第1章|言語聴覚療法とは — 職域・制度・倫理・歴史・連携

対応過去問 15問/難易度 ★★★☆☆
この章のねらい:ここは「STという仕事そのもの」を問う総論の入口です。国試では毎回、言語聴覚士法・業務範囲・倫理・歴史・多職種連携・高齢者領域が定位置で出ます。丸暗記より「なぜそのルールがあるのか」で押さえると、初見の選択肢でも判断できます。とくに本来業務と診療の補助の線引きは毎年の得点源です。

1-1 言語聴覚士とことばの障害の全体像

言語聴覚士(Speech-Language-Hearing Therapist:ST)は、音声機能・言語機能・聴覚に障害のある者に対して、機能の維持向上を図るための訓練・検査・助言・指導その他の援助を行う専門職です(言語聴覚士法 第2条)。

資格の性質:言語聴覚士は名称独占資格(有資格者でなければ「言語聴覚士」の名称を使えない)であって、業務独占ではない(訓練という行為そのものは他職種が行っても違法ではない)。1997年(平成9年)制定・1998年(平成10年)施行と、リハ専門職(PT/OT=1965年)より歴史が新しい点も問われる。

STが関わる5つの障害領域

領域主な対象キーワード
失語・高次脳機能障害失語症・記憶/注意/遂行機能障害・失行・失認言語(記号体系)と認知
言語発達障害言語発達遅滞・知的障害・自閉スペクトラム症・LDことばの育ち
発声発語障害構音障害(機能性/器質性/運動障害性)・音声障害・吃音話しことばの産生
聴覚障害難聴(伝音/感音)・補聴器・人工内耳・小児/成人聴覚聞こえ
摂食嚥下障害先行〜食道期の障害・誤嚥・栄養食べる・飲み込む
ノートの地図:これら各領域の「障害↔症状↔訓練法」の対応は第3章の対応マップで横断整理し、各論ノート(失語症・構音・音声・嚥下・聴覚など)へリンクします。

1-2 言語聴覚士法と業務範囲(本来業務/診療の補助)

ST業務の柱は2種類。この区別が総論の最頻出ポイントです。

区分内容医師の指示具体例
本来業務言語訓練その他の訓練・これに必要な検査・助言・指導・援助不要(STの独自判断で実施可)言語聴覚検査、失語症・構音・音声の訓練、呼称訓練、コミュニケーション指導
診療の補助(法42条)保健師助産師看護師法の例外として、医師・歯科医師の指示の下で行える医行為必要(医師/歯科医師の指示)嚥下訓練、人工内耳の調整、機器を用いる聴力検査(純音・語音等)、聴性脳幹反応検査、電気味覚検査、耳型の採型、補聴器装用訓練
覚え方:「機器を使う・体に触れる・医学的リスクがある」ものが診療の補助=医師の指示が要る。一方、言語・コミュニケーションの検査や訓練は本来業務=指示不要。ただし本来業務でも、医学的管理が必要な対象では主治医の指導を受ける(法43条)。

言語聴覚士の主な義務(法4章)

  • 主治の医師等の指導を受ける義務(法43条):診療補助以外の業務でも医学的管理下では指導を受ける。
  • 守秘義務(法44条):業務上知り得た秘密を漏らしてはならない。資格を失った後も継続し、違反には罰則がある。
  • 連携等:医師・その他の医療関係者、福祉関係者等との連携を保つ努力。

「聴力検査(機器使用)は医師の指示が不要」→誤り(診療の補助=指示が必要)。
「嚥下訓練・耳型採型・人工内耳調整はSTが単独判断で行える」→誤り(いずれも診療の補助)。
「言語機能の検査・呼称訓練・構音訓練には医師の指示が必要」→誤り(本来業務)。
「守秘義務は退職・資格喪失で消える」→誤り(生涯続く)。

1-3 職業倫理・リスク管理・診療録

職業倫理の基本

  • インフォームド・コンセント(IC):評価・訓練の目的と内容を本人(家族)に説明し同意を得る。
  • 個別性の尊重:同じ障害名でも訓練内容は一人ひとり違う(画一的プログラムは不適)。
  • 自己決定の尊重・プライバシー/個人情報の適正管理・専門職としての研鑽。

リスク管理

  • 訓練中のリスク:誤嚥・窒息・転倒・血圧/呼吸の変動・疲労。嚥下訓練では特に誤嚥・窒息に注意。
  • 急変時はまず応援(人)を呼び、訓練を中止して安全を確保する(単独対応で続行しない)。
  • 廃用症候群は「使わないこと(不活動・安静)」で生じる(過用=使いすぎ、誤用=誤った使い方とは区別)。

記録(診療録・訓練記録)

