錯読を示す。語義失語は古典分類では超皮質性感覚失語に含まれる。

1-5 後天性小児失語

  • 脳の可塑性が高い
  • 聴覚的理解の低下が軽度とは限らない=理解障害を伴う例は多く、「聴覚的理解力の低下は軽度のことが多い」は誤り。発話面だけでなく理解面も必ず評価する
  • 目立つ特徴は発話量の減少・無言(緘黙)・非流暢・失文法を示すことが多い
  • 就学後に読み書き障害・学習上の問題を生じることが多い
  • 原因疾患は頭部外傷が最多(脳血管障害ではない)
  • てんかんを伴う一過性の失語症がある
  • 純粋語聾を示す一群がある
  • 伝導失語もみられる
  • 発症時年齢と予後が関係する
  • 日常コミュニケーションに支障がない程度に音声言語が回復することが多い
  • 統合失調症・いじめは原因にならない
  • 成人に比べて非左半球損傷が多い

「後天性小児失語の原因疾患は脳血管障害が最多」は誤り → 頭部外傷が最多。「成人に比べて予後不良」も誤り → 一般的に予後良好。「聴覚的理解力の低下は軽度のことが多い」は誤り → 理解も障害されることが多い。正しいのは「非流暢・失文法が多い」「就学後に学習上の問題を生じやすい」「原因は頭部外傷が多い」「日常会話に支障がない程度に音声言語が回復することが多い」

後天性小児失語の評価

  • 小児の評価では検査の対象年齢(適応年齢)が適否の決め手になる。成人失語症用の検査や学齢期以上向けの検査は、そのままでは幼児に使えない
  • 幼児期(4歳前後)には発達検査・言語発達検査を用い、発達の全体像と言語面の両方をとらえる
  • 失語症状の評価だけでなく、発達段階に照らした言語・コミュニケーションの評価が必要になる点が成人と異なる

4歳児に実施できる検査

検査評価内容・対象
新版K式発達検査乳幼児から使える発達検査。姿勢・運動/認知・適応/言語・社会の発達全体をみる
ITPA言語学習能力診断検査幼児に使える。言語学習能力(受容・連合・表出などの過程)を評価
LCスケール乳幼児の言語・コミュニケーション発達を評価
<S-S法>言語発達遅滞検査幼児の言語発達(記号形式-指示内容関係)を評価
質問-応答関係検査幼児の会話・談話の力を評価。4歳児に適する
絵画語い発達検査(PVT)幼児期から実施できる語彙理解の検査。4歳児に適する

4歳児には適さない検査

検査適さない理由
標準抽象語理解力検査(SCTAW)抽象語の理解を測る学齢期以上向けの検査。言語負荷が高く幼児には不適
失語症鑑別診断検査成人の失語症を対象とした検査。4歳児には適さない
教研式読書力診断検査(Reading-Test)学齢児の読書力を測る検査。読み書き学習前の4歳児には適さない
SLTA・WABなど成人用の総合的失語症検査成人失語症を前提に標準化されており、幼児の評価には用いない

幼児か学齢以上かで切り分ける発達検査(新版K式)・言語発達検査(S-S法・LCスケール・ITPA)・質問-応答関係検査・絵画語い発達検査=幼児期から可。標準抽象語理解力検査(SCTAW)・教研式読書力診断検査=学齢期以上が対象。失語症鑑別診断検査・SLTA・WAB=成人用。検査名を見たら「誰を対象に標準化された検査か」を先に確認する。

4歳児の評価で問われたとき、標準抽象語理解力検査は「適さない」側に入る。抽象語の理解は言語負荷が高く、幼児の発達段階に合わない。同様に教研式読書力診断検査は学齢児用失語症鑑別診断検査は成人用で、いずれも幼児には使えない。