第4章|失語症の訓練

失語症 第4章

4-1 刺激法・遮断除去法・プログラム学習法

刺激法(シュール Schuell の刺激法)

  • 失語症を言語能力の「喪失」ではなくアクセスの障害と捉える
  • 強力で制御された聴覚刺激を中心に用いる
  • 反応を強制するのではなく引き出す
  • 構成要素は①強力で制御された聴覚刺激 ②反復刺激 ③刺激の難易度調整 ④フィードバックの4つ
  • 誤り反応の矯正は行わない(フィードバックはする)
  • 視覚刺激も活用される(聴覚刺激だけではない)
  • 「前刺激」は刺激法の構成要素ではない(前刺激は遮断除去法の用語)

「刺激法 → 強力な聴覚刺激」は正しい。「刺激法では誤り反応を矯正する」は誤り。シュールの刺激法で用いられないのは「前刺激」=反復刺激・聴覚刺激・フィードバック・刺激の難易度調整はいずれも用いる。

遮断除去法(deblocking)

  • 保たれた(良好な)モダリティを前刺激として与える
  • 前刺激の直後に障害されたモダリティで反応させ、遮断を解除(賦活)する
  • 原理は「良い様式で悪い様式を賦活する」適切な前刺激の選択が重要
  • 言語様式間に成績差がある場合に適用できる

「遮断除去法では障害された(言語)モダリティを前刺激として用いる」は誤り → 前刺激に用いるのは保たれたモダリティ。前刺激と反応のモダリティを入れ替えた引っかけが頻出。

プログラム学習法(行動変容法)

  • 目標行動を設定する
  • スモールステップを重視
  • 強化子(うなずきや笑みも強化子となる)
  • 日常場面への般化を目指す
  • レスポンデント条件付け(古典的条件付け)ではなくオペラント条件付け

「うなずきや笑みは強化子とならない」は誤り → 強化子となる。「レスポンデント条件付けを行う」は誤り → オペラント条件付けが基本。

4-2 機能再編成法・キーワード法

機能再編成法

  • 残存機能を活用して新たな経路を形成
  • 学習能力が必要
  • 典型例:キーワード法による仮名書字訓練(保たれた語の意味・漢字のイメージを介して仮名書字を再建)
  • 例:指折り法(モーラを指で数えて音韻操作を補う。目的は発語・リズムであり喚語訓練ではない
  • 描画を代償手段として用いる・環境調整を行うのは「代償的アプローチ」であり機能再編成法ではない
  • 名前の書字を繰り返すのは反復による刺激法的訓練、語頭音ヒントで呼称を促すのは残存機能への促通であり機能再編成法ではない
  • 強力な聴覚刺激を使用するのは刺激法(機能再編成法ではない)

「機能再編成法では強力な聴覚刺激を使用する」は誤り → 刺激法の説明。機能再編成法=障害された機能を、保たれた別系統の機能を組み込んで再建する。代償法(描画・環境調整)や刺激法(反復・促通)とは原理が異なる。

キーワード法(仮名書字訓練)

  • 仮名書字障害の強い患者に用いる
  • モーラ分解・抽出の能力が必要(語頭音の抽出を手がかりにする)
  • 各仮名に対応するキーワード(絵・語)の意味を介して、目的の仮名を想起させる
  • 50音表(列)の配列は手がかりにしない(50音列を利用する方法ではない)
  • 意味を介する経路を利用する
  • 仮名文字(読み書き)の訓練である
  • 機能再編成法の一つ
  • キーワードは患者と相談しながら設定する
  • 表層失書の患者には用いない(表層失書には別のアプローチ)
  • 書字訓練への意欲が必要

「仮名キーワード法は50音列を利用する」は誤り → 50音表の配列ではなく、キーワードの意味を経由して仮名を導く。一方で「機能再編成法である」「仮名文字の訓練である」「意味を介する経路を利用する」「モーラ分解・抽出が必要」はいずれも正しい。「キーワード法は遮断除去法の一つ」は誤り → 機能再編成法。「表層失書の患者にキーワード法を用いる」は誤り。

文字(漢字・仮名)の学習方略

文字の習得を支援する方略は、どの感覚・どの経路を手がかりにするかで分かれる。学習者の得意な方略に合わせて選ぶ。

方法内容
聴覚法字の成り立ち・構成をことばで意味づけして覚える言語的方略。言語的な理解が得意な学習者に向く「明」を「お日さまと月をあわせるとすごく明るい」と言語化して覚える
多感覚法視覚・聴覚・触覚・運動など複数の感覚を同時に用いて学習する。書く動作や手の運動感覚が手がかりになりやすい学習者に向く字をなぞりながら声に出し、形を目で追う
キーワード法よく書ける語(キーワード)の語頭音を手がかりに目的の仮名を導く。機能再編成法の一つ「か」→「かさ」の絵から「か」を想起
バイパス法障害された経路を避け、保たれた手段で代償する考え方手書きが困難ならキーボード入力を使う
DAISY音声と文字を同期して提示するデジタル図書の規格。読みの支援に用いる(学習方略そのものではない)読み上げに合わせて該当箇所がハイライトされる

