第1章|尺度水準と記述統計

対応過去問 約18問/難易度 ★★★☆☆
なぜSTが学ぶのか:ST検査のデータは尺度水準がバラバラです。語音明瞭度は%(比率尺度)・聴力レベルはdB(間隔尺度)・GRBAS尺度や会話明瞭度は段階(順序尺度)・カルテ番号は名義尺度。尺度水準を取り違えると「順序尺度なのに平均を出す」といった誤った統計処理をしてしまいます。まずここを土台にします。

1-1 尺度水準(名義・順序・間隔・比率)

測定値は情報量の少ない順に 名義 → 順序 → 間隔 → 比率 の4水準に分けられます。上位の水準ほど許される演算が増えます。

尺度水準意味できる演算代表値・散布度ST・臨床の例
名義尺度区別・分類のみ(順序に意味なし)=/≠(度数を数える)最頻値/—カルテ番号・ID番号・性別・血液型・疾患名
順序尺度大小・順位に意味あり(間隔は不定)</>(順位づけ)中央値・最頻値/四分位偏差・範囲GRBAS尺度・会話明瞭度・聴力の重症度分類・徒手筋力テスト
間隔尺度目盛の間隔が等しい(原点=0が任意)+/−(差をとる)平均・中央値・最頻値/標準偏差・分散聴力レベル(dB)・摂氏温度・知能指数(IQ)・暦年
比率尺度間隔+絶対原点(0)あり+−×÷(比をとる)すべて/すべて(幾何平均も可)語音明瞭度(%)・反応時間・歩行距離・肺活量・音圧(Pa)・絶対温度(K)
変換の可否(頻出):情報量の多い上位尺度は下位尺度に「落とす」ことができる(比率→間隔→順序→名義)。逆は不可。
・名義尺度上の値は差をとれない。順序尺度上の値は大小関係を保存する単調変換ができる。
・間隔尺度は一次変換(y=ax+b)ができるが、比・原点は求められない。
・比率尺度は原点を任意に動かせない(0が絶対的な意味をもつ)。

「名義尺度上の測定値は差をとることができる」→誤り(区別のみ)。
「間隔尺度で比を求める/原点を求める」→誤り(間隔尺度に絶対原点はない)。
「5段階評定による測定値は比率尺度」→誤り(順序尺度)。
「摂氏温度は比率尺度」→誤り(間隔尺度。0℃は無ではない)。「歩行距離・語音明瞭度は比率尺度」→正しい。
「交互反復運動回数・反応時間は順序/間隔尺度」→誤り(どちらも比率尺度)。

尺度水準と分析法の対応

  • 名義尺度:度数分布表・χ²(カイ二乗)検定・最頻値は可。平均は不可
  • 順序尺度:中央値・順位相関(スピアマン)は可。ピアソンの積率相関係数や平均は本来なじまない
  • 間隔・比率尺度:平均・標準偏差・ピアソン相関・t検定が使える。

「名義尺度 ― 平均」「順序尺度 ― ピアソンの積率相関係数」は誤った組合せ(順序尺度の相関はスピアマンの順位相関)。
「名義尺度 ― 検定/最頻値」「順序尺度 ― 中央値」は正しい組合せ。名義尺度データにも適用できる統計的仮説検定(χ²検定)はある

1-2 代表値(平均・中央値・最頻値)

分布の中心を表す値が代表値。尺度水準と分布の形で使い分けます。

代表値定義特徴・使いどころ
算術平均総和÷個数間隔・比率尺度向き。外れ値に弱い
中央値大きさ順に並べた中央の順位の値(分布を二等分)順序尺度以上で可。外れ値に強い
最頻値最も度数の多い値名義尺度でも可。2つ以上ありうる。階級のまとめ方で変化しうる
幾何平均n個の値の積のn乗根比率・倍率の平均に用いる(成長率など)
外れ値があるときは、影響を受けにくい中央値が最も適切な代表値。心理物理データのように極端値が混じる場合に有効。

「算術平均は分布を二等分にする値」→誤り(それは中央値)。
「幾何平均は比率の平均に用いられる」→正しい。
「最頻値は分布のばらつきの程度を表す」→誤り(最頻値は代表値。ばらつきは散布度)。
2群の平均値の比較は間隔・比率尺度でないと不適切GRBAS尺度は順序尺度なので平均比較は不適(最長発声持続時間・肺活量・体温・知能指数は数量として平均可)。

1-3 散布度(範囲・分散・標準偏差・四分位偏差)

データの「ばらつき」を表すのが散布度。代表値とセットで分布を要約します。

散布度定義適した尺度
範囲最大値−最小値順序尺度以上
四分位偏差(第3四分位−第1四分位)÷2順序尺度に適する(中央値とペア)
分散偏差(各値−平均)の2乗の平均間隔・比率尺度
標準偏差分散の平方根(元データと同じ単位)間隔・比率尺度

順序尺度の散布度として適切なのは四分位偏差(平均・分散・順位相関係数・中央値は散布度ではない、または順序尺度に不適)。
「標準偏差=分散の2乗」→誤り分散の平方根)。
偏差値は散布度ではない(標準化された得点=相対的な位置を示す代表的な標準得点)。分散・範囲・標準偏差・四分位偏差は散布度。

1-4 分布と記述統計量(正規分布・歪度・偏差値)

記述統計と推測統計

  • 記述統計=手元のデータそのものを要約(平均・中央値・最頻値・分散・標準偏差・比率・相関係数・ヒストグラム・度数表)。
  • 推測統計=標本から母集団を推し量る(統計的仮説検定・区間推定)。母数(パラメータ)は母集団の真の値であり記述統計量ではない。

「記述統計のデータ分析法」に統計的仮説検定は含まれない(=推測統計)。
「記述統計量」に母数(パラメータ)は含まれない(比率・平均・標準偏差・相関係数は記述統計量)。

正規分布と分布の形

  • 正規分布は左右対称の釣鐘型で、平均値=中央値=最頻値が一致する。
  • 歪度(わいど)は分布の左右の偏り(対称性)を表す指標。尖度は尖り具合。
  • 分散はデータのバラツキ具合を表す。

相関係数の基礎(詳細は第2章)

  • ピアソンの積率相関係数は −1〜+1 の範囲(0〜1ではない)。
  • 相関係数が0=直線的(線形)な関係がないだけで、「因果がない/曲線関係もない」とは言えない。
  • 中央値は分布を二等分する値。算術平均をとると測定誤差が相殺されることが期待できる。

「正規分布では平均値と中央値は一致する」「分散はバラツキを表す」「歪度は分布の形を表す」→いずれも正しい。
「標準偏差と偏差値は同義」「ピアソンの積率相関係数は0〜1の範囲」→誤り
「偏差値得点は、得点と平均値との差分」→誤り(それは単なる偏差。偏差値は差を標準偏差で割って標準化した値。詳細は第3章)。