第1章|失語症の基礎・分類

失語症 第1章

1-1 失語症の定義・原因・側性化

失語症の原因

  • 脳血管障害(最多)・脳腫瘍・頭部外傷・脳炎・てんかん・多発性硬化症
  • 知的能力障害・心因性・発達障害は失語症の原因ではない
  • ギラン・バレー症候群は末梢神経疾患であり失語症の原因ではない

「失語症の原因として知的能力障害・心因性がある」は誤り。てんかんは原因となる。

言語の側性化

  • 右利きの約95〜99%は左半球が言語優位
  • 左利きの過半数は左半球が言語優位(右半球優位は少数)
  • 書字が左半球優位 → 読字も一般的に左半球優位
  • 言語が左半球優位 → 視空間機能は一般的に右半球優位
  • 言語が左半球優位 → 行為も一般的に左半球優位

「左利きの過半数は右半球が言語優位」は誤り。「言語が左優位なら視空間も左優位」も誤り → 視空間は右優位。

失語症の症状

  • 意図性と自動性の乖離:意図的に言えない語が自動的文脈では出る
  • 計算障害は失語症に伴いやすい(左半球損傷に伴う)
  • 失語症に伴いやすい:観念運動性失行・観念性失行・口舌顔面失行
  • 病態失認が乏しいことが多い失語症型:ウェルニッケ失語

「失語症に伴うことが多いのは計算障害」は正しい。着衣失行・相貌失認・視覚性失認は失語症との合併頻度は低い。

1-2 古典型失語症候群の分類

失語症の3軸分類

古典型失語症候群の分類に必須な3項目:

1. 自発話(流暢性)

2. 聴理解

3. 復唱

「書称・読解」は分類に必須ではない。書称・読解は補助的情報。

8型分類

失語型自発話聴理解復唱主な特徴
ブローカ失語非流暢比較的良好障害発語失行・失文法・右片麻痺
ウェルニッケ失語流暢障害障害ジャルゴン・病識乏しい
伝導失語流暢良好障害接近行為・音韻性錯語
全失語非流暢障害障害再帰性発話・右片麻痺
超皮質性運動失語非流暢良好良好発話開始困難・語列挙低下
超皮質性感覚失語流暢障害良好反響言語・補完現象
混合型超皮質性失語非流暢障害良好反響言語+言語野孤立症候群
健忘性失語(失名辞失語)流暢良好良好喚語困難が主

ブローカ失語の詳細

  • 病巣:ブローカ野(左下前頭回弁蓋部・三角部)+中心前回下部
  • 典型的ブローカ失語はブローカ野単独病変では生じない(より広範な病変が必要)
  • 全失語からの移行例がある
  • 文構造が単純化(失文法)
  • 発語失行の重症度と失語重症度は平行しない
  • 語頭音ヒントが有効
  • 復唱障害あり(良好ではない)

「典型的ブローカ失語はブローカ野に限局した病変で生じる」は誤り → より広範な病変が必要。「発語失行の重症度と失語重症度は平行する」も誤り。

超皮質性運動失語の詳細

  • 語列挙が低下する(保たれるは誤り)
  • 発話の開始困難あり(自発話が乏しい・発動性の低下)
  • 構音は保たれ発語失行はみられない(発語失行はブローカ失語の特徴)
  • 聴覚的理解は比較的良好
  • 音韻性錯語は目立たない

「発話の開始困難はみられない」は誤り。「語列挙が低下しない」も誤り。「発語失行がみられる」は誤り → 発話開始困難(発動性低下)と発語失行を混同しない。発語失行はブローカ失語でみられる。

超皮質性感覚失語の詳細

  • 反響言語・補完現象あり
  • 流暢な発話
  • 復唱良好
  • 声量低下はみられない(視床失語でみられる)
  • 音韻性錯語は出現しない
  • 類音性錯読がみられる

