第5章|失語症の訓練とアプローチ

対応過去問 44問/難易度 ★★★★☆

5-1 訓練法の全体像

① 言語機能の直接訓練 刺激法(Schuell)・プログラム学習法 ② 機能再編成 遮断除去法(Wepman)・機能再編成法・キーワード法 ③ 実用コミュニケーション訓練 PACE・AAC ④ 認知神経心理学的アプローチ 意味セラピー・音韻セラピー・マッピング訓練 ⑤ 行動変容法 オペラント条件付けに基づくプログラム学習

5-2 刺激法(Schuellの刺激法)

強力で適切な聴覚刺激を繰り返し与えることで、言語処理系を賦活する。

重要なポイント

  • 主要な刺激は聴覚刺激(視覚刺激は補助的に使用)
  • 反応を強制せず引き出す(矯正はしない)
  • 前刺激(priming)を使って反応を促す
  • 反復刺激を用いる
  • 難易度を段階的に調整する
  • 誤反応の矯正よりも反応を引き出すことを優先
⚠️ 「刺激法では誤りを矯正する」は誤り
賦活(反応を引き出すこと)を重視

5-3 遮断除去法(Wepman)

言語モダリティ間に成績差がある場合、成績の良いモダリティを前刺激として使い、障害されたモダリティの遮断を除去する。

❌ 引っかけ頻出
「障害されているモダリティを前刺激として用いる」→ 誤り
○ 正しくは「保たれたモダリティを前刺激にする
💡 例:書字は困難でも音読は可能な場合
→ 音読を前刺激として書字を促す

5-4 機能再編成法・キーワード法

損傷された機能を、別の残存機能(神経経路)を使って代償・再構成する方法。

キーワード法(仮名文字訓練)

  • 仮名1文字を覚えるためにキーワード(絵と言葉)を使う
  • 例:「さ」→「さかな(魚)の絵」→「さ」の字を想起
  • 50音の系列(自動的言語)を利用する
  • モーラ分解・抽出能力が必要(実施前に必ず評価が必要)
  • 機能再編成法の一種であり、遮断除去法とは異なる
⚠️ 「キーワード法は遮断除去法の一つ」は誤り
機能再編成法が正しい

マッピング訓練

文の産生・理解における助詞の選択や意味役割の割り当てを訓練。「誰が・何を・どうした」という文法構造(意味マッピング)を扱う。

5-5 行動変容法(プログラム学習法)

行動理論(オペラント条件付け)に基づき、目標行動を設定し、スモールステップで達成する。

  • 目標行動を明確に設定する
  • スモールステップ(細かく段階化)
  • 強化子(うなずき・笑みも強化子になる)を適切に使う
  • 日常場面への般化も目標に含める
  • レスポンデント条件付けではなくオペラント条件付けを用いる

5-6 PACE

Promoting Aphasics' Communicative Effectiveness。日常会話に近い状況を訓練室に再現し、実用的なコミュニケーション能力を高める。

PACEの4原則

  1. 新しい情報の交換(お互いに知らない情報を伝え合う)
  2. 対等な役割分担(患者もSTも送り手・受け手を交互に担当)
  3. 伝達手段の自由な選択(発話・身振り・描画など何でも使える)
  4. 伝達内容へのフィードバック(内容が伝わったかどうかをフィードバック)
⚠️ PACEで禁じられていること
誤り反応の矯正・発話以外の手段の禁止・役割の固定

PACE vs 刺激法

PACE刺激法
目的実用コミュニケーション言語機能の賦活
手段自由(発話・身振り等)主に聴覚刺激
役割対等(交互に交代)ST主導
誤り矯正しない矯正しない

5-7 認知神経心理学的アプローチ

言語情報処理モデルを用いて障害されているモジュールを特定し、そのモジュールに焦点を当てた訓練を計画する。

  • 失語型ではなく障害されたモジュールに基づいて訓練を選択する
  • 単語の親密度・心像性・語長などの語彙属性が反応に及ぼす影響を重視
  • 誤反応のパターン分析が重要
⚠️ 「失語型に基づいて治療法を選択する」は誤り
障害されたモジュールを特定して選択する

意味セラピー・音韻セラピー

  • 意味セラピー:意味システムの活性化。カテゴリー分類・特徴判断を通じて呼称を改善。喚語障害に対して用いる
  • 音韻セラピー:音韻出力処理の改善。復唱・音読を用いて音韻表象にアクセスする経路を強化。音韻性錯語の改善に用いる

5-8 CI言語療法

Constraint-Induced Language Therapy。発話以外の代償手段(ジェスチャー等)の使用を制限し、発話を強制的に使わせることで発話機能の改善を図る。

  • 短期集中的に実施(毎日・高頻度)
  • 発症後早期から実施可能
  • 段階的に課題を複雑にしていく
⚠️ 「CI言語療法では発話を制限する」は誤り
制限するのはジェスチャー等。発話を増やすことが目的

5-9 AAC(拡大・代替コミュニケーション)

発話以外の手段(身振り・文字板・コミュニケーションボード・描画など)を活用してコミュニケーションを補う。

  • 急性期から導入する(待つ必要はない)
  • 軽度例にも適応がある(発話の補助として)
  • 複数の手段を組み合わせて使う
  • 習得のための訓練が必要
  • コミュニケーション相手への指導も重要
⚠️ 「重度例にのみ適応」「軽度例では不要」は誤り
軽度例にも用いる

5-10 回復期・生活期のアプローチ

急性期

  • コミュニケーション手段の確保が最優先
  • リスク管理・予後予測
  • 家族・スタッフへの情報提供・助言
  • 言語機能の精密評価よりも機能状態の把握と環境調整
⚠️ 「急性期は言語機能訓練に集中する」は誤り
コミュニケーション確保・環境調整が優先

生活期(維持期)

  • ICFの活動・参加への支援
  • 言語機能への介入も継続して行う(「言語機能訓練は行わない」は誤り)
  • 患者会・当事者グループへの参加支援
  • 家族・介護者への助言指導
  • 全般的認知機能の維持

5-11 訓練法の選び方まとめ

症状・目的優先される訓練法ポイント
言語機能全般の賦活刺激法聴覚刺激中心・矯正なし
モダリティ間に成績差がある遮断除去法保たれたモダリティを前刺激に
仮名書字の障害キーワード法(機能再編成法)事前にモーラ分解・抽出検査を実施
実用コミュニケーションPACE4原則を守る
喚語障害(意味レベル)意味セラピーカテゴリー分類・特徴判断
音韻性錯語の改善音韻セラピー復唱・音読を活用
発話の増加を促すCI言語療法ジェスチャーを制限・短期集中
障害モジュールを特定して訓練認知神経心理学的アプローチ失語型ではなくモジュールで選択
重度例のコミュニケーションAAC・PACE急性期から導入可

確認問題

Q1. PACEの4原則を答えよ。
Q2. キーワード法は機能再編成法か遮断除去法か。
Q3. CI言語療法で「制限」されるのは何か。
Q4. 急性期の重度失語症者への対応として最も優先度が低いのはどれか。(a. コミュニケーション手段の確保 b. まとまった発話の訓練 c. 家族への情報提供)
Q5. 遮断除去法で「前刺激」として使うのは、障害されたモダリティか保たれたモダリティか。
Q6. 刺激法の主要な刺激様式は何か(視覚か聴覚か)。
Q7. AACは軽度失語症者に適応があるか。
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