第1章|神経学的診察と症候

対応過去問 19問/難易度 ★★★☆☆
📝 このノートはAI編集部が過去問から作成した学習用まとめです。基礎医学領域は専門監修前のため、診断基準・数値・薬剤などの細部は必ず成書・最新ガイドラインで確認してください。
この章のねらい:臨床神経学のすべての疾患は、最後は「どんな症候として現れるか」に落ちます。この章で作る症候の物差し(上位/下位運動ニューロン・錐体路/錐体外路・失調・脳神経)は、STが担当する運動障害性構音障害の分類運動障害性構音障害)や嚥下・構音に関わる脳神経の理解に直結します。神経の解剖生理そのものは神経系ノートで固めてください。ここでは「疾患を読むための共通言語」を先に身につけます。

1-1 脳神経とその障害

脳神経は12対。ST臨床では構音・嚥下・聴覚・顔面に関わる神経(V三叉・VII顔面・VIII内耳・IX舌咽・X迷走・XII舌下)がとくに重要です。障害像=「その神経が何を支配するか」から導けます。

脳神経主な働き障害像(頻出)
II 視神経視覚同側の視力低下(同名半盲は視索以降)
III 動眼神経眼球運動の大部分・上眼瞼挙筋・瞳孔(縮瞳)眼瞼下垂・散瞳・眼球の外下方偏位(内転・上転・下転が障害、外転は保たれる
VI 外転神経外直筋外転できず内斜視になる
VII 顔面神経表情筋・舌前2/3の味覚(鼓索神経)・アブミ骨筋・涙腺/唾液腺顔面麻痺・閉眼不能・聴覚過敏・涙/唾液減少(乾燥)・味覚低下
VIII 内耳神経(前庭・蝸牛)聴覚・平衡感音難聴・めまい・眼振(前庭神経鞘腫の好発)
IX 舌咽/X 迷走咽頭・軟口蓋・舌後1/3味覚・発声嚥下嚥下障害・開鼻声・カーテン徴候(軟口蓋が健側に引かれる)
XI 副神経胸鎖乳突筋・僧帽筋肩の挙上・首の回旋の障害
XII 舌下神経舌の運動舌の偏位(患側へ)・萎縮
組合せの正誤(頻出):右動眼神経障害=右眼瞼下垂は正しい。一方、舌前2/3の味覚=顔面神経(鼓索神経)/後1/3=舌咽神経、カーテン徴候=迷走神経(副神経ではない)、外転神経障害は内側偏位(外側偏位ではない)。

ひっかけ①(動眼神経麻痺):動眼神経麻痺でみられないのは「外転障害」。外転は外転神経の担当なので保たれる。散瞳・内転障害・上転障害・下転障害はいずれもみられる。

ひっかけ②(顔面神経麻痺の症状でないもの):右顔面神経麻痺で「右瞳孔が散大する」は誤り——瞳孔は動眼神経の支配。顔面神経麻痺では、右眼の乾燥(涙腺)・音が大きく響く(アブミ骨筋麻痺=聴覚過敏)・口角から水が漏れる・舌右側の味覚低下がみられる。

反射と脳神経

反射は「求心路(感覚)→中枢→遠心路(運動)」の脳神経の組合せで覚えます。

反射求心路→遠心路
対光反射視神経(II)→動眼神経(III)
瞬目(角膜)反射三叉神経(V)→顔面神経(VII)
咽頭反射・嘔吐反射舌咽神経(IX)→迷走神経(X)
下顎反射三叉神経(V)→三叉神経(V)
「顔面神経が関わる反射」=瞬目(角膜)反射(遠心路が顔面神経)。対光反射(III)・咽頭反射/嘔吐反射(IX・X)・下顎反射(V)と混同しない。

脳神経の腫瘍・再建(ST関連)

神経鞘腫(シュワン細胞由来)前庭神経(VIII)に好発(いわゆる聴神経腫瘍)=一側性の感音難聴・耳鳴・めまいで気づかれます。顔面神経麻痺が陳旧化した場合の再建として側頭筋移行術などがあり、麻痺が長引くと表情筋は萎縮します(形成外科領域・詳細は監修前)。

1-2 運動・感覚・反射と伝導路徴候(上位/下位・錐体路/錐体外路・失調)

神経疾患を読む最重要の軸が「上位運動ニューロン(UMN)」と「下位運動ニューロン(LMN)」の区別です。ここを外すと球麻痺/仮性球麻痺(第3章)も混乱します。

上位運動ニューロン障害(錐体路)下位運動ニューロン障害(前角細胞・末梢神経)
筋トーヌス痙縮(亢進)弛緩(低下)
腱反射亢進低下・消失
病的反射バビンスキー徴候(+)なし
筋萎縮・線維束性収縮目立たない萎縮(+)・線維束性収縮(+)
下位運動ニューロン徴候の代表=線維束性収縮(fasciculation)。痙縮・バビンスキー徴候・腱反射亢進はいずれも上位(錐体路)の徴候。錐体路障害でみられるのはバビンスキー徴候(腱反射消失・深部感覚障害・振戦・排尿障害ではない)。

反射の生理(膝蓋腱反射)

膝蓋腱反射は脊髄性の単シナプス反射(伸張反射)。筋を叩打すると筋紡錘が伸張を感知し、Ia群求心性線維が脊髄へ伝え、α運動神経が筋を収縮させます。反射亢進は錐体路症状です。

