第1章|古典的条件づけ

対応過去問 5問/難易度 ★★★☆☆
この章のねらい:学習心理学の出題は条件づけが最頻出で、その入口がパブロフの古典的条件づけです。古典的条件づけはSTにとって身近な原理で、不安・恐怖・回避反応がどう形成され、どう消えるかを説明します。たとえば吃音の場面恐怖や、検査・訓練への不安反応は古典的条件づけで理解でき、臨床心理学の系統的脱感作・エクスポージャーは「消去」の応用です。まずは無条件/条件刺激・反応の4語獲得・消去・自発的回復・般化・弁別を正確に区別しましょう。

1-1 古典的条件づけとは ― パブロフの実験と基本用語

古典的条件づけ(レスポンデント条件づけ)は、パブロフ(Pavlov)が発見した学習で、生得的に反応を引き起こす刺激と、もともと反応と無関係な刺激を繰り返し対提示することで、後者だけでも反応が起こるようになる現象です。まず4つの用語を正確に押さえます。

用語意味(イヌの唾液の例)
無条件刺激(US)もともと反応を引き起こす刺激=
無条件反応(UR)US によって自動的に生じる反応=餌による唾液分泌
条件刺激(CS)もとは無関係だが、対提示で反応を引き起こすようになる刺激=音(メトロノーム・純音)
条件反応(CR)CS によって新たに生じる反応=音による唾液分泌

対提示する前の、まだ反応を引き起こさない段階の音を中立刺激と呼びます。古典的条件づけでは刺激と刺激が結びつく(S-S 連合)のが特徴で、生体はここでは受動的です(不随意反応=生理反応や情動が対象)。

「古典的条件づけによって成立している反応」とは:特定の刺激(例:エレベータに入る)に対して心拍が高まる・不安になるといった不随意な生理反応・情動反応が自動的に起こるもの。自ら「働きかける」自発的行動はオペラント条件づけの対象で、古典的条件づけとは区別する。

ひっかけ(古典的条件づけと関係ないもの):消去・随伴性・中立刺激は古典的条件づけの用語だが、自発的行動(オペラント)モデリング(社会的学習)は古典的条件づけとは別のしくみ。「消去―古典的条件づけ」「中立刺激―古典的条件づけ」は正しい組合せ。

1-2 獲得・消去・自発的回復

条件反応が形成・維持・消失していく過程を表す用語です。試験では消去と自発的回復の区別が頻出です。

過程内容
獲得CS と US の対提示を繰り返し、CS だけで CR が出るようになる過程
消去CS を US なしで繰り返し提示すると、CR が次第に弱まり消えていく
自発的回復消去後に時間をおくと、CS の提示でいったん消えた CR が再び現れること
消去に関わるのは自発的回復:「条件づけの消去に関わる」現象=自発的回復(消去後に再び反応が戻る)。馴化・分化・シェーピング・外制止と取り違えない。なお外制止は、消去とは別に「新しい妨害刺激で一時的に CR が抑えられる」現象。

実験神経症:互いに区別しにくい刺激で困難な分化(弁別)条件づけを続けると、動物に行動の混乱(実験神経症)が生じる。これはパブロフが報告した現象で、ストレス反応の一種として理解される。

1-3 般化・弁別(分化)と高次条件づけ

条件づけが成立したあと、CS に似た刺激にどう反応するかを表すのが般化と弁別です。

用語内容
般化(汎化)CS に類似した刺激にも CR が生じること(例:3.0kHz で条件づけたあと 2.8kHz でも唾液が出る)
弁別(分化)CS には反応し、似て非なる刺激には反応しないよう学習が進むこと(例:3.0kHz にだけ反応し 2.8kHz では出さない)
高次(二次)条件づけすでに CS となった刺激をUS の代わりに用い、別の中立刺激を新たな CS にすること
「3.0kHz 純音と餌の対提示」の整理:純音=CS、餌=US、唾液分泌=反応。純音のみを繰り返し提示する手続き=消去。似た周波数(2.8kHz など)にも唾液が出るのは般化、特定の周波数だけに反応を絞るのが分化(弁別)。すでに CS になった純音を使って別の刺激を条件づけるのが二次(高次)条件づけ

取り違え注意:純音は US ではなくCS。唾液分泌は自発的反応ではなく不随意の反射反応(UR/CR)。「似た刺激にも反応が出る」のは分化ではなく般化で、「特定刺激にだけ反応する」のが分化(弁別)——この2語は逆に覚えやすいので要注意。

1-4 味覚嫌悪学習(ガルシア効果)と生物学的準備性

味覚嫌悪学習(ガルシア効果)は、ある食物を食べたあと吐き気・不快を経験すると、その味を強く避けるようになる古典的条件づけです。ふつうの条件づけと違う特徴があり、覚えておくと応用が利きます。

味覚嫌悪学習の特徴:①CS(味)と US(不快)の間が数時間空いても成立する(長い時間間隔でも学習が起こる)、②たった1回の経験で成立しやすい、③味覚には強く条件づくが、光や音には結びつきにくい(生物学的準備性=連合しやすさに生得的な偏りがある)。生存に直結する「毒を避ける」学習の合理性を示す。
つながる知識:味覚嫌悪学習は、化学療法後の食物嫌悪や、不快な経験と結びついた摂食拒否の理解に役立ちます。嚥下障害の患者が「むせた食物を避ける」背景にも、この学習が関与することがあります。

1-5 古典的条件づけとオペラント条件づけの対比

2つの条件づけはよく対比して問われます。どちらの用語かを整理しておきましょう。

観点古典的条件づけオペラント条件づけ
提唱者パブロフソーンダイク・スキナー
対象の反応不随意反応(生理・情動)自発的行動
連合刺激と刺激(S-S)反応と結果(R-S)
生体の位置づけ受動的能動的
キーワードUS・CS・対提示・中立刺激・高次条件づけ強化・罰・強化スケジュール・シェイピング
両方に共通する用語:消去は古典的条件づけ(US なしの CS 提示)にもオペラント条件づけ(強化しない)にも両方に存在する。一方、無条件刺激・自発的行動・モデル・罰はどちらか一方に固有。「両方に関連する」を選ぶ問題では消去が答えになりやすい。
次章へ:次章では、STの訓練設計にもっとも直結するオペラント条件づけ(強化・罰・強化スケジュール・シェイピング)を扱います。ことばの訓練で「できたらほめて反応を増やす」「段階的に発話を形づくる」のは、すべてオペラント条件づけの応用です。