第4章|精神物理学的測定法

対応過去問 約22問/難易度 ★★★★☆
なぜSTが学ぶのか:この章はそのまま純音聴力検査・語音聴力検査の理論的基盤です。「最小可聴閾値」は絶対閾、聴力の左右差や快適レベルの判断は弁別、自記オージオメトリ(Békésy法)は上下法、そして「聞こえた気がして押す」反応の偏りは信号検出理論で扱われます。心理物理の言葉で聴力検査を理解し直しましょう。

4-1 閾値・精神物理学の基礎と信号検出理論

閾値(いきち)の種類

用語意味
絶対閾(刺激閾)感覚が生じる最小の刺激量。感知確率が50%になる刺激量で定める(100%ではない)
弁別閾(丁度可知差異・JND)2刺激を区別できる最小の差。刺激量が増えると弁別閾の値も増大する
刺激頂感覚が生じる上限。刺激頂以上でも刺激を感知できないわけではない
主観的等価点(PSE)標準刺激と等しく感じられる比較刺激の値。弁別できない2刺激は主観的に等価

ウェーバーの法則・べき法則

  • ウェーバーの法則:弁別閾ΔI と刺激量 I の比 ΔI/I(ウェーバー比)が一定。「ウェーバー比が一定=弁別閾が刺激量に比例する」ことを意味する。
  • スティーヴンスのべき法則:感覚量 = k × 刺激強度nべき指数 n が感覚の伸び方を決める。
  • べき指数が1のとき、感覚量の増分は刺激量の増分に比例(線形)。
計算例(頻出):べき指数が2で刺激(重さ)が3倍になると、感じられる大きさは 32=9倍 になる。「刺激◯倍 → べき指数乗」で計算する。

「絶対閾は感知確率が100%になる刺激量で定められる」→誤り(50%)。
「刺激頂以上の刺激量は感知できない」→誤り
「刺激量が増えると弁別閾の値は減少する」→誤り(増大する)。
「等感曲線は横軸を刺激属性、縦軸を感覚量とするグラフに描かれる」→誤り(等ラウドネス曲線は横軸=周波数・縦軸=音圧で、感覚量が等しくなる線を結ぶ)。

信号検出理論(SDT)

刺激(信号)の有無に対する「あり/なし」判断を、感度反応バイアス(判断基準)に分けて扱う理論。

信号あり信号なし(雑音のみ)
「あり」と反応ヒットフォールス・アラーム(誤警報)
「なし」と反応ミスコレクト・リジェクション(正棄却)
  • d′(ディープライム):感度=信号と雑音の弁別しやすさ(反応バイアスに左右されない)。
  • β(ベータ):反応バイアス(積極的に「あり」と答えるか慎重か)。

信号検出理論の用語でないのはステレオタイプ(ヒット・d′・フォールスアラーム・コレクトリジェクションはSDTの用語)。

4-2 測定法(極限法・恒常法・調整法・上下法)

測定法提示のしかた特徴
極限法比較刺激を一方的に少しずつ増加または減少させ系列的に提示(上昇系列・下降系列)ランダム提示ではない。次の刺激量を予測されやすい。系列誤差が生じる。絶対閾・弁別閾を測定できる
恒常法あらかじめ選んだ複数の刺激強度をランダムに多数回提示試行数が最も多い心理測定関数が得られる。刺激を呈示しない試行(キャッチ試行)を導入できる。系列効果を受けにくい。絶対閾の測定に適する
調整法被験者自身が比較刺激を連続的に調整し、等しく(またはちょうど感じるよう)合わせる1測定値に必要な試行数が最も少ない主観的等価点(PSE)の測定に適する。習熟度の影響を受ける。虚偽反応を見破りにくい
上下法(階段法)刺激を系列提示し、反応が変化したところで系列を反転時間的に変化する閾値(暗順応など)の測定に適する。弁別閾も測定できる
覚え方:試行数が最少=調整法最多=恒常法。ランダム提示=恒常法(極限法・上下法は系列提示)。刺激を系統的(系列的)に提示するのは極限法・上下法