聴覚法と多感覚法の切り分けことばで説明して覚えさせる=聴覚法(言語的方略)複数の感覚を併用する=多感覚法。「お日さまと月で明るい」のように字の構成を言語化する指導は聴覚法にあたる。
視覚的な記憶が苦手でも言語的な理解が得意なら聴覚法、書く動作・触覚が手がかりになるなら多感覚法、というようにつまずきの背景をアセスメントして方略を選ぶ。一つの方法に固執しない。

4-3 PACE・実用コミュニケーション訓練

PACEの原則

1. 新しい情報の交換(事前確認なし)

2. 対等な役割分担(送り手・受け手が交替)

3. 伝達手段の自由な選択(発話・ジェスチャー・描画など)

4. 伝達内容へのフィードバック(矯正ではなく)

「PACEでは誤り反応の矯正を行う」は誤り → フィードバックを行う(矯正ではない)。「PACEでは役割が固定される(失語症者が送り手)」は誤り → 役割は交替する。「PACEでは発話が禁じられる」は誤り → 複数の手段を自由に選択。「統語構造の正確さを重視する」は誤り → 伝達の成否を重視。

4-4 認知神経心理学的アプローチ

  • 言語情報処理モデルを用いて計画
  • 症状の基底にある障害を特定
  • 誤反応の分析を行う
  • 単語の親密度・心像性が反応に及ぼす影響を重視
  • 失語型に基づいて治療法を選択しない(症状の基底障害に基づく)

「認知神経心理学的アプローチでは失語型に基づいて治療法を選択する」は誤り → 失語型ではなく、障害されているモジュールに基づいて選択する。

4-5 喚語訓練・呼称訓練

喚語機能改善の訓練法

  • 喚語機能改善の訓練法=意味セラピー・音韻セラピー・機能再編成法の3つ
  • 意味セラピー:意味表象(意味システム)の活性化。意味的手がかりから語の想起を促す
  • 音韻セラピー:音韻的アプローチ(復唱・音読を用いる)。語頭音などの音韻的手がかりで想起を促す
  • 機能再編成法:保たれた機能を介して語の想起を再建する
  • CI言語療法:短期集中・段階的・ジェスチャー制限・発話の改善を図る(早期開始ではなく発症後一定期間後から)

喚語訓練ではないもの(頻出)

  • モーラ指折り法=モーラを指で数える発語・リズム(構音)の訓練。喚語訓練ではない
  • マッピングセラピー(マッピング訓練)=動詞と項の対応づけを扱う構文(失文法)の訓練。喚語訓練ではない

「喚語機能改善のための訓練法でないのはどれか」→ モーラ指折り法・マッピングセラピー。マッピング訓練は統語・文法的訓練であり、発語失行の訓練でもない。CI言語療法は「発症後早期に開始する」は誤り → 一定期間後に短期集中。語頭音キューによる呼称訓練の効果は日常生活への般化が難しい(しやすくはない)。

4-6 マッピング訓練・その他の訓練

マッピング訓練

  • 文の構造(格関係)の理解と産生を目的とする
  • 助詞の選択よりも意味役割と構文構造の対応を扱う
  • 発語失行の訓練法ではない

語順ストラテジー

失語症構文検査で語順ストラテジーの場合、理解困難な文:

  • 受動文・可逆文(語順通りに解釈すると誤る文)
  • 例:「太郎を次郎が誉める」「白猫が黒猫に追いかけられる」

4-7 重度失語症・AAC

重度失語症の優先訓練

重度失語症では「残存能力で実用的な意思疎通を成立させる」ことを最優先にする。

優先順位が高い訓練:

  • コミュニケーション手段の確保
  • コミュニケーションボードの使用訓練(絵や文字を指して意思を伝える代替手段。重度でも実用的な意思疎通が可能になるため早期から導入する)
  • 単語の聴覚的理解訓練(理解は意思疎通の基盤で、他の訓練の土台になる。比較的取り組みやすく効果も得やすい)

優先順位が低い訓練(重度例には負荷が高い):

  • 発話での「はい」「いいえ」の表出訓練=重度失語では発話自体が困難で口頭での確実な表出を引き出しにくい。まず非言語的手段で意思疎通を確保する
  • 仮名単語の写字訓練・仮名単語の音読訓練=重度例では書字も音読も困難で、初期の意思疎通確保に直結しない
  • まとまった内容の正確な発話訓練(重度では困難)

重度失語症の優先度優先度高=コミュニケーション・ボード/単語の聴覚的理解(=代替手段の確保+理解の基盤づくり)。優先度低=発話表出(はい・いいえを含む)/仮名の写字・音読(=負荷の高い言語課題)。「はい・いいえ」は反応手段としては有用でも、それを発話で表出させる訓練は重度例では優先されない点に注意する。

重度失語症の評価

  • 評価は言語に依存しない手段(実物・絵・身振り・Yes-No)で行う
  • 教示を文字で行うのは不適切(重度失語では読解も障害されるため)。簡単なジェスチャーや絵を活用する
  • Yes-No反応の正確さをみる(適切)
  • 代償手段の使用能力をみる(適切)
  • 非言語的な象徴機能をみる(適切)
  • 正反応が得られない場合は段階的に複数のヒントを与える(適切)