ひっかけ:γ(ガンマ)線維が筋伸張を伝える」は誤り。筋伸張を中枢へ伝えるのはIa群感覚線維。γ運動線維は筋紡錘の感度を調節する遠心路で、伸張の「求心」担当ではない。

感覚・失調とロンベルグ徴候

「ふらつき(失調)」は小脳性か・深部感覚性かの切り分けが要点です。目印はロンベルグ徴候(閉眼で悪化するか)。

失調のタイプロンベルグ徴候病巣
深部感覚性(後索性)失調陽性(開眼で保てるが閉眼で倒れる脊髄後索など深部感覚路
小脳性失調陰性(開眼でも不安定)小脳・小脳路
典型:「開眼では立位保持できるが閉眼ではできない」=ロンベルグ徴候陽性=深部感覚障害=脊髄後索の病巣。視覚で代償できる=視覚を切ると倒れる、が深部感覚性の特徴。小脳半球・黒質・被殻・視床下核ではこの現象は起きにくい。

病変部位と症候の対応

病変部位典型症候
内包対側の片麻痺・上肢巧緻性障害
小脳失調(協調運動障害)
末梢神経腱反射低下(亢進ではない)・弛緩
脳幹嚥下障害・脳神経症状・交叉性障害
前頭葉自発性低下・遂行機能障害
視床体性感覚障害・視床痛・視床失語・健忘・傾眠(片麻痺は主症状でない

ひっかけ:末梢神経―腱反射亢進」は誤り(末梢神経障害では腱反射は低下)。また視床の損傷で生じないのは片麻痺——視床は感覚の中継核で、運動麻痺は内包・皮質脊髄路の障害による(視床病変では体性感覚障害・健忘・傾眠などが前景)。

歩行の分類

歩行代表疾患
すくみ足・小刻み歩行パーキンソン病
痙性片麻痺歩行(分回し)被殻出血など片麻痺
はさみ脚歩行痙性対麻痺(ミエロパチー)
失調歩行(開脚・動揺)脊髄小脳変性症
動揺性(アヒル)歩行近位筋筋力低下(筋ジストロフィー)

ひっかけ:突進歩行―進行性筋ジストロフィー」は誤り。突進現象はパーキンソン病の特徴で、筋ジストロフィーは動揺性歩行。歩行の型は疾患のよい手がかりになる。

1-3 神経学的検査(神経画像・電気生理)

検査は「何を見る検査か」=形態・機能・血管・電気活動で分類すると組合せ問題に強くなります。

見るもの検査要点
形態(構造)CT・MRI出血・梗塞・萎縮。CTは脳出血の急性期に鋭敏(高吸収)
機能(活動・血流・代謝)fMRI・PET・SPECTfMRI=BOLDで脳活動を計測(放射線被曝なし)。PET/SPECT=血流・代謝
血管超音波ドップラー・MRA・血管造影狭窄・閉塞・動脈瘤。血管造影はX線=被曝あり
電気活動・眼球運動脳波(EEG)・電気眼振計(ENG)てんかん波・眼振の記録
fMRIの整理:fMRIは脳活動を計測する機能検査。「脳萎縮の診断」は構造MRIの役割で、fMRIの目的ではない。磁気刺激を加えるのはTMS、脳血管を描くのはMRA、放射線被曝はない

ひっかけ(被曝の有無):放射線被曝があるのは血管造影(X線)。脳波・MRA・超音波・近赤外線分光法(NIRS)は被曝なし。電気眼振計(ENG)で記録しないのは足踏み検査(=身体の偏りを見る検査。温度刺激・視標追跡・視運動性眼振・二点交互注視は眼球運動=ENGで記録)。

1-4 神経系の発生異常

先天異常は「発生のどの段階の障害か」で疾患が決まります。ST臨床では口蓋裂(構音)・外耳/中耳奇形(伝音難聴)を伴う頭蓋顔面奇形が関連します。

発生の障害疾患
神経細胞遊走障害滑脳症
神経管閉鎖不全無脳症・二分脊椎・脳瘤(髄膜瘤)
前脳分化(腹側化)障害全前脳胞症 など
中脳水道の閉鎖(非交通性)水頭症
頭蓋骨の早期癒合小頭症・頭蓋縫合早期癒合症

ひっかけ:前脳分化障害―脳瘤」は誤り。脳瘤は神経管閉鎖不全による。前脳分化障害は全前脳胞症など。

頭蓋顔面奇形(ST関連):トリーチャー・コリンズ症候群は中耳形態異常(伝音難聴)を合併、クルーゾン症候群は眼球突出、ピエール・ロバン症候群は小下顎で舌根が後退し呼吸障害をきたす(「下顎の突出」は誤り)。アペール症候群では口蓋裂を合併しうる。口蓋裂は構音、外耳・中耳奇形は伝音難聴としてSTに関わる。

次章へ:症候の物差しができたら、いよいよ原因疾患に入ります。まず第2章 脳血管障害・頭部外傷——STが出会う失語・運動障害性構音障害・嚥下障害の最大の発生源です。動脈支配と巣症状を、この章の「上位運動ニューロン徴候・脳神経」とつなげて読んでください。