「調整法で調整するのは標準刺激」→誤り比較刺激を調整する)。
「恒常法では測定者が測定値を事前に予測する必要がない」→誤り(閾値付近を含む刺激範囲をあらかじめ設定するため、おおよその閾値を予測しておく必要がある)。
「調整法では試行ごとの刺激操作が一定に保たれる」→誤り(被験者が調整するため一定でない)。
「極限法・上下法で絶対閾/弁別閾を測定できない」→誤り(測定できる)。
正しい組合せ:恒常法 ― 絶対閾の測定(SD法―弁別閾、評定法―主観的等価点、マグニチュード推定法―順序尺度構成、調整法―名義尺度構成 はいずれも誤り)。

4-3 測定誤差

誤差意味
恒常誤差(定誤差)一定方向に偏る系統誤差。幾何学的錯視はその例
偶然誤差方向・大きさが一定でないランダムな誤差(「ほぼ一定」は誤り)
時間誤差2刺激を継時提示するときの呈示順序による影響
空間誤差刺激の呈示位置(左右など)による影響
系列誤差上昇系列と下降系列とで測定値が異なる(極限法で生じる)

測定者側の影響

  • 実験者効果:実験者の期待・動静が被験者の反応に影響する。
  • ピグマリオン効果(ローゼンタール効果):期待が結果に影響する。
  • 社会的促進:他者の存在で行動・成績が変化する。

「偶然誤差の大きさはほぼ一定」→誤り(一定なのは恒常誤差)。
測定者の動静が被測定者の反応に影響する原因=実験者効果・社会的促進・ピグマリオン効果(傍観者効果・ハロー効果は評定者側の別現象)。

4-4 評定尺度法・SD法・質問紙法

方法内容得られる尺度
評定尺度法設定した段階を示しながら刺激を評定させる順序尺度
一対比較法2つの刺激を呈示して択一判断(大小・好悪)を求める順序尺度
SD法多数の形容詞対を用いてイメージ・感情的意味を評定。因子分析で分析
マグニチュード推定法刺激に対する感覚量を数値で報告させ、比率尺度を直接構成比率尺度
順位法(品等法)複数の刺激を順位づけさせる順序尺度

「評定尺度法で得られた測定値は順序尺度」→正しい。
「マグニチュード推定法は順序尺度から比率尺度を間接的に構成」→誤り(比率尺度を直接構成)。
「SD法は2刺激の大小・好悪の判断」→誤り(それは一対比較法)。「SD法でペアごとの類似性を判断させる」→誤り(多数の形容詞対で評定)。
「刺激を系列的に呈示して感覚量を評定させる=順位法」→誤り(順位法は複数刺激を順位づけする方法)。

評定の歪み(バイアス)

バイアス意味
光背効果(ハロー効果)ある側面の良し悪しが全体評価に広がる
中心化傾向5件法で「どちらでもない」中央を選びやすい
寛大効果全体に甘く評価しがち(観察による評定が甘くなる傾向)
黙従傾向「はい・そう思う」と肯定的に答えがち
キャリーオーバー効果前の質問が後の回答に影響する
天井効果・床効果得点が上限/下限に集中し差が出なくなる

質問紙の項目作成

  • 質問の意味を明確にする/自然で平易な表現を用いる。
  • 一般的質問と個人的質問を区別する/心理的負担のある質問は必然性がなければ避ける。
  • 複数の事柄を1つの項目で尋ねない(=ダブルバーレル質問を避ける)。

5件法で「どちらでもない」を選びやすい傾向=中心化傾向
ある側面の評価が全体に広がる=光背効果
「観察による評定が甘くなる傾向=天井効果」→誤り(それは寛大効果。天井効果は得点が上限に集中して差が出ない現象)。
質問紙で不適切なのは複数の事柄を1つの項目で尋ねること。