重度失語症者の評価で誤っているのは「教示は文字で行う」の一点。代償手段の使用能力・複数ヒントの提示・Yes-No反応・非言語的象徴機能はいずれも適切な評価内容。「重度失語症者には改訂長谷川式が正しい評価が困難」は正しい → 言語課題が多いため。

失語症とAAC

  • 軽度失語症例にも適応がある(重度だけでなく)
  • 急性期から導入する
  • 複数の手段を導入する
  • コミュニケーション相手への指導も行う
  • 習得のための訓練が必要
  • 重度失語症に50音表は不適(文字の理解・産生が困難なため)

「軽度例ではAACは不要」は誤り。「重度失語症の訓練として適切でないのは50音表の使用」は正しい。

4-8 生活期・急性期のアプローチ

急性期

  • 急性期の言語聴覚療法の目的=①予後予測 ②コミュニケーション手段の確保 ③家族やスタッフへの助言 ④患者・家族・スタッフへの情報提供
  • 集団訓練より個別訓練を優先(急性期では集団訓練を優先するは誤り)
  • リスク管理は全病期に共通する前提・配慮であり、急性期言語聴覚療法の「目的」ではない

「急性期では集団訓練を優先する」は誤り → 個別訓練を優先。「急性期には言語機能訓練に集中する(代償手段は後で)」は誤り → 急性期から代償手段を活用する。

生活期

  • ICFの活動・参加への支援が重要
  • 言語機能面へのアプローチも行う(行わないは誤り)
  • 患者会を紹介する
  • 全般的認知機能の維持を図る
  • 重度例でも主に失語症者本人とやり取りする(家族とのみでなく)

訓練の原則

  • 発語失行と言語機能障害の改善の程度は平行しない
  • 家族への支援は急性期から行う
  • 生活機能の予後は失語症重症度だけでは決まらない
  • 重症例では自然回復を待たずに実施する

重症度に応じた課題難度の設定

訓練課題は対象者の重症度に合わせて難度を選ぶ易しすぎても難しすぎても効果は乏しい——易しすぎる課題は既にできることの反復にしかならず、難しすぎる課題は誤反応ばかりを生む。わずかな援助で正反応が引き出せる水準が適切な難度である。

重症度適した課題の例ねらい
重度高頻度語・日常語の単語レベルの理解/音読・読解、絵と語のマッチング、ジェスチャー・描画などの代償手段基礎的な語彙処理の再建と伝達手段の確保
中等度短文の理解・産生、呼称訓練、単語〜短文の書字語から文への橋渡し
軽度談話の産生ニュース文など長く複雑な文章の聴理解構文の訓練会話の訓練実生活で必要な高次の言語運用の改善

軽度失語症の訓練で選ぶのは高次の課題=談話・構文・複雑な文章の聴理解・会話。高頻度語の読解のような基礎課題は軽度例では既に可能で、課題として易しすぎるため適切でない(重度〜中等度向けの課題である)。
「この訓練は適切か」を問われたら、訓練法そのものの善し悪しではなく、対象者の重症度と課題難度が釣り合っているかで判断する。軽度例には実用場面に近い課題を、重度例には基礎的・代償的な課題を置く。

4-9 失語症の回復・予後

回復に関与する因子

  • 発症時の失語症重症度
  • 言語訓練の質と量
  • 病巣周辺の脳領域(ペナンブラ)
  • 病巣対側の脳領域も関与する
  • 発症から数日以内にも回復がみられる(小さくはない)

「発症から数日以内の回復は小さい」は誤り → 急性期の回復も大きい。

失語症の回復パターン

回復パターン正否
超皮質性運動失語 → 伝導失語❌(みられない)
超皮質性感覚失語 → 健忘性失語
ブローカ失語 → 純粋語唖
ウェルニッケ失語 → 超皮質性感覚失語
全失語 → 健忘性失語

4-10 失語症会話パートナー・グループ訓練

失語症会話パートナーの役割

✅ 役割:

  • 失語のある人同士の会話の橋渡し
  • 緊急時の警報などを伝達
  • 地域社会での失語への理解促進
  • 周囲からの情報をわかりやすく伝達

❌ 役割でない:

  • 呼称訓練を実施する(専門的訓練はSTの役割)

失語症者とのコミュニケーション

✅ 適切:

  • 心情や意思を推測する
  • 話題に関連するキーワードを文字で示す
  • 失語症者が利用する伝達手段を使用する

❌ 不適切:

  • 音節ごとに区切って話す(ゆっくり・明瞭に話すは有効だが音節区切りは不自然)
  • 発話の誤りをその都度訂正する

4-11 インテーク面接

インテーク面接の目的

✅ 目的:

  • ラポール形成
  • 主訴・現病歴の概要把握
  • 会話能力の評価
  • 言語以外の高次脳機能障害の把握

❌ インテーク面接の目的でない:

  • 失語症のタイプと重症度を明らかにする(精査・詳細評価の役割)