第2章|コミュニケーション・ICF・言語聴覚療法の原則

対応過去問 13問/難易度 ★★★★☆
この章のねらい:STが扱う「コミュニケーション」とは何か、障害をどの枠組みでとらえるか(ICF)、そして訓練をどう組み立てるか(原則)を押さえます。ここは概念問題が多く、符号化と復号の向き・ICFの構成要素・目標設定の順序・エビデンスレベルが定番の引っかけです。

2-1 コミュニケーションの仕組み(通信モデルと語用論)

通信(伝達)モデル

コミュニケーションは、送り手が意味を記号に変換して伝え、受け手がそれを意味に戻す過程として説明されます。

過程・要素内容
符号化(エンコード)送り手が意味 → 記号(ことば・記号)に変換
伝達(チャネル)音声・文字・身振りなどの媒体で送る
復号(デコード)受け手が記号 → 意味に戻して解釈
構成要素送り手・受け手・メッセージ・コード(記号体系)・チャネル・文脈

言語の性質と語用論

  • 記号の恣意性:音形(シニフィアン=能記)と概念(シニフィエ=所記)の結びつきに必然性はない(言語ごとに語形が違う)。
  • 生産性(無限の文を作れる)・二重分節(音素/形態素の二層)も言語の特徴。
  • 語用論:文脈・相手・場面に応じたことばの使い方(レジスターの調整、含意、指示表現)。相手や場面で言い方を変えるのは語用論的能力。

「符号化とは記号を意味に変換すること」→誤り(それは復号。符号化は意味→記号)。
「言語記号の音形と意味の結びつきは必然的である」→誤り恣意的)。
「場面や相手で話し方を変える能力は統語(文法)の能力」→誤り語用論の能力)。

2-2 ことばの障害の水準と分類

「話す」「ことば(記号)」「聞く」のどの水準の障害かを区別すると、障害分類が整理できます。

水準意味関連する障害
speech(発話・話しことば)音を作り出す運動・音声・流暢性構音障害(機能性/器質性/運動障害性)・音声障害・吃音
language(言語=記号体系)意味・語彙・文法・談話の水準失語症・言語発達障害
hearing(聞こえ)音・語音の受容難聴(伝音/感音)
整理のコツ:言語聴覚障害は大きく聴覚障害・発声発語障害(音声/構音/流暢性)・言語障害(失語/言語発達)・摂食嚥下障害・高次脳機能障害に分けられる。環境音失認のような音の「意味づけ」の障害は認知(失認)の水準であり、言語そのものの障害ではない。

「吃音は言語(language)の障害である」→不適切(発話の流暢性=speechの水準)。
「環境音失認は言語障害に分類される」→誤り(認知・失認の水準)。
「純粋語唖は聴覚(hearing)の障害」→誤り(発話出力=発語失行に近い水準)。

2-3 ICFと障害のとらえ方

現在の障害観はICF(国際生活機能分類・2001年)に基づきます。「できない点」だけでなく「生活機能」を中立的にとらえるのが特徴です。

ICFの構成要素内容ST領域の例
心身機能・身体構造体の働き・構造記憶・注意・発話の流暢性・喉頭の構造
活動個人が行う課題・行為会話する・書字・手話や通信機器の使用
参加生活・社会への関与就労・地域活動・家庭内役割
環境因子物的・人的・制度的環境社会保障制度・家族の支援・支援機器
個人因子年齢・性別・価値観など本人の性格・生活歴
ICIDH → ICF:旧分類ICIDH(1980)は「機能障害→能力低下→社会的不利」とマイナス方向の一方向モデル。ICFは各要素が相互作用する中立的モデルへ転換した。機能訓練は「心身機能」への働きかけ、AAC・環境調整は「活動・参加」への働きかけ。

権利・理念のキーワード

  • 「私たち抜きに私たちのことを決めるな」(Nothing about us without us):当事者参加の理念(障害者権利条約)。
  • 国際障害者年(1981)のテーマは「完全参加と平等」。ノーマライゼーション・QOL・自己決定も重要語。

「通信機器の利用・手話・書字はICFの『心身機能』に分類される」→誤り活動)。
「社会保障制度は個人因子」→誤り環境因子)。
「ICFは機能障害→能力低下→社会的不利の一方向モデル」→誤り(それはICIDH。ICFは相互作用モデル)。

2-4 言語聴覚療法の原則(訓練形態・目標設定・予後・EBP)

訓練の形態と対象

  • 訓練は個別訓練が基本(必要に応じて集団訓練を併用)。
  • 対象は器質性だけでなく心因性(機能性)も含む。進行性疾患(ALS・認知症等)も、機能維持・代償・QOL維持を目的に適応となる。

目標設定の順序

  • 予後予測 → 長期目標 → 中期目標 → 短期目標と上位から具体化する(短期から積み上げるのではない)。
  • 長期目標にも達成の目安期間を設定する。目標は本人と共有し、ICのもとで進める。

予後予測に関わる因子

機能回復に直接関わる因子参考にはなるが直接因子でないもの
障害のタイプ・重症度、発症からの期間、年齢、全身状態(合併症)、意欲・本人の取り組み病前の趣味・職業(=参加目標の設定には有用だが機能回復の直接予測因子ではない)

評価とエビデンス(EBP)

  • 量的評価と質的評価は相補的(どちらが優れているという関係ではない)。
  • エビデンスレベル(高い順):システマティックレビュー/メタ分析 > ランダム化比較試験(RCT) > 非ランダム化比較 > コホート研究 > 症例対照研究 > 症例報告・専門家の意見。単一の研究デザインではRCTが最上位
患者中心の原則:訓練は本人の希望を尊重し(自己決定)、障害のメカニズム分析に基づいて課題を選び、生活・参加への般化を目指す。AACの導入は「話せるようになってから」ではなく早期から検討してよい。幼児では遊びを通じた指導が基本。

「言語聴覚療法は器質性疾患のみが対象で、心因性・進行性疾患は対象外」→誤り
「目標は短期目標から順に設定し、長期目標に期間は設けない」→誤り(上位から具体化、長期にも期間を設定)。
「症例報告はRCTよりエビデンスレベルが高い」→誤り
「病前の趣味は機能回復の直接的な予後予測因子である」→不適切(参加目標の参考)。