第4章|リハの評価② 意識・バランス・高次脳

リハビリテーション医学 第4章

4-1 意識レベル① JCS(3-3-9度方式)

「刺激しないでも覚醒しているか」で桁を決め、その中で細分する。数字が大きいほど重症

桁=覚醒の状態判定の決め手
Ⅰ桁:刺激しなくても覚醒1だいたい清明だが今ひとつはっきりしない
Ⅰ桁2見当識障害がある
Ⅰ桁3自分の名前・生年月日が言えない
Ⅱ桁:刺激すると覚醒(やめると眠り込む)10普通の呼びかけで容易に開眼
Ⅱ桁20大きな声または体を揺さぶると開眼
Ⅱ桁30痛み刺激+呼びかけの繰り返しでかろうじて開眼
Ⅲ桁:刺激しても覚醒しない(開眼しない)100痛み刺激を払いのける動作をする
Ⅲ桁200痛み刺激で手足を少し動かす・顔をしかめる
Ⅲ桁300痛み刺激にまったく反応しない

桁の境目は「開眼するか」の一点。大声・揺さぶりで開眼すればⅡ-20、大声でも開眼せず痛み刺激で払いのけるだけならⅢ-100。

4-2 意識レベル② GCS

開眼 E(4段階)言語 V(5段階)運動 M(6段階)
E4 自発的に開眼V5 見当識あり(日時・場所を言える)M6 命令に従う
E3 呼びかけで開眼V4 混乱した会話(会話は成立、見当識障害あり)M5 痛み刺激の部位を認識し払いのける
E2 痛み刺激で開眼V3 不適当な単語M4 痛みからの逃避屈曲
E1 開眼しないV2 理解不明の音声M3 異常屈曲(除皮質硬直)/M2 伸展(除脳硬直)/M1 反応なし
  • 合計は3〜15点。E4V5M6=15点が満点、3点が最重症。JCSと重症度の向きが逆
  • 気管挿管などで発語が評価できない場合はVT(またはV1T)と記載する

頻出のひっかけ。E3は自発開眼ではない(自発開眼はE4、E3は呼びかけ)/V4は見当識良好ではない(日時・場所を言えるのはV5)/M5は命令に従うではない(命令に従うのはM6、M5は払いのけ、M4が逃避屈曲)。

4-3 脳卒中の評価尺度 — 何を測る尺度か

尺度測るもの含む含まない(ひっかけ)
JCS・GCS意識レベル開眼・言語・運動反応関節可動域・麻痺の程度
NIHSS急性期の神経学的重症度(15項目)意識水準・質問・従命、注視、視野、麻痺、失調、感覚、言語、無視バランス(立位)・ROM
SIAS脳卒中の機能障害を総合評価(9側面22項目)麻痺側運動機能、筋緊張、感覚、ROM、疼痛、体幹、視空間認知、言語、健側機能(非麻痺側筋力)意識レベル・病的反射・痛覚
FMA片麻痺の機能障害を定量評価運動・感覚・バランス・ROM・疼痛ADL(impairmentレベルの尺度)
mRS障害度=生活自立度を0〜6で分類介助量・自立度の全般的な段階づけ筋緊張・歩行速度などの定量値
JSS神経症状の重症度(日本版)意識・言語・麻痺など神経症状関節可動域
Brunnstrom stage片麻痺の回復段階上肢・手指・下肢をⅠ〜Ⅵで別々に判定感覚・ADL

選択肢の多くは「その尺度が測らない領域」を混ぜて作られる。意識=JCS/GCS/NIHSS感覚=SIAS/FMA自立度=mRSと、領域ごとに担当尺度を1本ずつ決めて覚える。

4-4 SIASとFMAの中身

SIAS(脳卒中機能障害評価法)

  • 麻痺側は「運動機能」=共同運動・分離運動で採点する。MMTのような麻痺側筋力という項目はない
  • 感覚は触覚と位置覚。痛覚は評価しない
  • 最大の特徴=非麻痺側(健側)を評価項目に持つ。非麻痺側の大腿四頭筋筋力・握力を測る
  • 体幹(腹筋力・垂直性)、視空間認知、言語も含む総合尺度

FMA(Fugl-Meyer Assessment)

  • 採点は各項目0・1・2の3段階(4段階ではない)
  • 総合226点満点=運動100(上肢66+下肢34)+バランス14+感覚24+ROM44+疼痛44
  • 感覚は軽触覚と位置覚(痛覚・温度覚は含まない)
  • 運動項目はBrunnstrom回復段階の連合反応→共同運動→分離運動という考え方が基盤。両者は共通する評価内容をもつ

FMAで狙われる誤り3点 → 「4段階で採点」は誤り(3段階)/「感覚は痛覚」は誤り(軽触覚と位置覚)/「評価項目は4つ」「ADLを含む」も誤り。正しいのは226点Brunnstromと共通項目あり