  • 実施のその都度・遅滞なく記載し、開始/終了時刻・実施内容・反応・IC内容を残す。
  • 診療録は一定期間の保存義務がある(医療機関の診療録は原則5年)。
  • 記録は多職種で共有され、連携とリスク管理の基盤になる。改ざん・事後の書き換えは不可。

「廃用症候群は過度の運動で生じる」→誤り(不活動・安静で生じる)。
「急変時はまず一人で対応を続ける」→誤り(応援を呼び中止する)。
「訓練記録は本人に見せない/後でまとめて書く」→不適切(共有・都度記載が原則)。

1-4 沿革(歴史)と制度・法体系

日本の言語聴覚療法のあゆみ

  • 源流として最も古いのは聴覚障害児(ろう)教育。明治期に盲・ろう教育の学校が設立された(明治期=1870〜80年代)。
  • 吃音・構音などの「ことばの教室」、失語症のリハビリテーションは戦後に広がった。
  • 言語聴覚士法は1997年制定・1998年施行。国家資格化はリハ専門職の中で最も遅い。

関連する法・制度の新旧(頻出)

制度・法成立ポイント
身体障害者福祉法1949年戦後の身体障害者福祉の基本法
介護保険法1997年成立/2000年施行要介護認定・ケアマネジメント
言語聴覚士法1997年成立/1998年施行STの国家資格化
障害者自立支援法2005年3障害一元化・応益負担(後に見直し)
障害者総合支援法2012年成立/2013年施行自立支援法を改正した最も新しい基本的な福祉法

「日本で最も古い言語聴覚障害領域の取り組みは失語症治療」→誤り聴覚障害児教育が最古)。
「障害者総合支援法より障害者自立支援法の方が新しい」→誤り(総合支援法が新しい)。

1-5 多職種連携・地域包括ケア

ST単独では患者の生活は支えられません。国試では「この役割は誰か」の組合せが問われます。

職種主な役割
医師診断・治療方針・予後予測・訓練の指示/指導
看護師全身管理・服薬/バイタル管理・病棟での生活支援
理学療法士(PT)基本動作・移動・体力(座位/姿勢は嚥下にも関与)
作業療法士(OT)応用動作・上肢機能・ADL・高次脳機能
医療ソーシャルワーカー(MSW)退院支援・社会資源/制度の調整・経済的相談
介護支援専門員(ケアマネジャー)介護保険のケアプラン作成・サービス調整
管理栄養士栄養管理・嚥下食(食形態)の調整
歯科医師/歯科衛生士口腔ケア・義歯・口腔機能

地域包括ケアと「4つの助」

  • 地域包括ケアシステムは自助・互助・共助・公助で支える(「介助」は含まれない)。
  • 自助=自分/市場サービス、互助=住民同士の支え合い、共助=介護保険等の社会保険、公助=税による福祉。

「ケアプランは医師が作成する」→誤り(介護支援専門員)。
「失業(求職)給付の手続きはMSWの独自業務」→不適切(公共職業安定所=ハローワークが担当)。
「地域包括ケアは自助・互助・共助・介助で支える」→誤り(4つ目は公助)。

1-6 高齢者領域と保健・疫学の基礎

STの対象は高齢者が中心。加齢変化と、集団を見るための保健統計・疫学の基本用語が問われます。

加齢に伴う変化

  • 喉頭が下垂し嚥下機能が低下(誤嚥性肺炎のリスク)。声帯萎縮で声が弱くなる。
  • 聴覚:高音域から低下し語音明瞭度が下がる(老人性難聴=感音難聴、男性にやや多い)。
  • 認知:近時記憶・処理速度が低下しやすい。認知機能低下は嚥下の先行期にも影響する。
  • 構音は「明瞭度の低下」であって、特定の子音への置換が規則的に起こるわけではない。

保健統計・疫学の用語

指標意味
罹患率一定期間に新たに疾病にかかった人の割合(発生の勢い)
有病率ある一時点で疾病を有している人の割合(存在の量)
致命率(致死率)その疾病にかかった人のうち死亡した割合(重症度の指標)
偽陽性率疾病でない人を陽性と判定する割合(=1−特異度)
平均寿命0歳児の平均余命。日本では女性>男性
頻出の事実:誤嚥性肺炎は高齢者の死因の上位。認知症の有病率は65歳以上で年々上昇。加齢による音声コミュニケーションの障害は聴力低下と認知機能低下が中核(単なる語彙増加ではない)。
つながる知識:感度・特異度・偽陽性率など検査指標の詳しい計算は心理測定法ノートで扱っています。集団を数値で見る視点は第4章の検査総論とも直結します。

「罹患率=ある時点で疾病を有する者の割合」→誤り(それは有病率)。
「加齢で語音明瞭度は向上する」「日本の平均寿命は男性の方が長い」→いずれも誤り
「高齢者では構音時に特定子音への規則的置換が起こる」→不適切(全体的な明瞭度低下)。