第1章|心理療法① 精神分析・精神力動

対応過去問 8問/難易度 ★★★☆☆
この章のねらい:精神分析はすべての心理療法の出発点で、国試では心的構造(エス・自我・超自我)・防衛機制・技法(自由連想/転移)が繰り返し問われます。とくに防衛機制の定義の取り違えが頻出。STにとっても、失語症や高次脳機能障害・進行性疾患の患者が示す「障害の否認」「退行」「抑うつ」を理解する枠組みになります。障害受容の支援・家族支援・動機づけの土台として押さえましょう。

1-1 精神分析の全体像 ― フロイトの2つのモデル

フロイト(Freud, S.)が創始した精神分析は、無意識の存在を前提に、心の働きを2つのモデルで説明します。この2本柱はセットで覚えます。

モデル内容構成
局所論(地形論)心を「意識されるか」で層に分ける意識・前意識・無意識
構造論心を「機能」で3つの装置に分けるエス(イド)・自我・超自我
頻出:「Freud, S. の精神分析理論はどれか」→構造論(エス・自我・超自我)。ABC理論はエリス(論理療法)、自己決定理論はデシとライアン、社会的学習理論はバンデューラ、心身一元論は哲学的心身観で、いずれもフロイトの理論ではない。

精神分析療法は長期にわたり、幼少期の体験や無意識の葛藤を扱います(短期の問題解決を目指すものではない)。

1-2 心的装置 ― エス・自我・超自我

構造論では、心を機能の異なる3つの領域に分けます。それぞれが従う「原則」が問われます。

領域従う原則働き
エス(イド)快楽原則本能的欲求を即時に満たそうとする、無意識の源泉
自我現実原則エスと超自我・現実の要求を調整する(実行機能の担い手)
超自我道徳的規範良心・理想。しつけを通じて内在化された道徳

リビドーは心的エネルギー(性的欲動)で、これ自体は「心の領域」ではありません。エルグ(キャッテルの動機づけ概念)もフロイトの3領域ではない点に注意。

「フロイトが3つに分けた心の領域=エス・自我・超自我」→正しい(リビドー・エルグは含まれない)。
「エス=現実原則/自我=快楽原則」→誤り(エス=快楽原則、自我=現実原則)。
「リビドーは心の3領域の一つ」→誤り(心的エネルギーであって領域ではない)。

1-3 防衛機制 ― 最頻出テーマ

不安や葛藤から自我を守るために無意識的に働く心の仕組みが防衛機制です。国試では「定義の取り違え」を見抜く問題が繰り返し出ます。まず一覧で正確に。

防衛機制定義
抑圧受け入れがたい感情・記憶・衝動を意識から締め出す(最も基本的な機制)
投影自分の認めがたい感情を他者のものとみなす(例:自分の敵意を「相手が怒っている」と感じる)
反動形成受け入れがたい欲求と正反対の態度をとる
昇華欲求を社会的に価値ある活動(芸術・スポーツ等)へ向け換える
合理化本当の動機を隠し、もっともらしい理由づけで正当化する(「酸っぱいぶどう」)
同一化(取り入れ)重要な他者の属性を取り入れて、その人のようになる
退行より未熟な発達段階の行動様式に戻る
否認・逃避・置き換え・打ち消しいずれも防衛機制
ひっかけの核:「葛藤や罪悪感を社会的に承認されそうな理由づけで正当化する」→合理化。「欲求を社会に認められる行動に変えて満足」→昇華(投影ではない)。「他者の属性を取り入れて他者のようになる」→同一化(昇華ではない)。

防衛機制でないもの=固着。固着は発達段階に停滞する発達概念で、防衛機制ではない。同じ語源の「退行」は防衛機制という対比が頻出。
「防衛機制は意識的作用である」→誤り無意識的に働く)。
「投影=欲求を社会的活動に変える/反動形成=過去の感情を反対の行動で打ち消す」→いずれも定義がずれた誤り

1-4 精神分析の技法 ― 自由連想・転移・夢分析

自由連想法

自由連想法は、心に浮かんだことを検閲せず自由に語らせ、そこから無意識を探る精神分析の中心的技法です。系統的脱感作・エクスポージャー・呼吸再調整は行動療法、認知再構成は認知療法の技法で、精神分析ではない。

転移と逆転移

用語向き意味
転移クライエント→セラピスト過去の重要人物(多くは養育者)に向けていた感情が、治療場面でセラピストに向け直される
逆転移セラピスト→クライエントセラピストの感情がクライエントに向けられる(向きが逆)

そのほか、夢分析(夢を無意識への「王道」として解釈)も精神分析の技法です。

「別の特定の人物に向けられた感情が治療でセラピストに向けられる」→転移(逆転移・退行・抑圧・昇華ではない)。
「転移の分析・幼少期の親子関係の解明は来談者中心療法の技法」→誤り精神分析の技法。来談者中心療法は転移を扱わない)。

1-5 心理性的発達段階(発展)

フロイトはリビドーが向かう身体部位で発達段階を分けました。組合せで問われることがあるので順序を押さえます。

段階時期の目安中心
口唇期0〜1歳半口(吸う・噛む)
肛門期1歳半〜3歳排泄のしつけ
男根期(エディプス期)3〜6歳エディプス・コンプレックス
潜伏期6歳〜思春期性的関心が潜伏、学習・社会性
性器期思春期以降成熟した対象への関心
用語整理:各段階で欲求が過不足に扱われると、その段階に固着が生じ、後にストレス下で退行(=防衛機制)が起こる、と関連づけると理解しやすい。局所論(意識・前意識・無意識)と構造論(エス・自我・超自我)、防衛機制、発達段階の4点セットが精神分析の骨格。
つながる知識:ロジャーズの来談者中心療法・認知行動療法など「精神分析以外」の療法は第2章で対比します。精神分析の心的構造・防衛機制と、行動療法の「学習」・認知療法の「認知」を並べて覚えると、組合せ問題に強くなります。