全失語の詳細

  • 観念性失行の合併頻度が最も高い(着衣失行ではない)
  • 再帰性発話
  • 右側の体性感覚障害を伴う

伝導失語の詳細

  • 流暢な発話・聴理解良好・復唱障害
  • 接近行為(音韻的探索)が特徴
  • 観念運動性失行の合併頻度が高い
  • 相貌失認とは合併しにくい
  • 口舌顔面失行を伴うことがある
  • 呼称成績に語長効果がみられる

「伝導失語では読み書きが保たれる」は誤り → 音韻性錯書がみられる。「伝導失語と相貌失認の合併が多い」は誤り → 合併しにくい。

混合型超皮質性失語(言語野孤立症候群)

  • 反響言語が出現
  • 復唱が保たれる(言語野への入出力は保たれる)
  • 言語野孤立症候群とも呼ばれる

1-3 病巣と失語症型

血管領域と失語症型

血管失語症型
中大脳動脈ブローカ失語・ウェルニッケ失語・全失語(最多)
前大脳動脈超皮質性運動失語
後大脳動脈(左)純粋失読・超皮質性感覚失語
視床・基底核皮質下性失語(視床失語・線条体失語)

「前大脳動脈閉塞 → ブローカ失語」は誤り → 超皮質性運動失語。「後大脳動脈閉塞 → 伝導失語」も誤り → 純粋失読。

脳部位の解剖

部位場所
ブローカ野左下前頭回弁蓋部・三角部(左前頭葉)
ウェルニッケ野左側頭葉(上側頭回後部)
エクスナーの領域左前頭葉(書字中枢)
角回下頭頂小葉
縁上回下頭頂小葉(上頭頂小葉ではない)
紡錘状回側頭葉後下部(純粋失書の責任病巣)

「縁上回は上頭頂小葉」は誤り → 下頭頂小葉。純粋失書の責任病巣から下前頭回は含まれない。脳部位の最後方:紡錘状回 > 角回 > 縁上回 > 横側頭回 > 中心後回の順。

交叉性失語

  • 右利きで右半球損傷により生じる失語
  • 失文法が多い・非流暢型が多い
  • 言語理解が比較的良好
  • 観念運動性失行の合併が多い
  • 鏡像型の場合、後方病変でウェルニッケ失語(ブローカ失語ではない)

「交叉性失語は左利き右半球損傷で生じる」は誤り → 右利き右半球損傷。

皮質下性失語

特徴
視床性失語声量低下・保続
線条体失語保続

1-4 原発性進行性失語

3型の特徴

流暢性主な症状原因
非流暢/失文法型非流暢発語失行・失文法・電文体前頭側頭葉変性症
意味型流暢単語意味理解障害・呼称障害・表層性失読・失書前頭側頭葉変性症
ロゴペニック型流暢音韻性錯語・喚語困難・復唱障害アルツハイマー病
  • 進行に伴いやがて認知症に至る
  • 脳梗塞の再発では生じない(変性疾患)
  • エピソード記憶障害・視知覚障害は初期には目立たない
  • 流暢・非流暢どちらのタイプもある

「ロゴペニック型では復唱はできるが喚語困難が強い」は誤り → ロゴペニック型では復唱障害あり。「意味型では類音性錯読が出現する」は誤り → 意味型では表層性失読(規則化錯読)。

1-5 後天性小児失語

  • 脳の可塑性が高い
  • 成人と比べ聴覚的理解は比較的保たれやすい(が保たれるとは限らない)
  • 発話は非流暢・失文法を示すことが多い
  • 就学後に読み書き障害・学習上の問題を生じることが多い
  • 原因疾患は頭部外傷が最多(脳血管障害ではない)
  • てんかんを伴う一過性の失語症がある
  • 純粋語聾を示す一群がある
  • 伝導失語もみられる
  • 発症時年齢と予後が関係する
  • 日常コミュニケーションに支障がない程度に音声言語が回復することが多い
  • 統合失調症・いじめは原因にならない
  • 成人に比べて非左半球損傷が多い

「後天性小児失語の原因疾患は脳血管障害が最多」は誤り → 頭部外傷が最多。「成人に比べて予後不良」も誤り → 一般的に予後良好。「聴覚的理解は保たれる」は誤り → 保たれやすいが障害されることもある。