4-5 バランスの評価とpusher現象

検査方法目安
BBS(Berg Balance Scale/FBS)立ち上がり・閉眼立位・振り向き・片脚立位など14項目を各0〜4点56点満点。おおむね45点以下で転倒リスク高
TUG椅子から立ち上がり3m先を折り返して着座するまでの時間10秒以内でほぼ自立、13.5秒以上で転倒リスク高
FRT(Functional Reach Test)立位で上肢を前方へ最大リーチした距離15cm以下で転倒リスク高
SCP〈Scale for Contraversive Pushing〉座位・立位での姿勢、非麻痺側の伸展外転による突っ張り、他動修正への抵抗の3要素pusher現象の有無と重症度

pusher現象=非麻痺側の上下肢で床を押し、麻痺側へ傾く。他動的に正中位へ戻そうとすると強く抵抗するのが決め手。修正に抵抗せず素直に正中位へ戻るならpusherではないので、SCPの適応にならない。

4-6 半側空間無視 — 所見から検査を選ぶ

  • 右半球損傷(=左片麻痺)に左半側空間無視が起こる。左半球損傷での右無視はまれ
  • 典型所見=常に非麻痺側(右)ばかり向く、麻痺側の食べ残し・磨き残し、左側の壁や人にぶつかる、車椅子の左側をぶつける
  • 検査=線分抹消試験・線分二等分試験(中点が右へずれる)・模写試験・BIT(行動性無視検査)
  • 感覚障害や視野障害と違い、刺激に気づけないのではなく注意が向かない。麻痺側から声をかければ反応する例も無視は否定できない
所見疑う病態選ぶ検査
麻痺側の見落とし・非麻痺側ばかり向く半側空間無視線分抹消試験・BIT
麻痺側へ傾き、正中位への修正に抵抗pusher現象SCP
会話・呼称・復唱の障害失語症WAB・SLTA
道具を使うまねができない観念運動失行パントマイム課題・SPTA
方針の切り替えができない・段取りが崩れる遂行機能障害WCST・BADS

4-7 高次脳機能検査は「略語→領域」で覚える

領域検査内容
注意TMT-A1〜25の数字を順に線で結び所要時間を測る。注意・処理速度
注意TMT-B数字とかなを交互に結ぶ。注意の分配・転換
注意CAT/Stroop testCAT=標準注意検査法(総合バッテリー)/Stroop=色名と文字の干渉で選択的注意・抑制
記憶RBMT・WMS-RRBMT=リバーミード行動記憶検査。展望記憶を含む日常場面の記憶
遂行機能BADS・WCSTBADS=規則変換カード等の行動評価/WCST=概念の転換(前頭葉)
半側空間無視BIT線分二等分・抹消課題などの通常検査+行動検査
失語WAB・SLTA失語症の総合バッテリー
全般的認知MMSE・HDS-R認知症のスクリーニング

図で「数字だけを順に1本線で結ぶ」ならTMT-A、「1→あ→2→い…と交互」ならTMT-B。混同されやすいのはRBMT(記憶)とWCST(遂行機能)、BIT(無視)とCAT(注意)。

4-8 評価結果を治療の難易度設定につなげる

  • 難易度の階段は座位保持→立位バランス→歩行→応用歩行(階段)。現在の能力を1段超える課題までにとどめる
  • 座位で体幹動揺が残る段階では、介助なしの杖歩行階段降段も時期尚早(転倒リスクが高い)
  • 座位保持が可能になれば、介助下の立位バランス練習へ進めてよい
病態典型所見適する介入
痙性麻痺上肢屈曲位・下肢伸展位、筋緊張亢進持続伸張・良肢位保持による筋緊張のコントロール、短縮/拘縮の予防
運動失調(小脳性・脊髄性)測定障害・企図振戦・動揺Frenkel体操・重錘負荷・弾性緊迫帯による協調性練習

痙性麻痺にFrenkel体操は誤り → Frenkel体操は失調に対する協調性訓練。痙性には持続伸張。この取り違えは頻出。

くも膜下出血後に「自発性低下・行動異常・頻回な転倒」が遅れて出現し、CTで脳室拡大があれば正常圧水頭症(NPH)を疑う。三主徴は歩行障害(小刻み・開脚のすり足=磁石様歩行)・認知機能低下・排尿障害。発熱・下痢・視野障害は三主徴ではない。歩行障害が最も改善しやすく、治療はシャント術。

4-9 転倒インシデントが起きたときの対応

  1. 患者の安全確保とバイタル・外傷の確認
  2. 口頭で速やかに主治医へ報告
  3. 家族へ経過を誠実に説明
  4. 発生状況を詳細に文書(インシデントレポート)で報告
  5. 原因分析のうえ再発防止の具体案を提案

「理学療法士に責任がないことを明確にする」は適切でない → 責任追及や自己保身より、事実の正確な共有→原因分析→システムの改善が医療安全の原則。隠す・報告を怠るのも同様に不適切。

  • インシデント(ヒヤリ・ハット、実害なし〜軽微)とアクシデント(実害あり)を区別する。実害がなくても報告する

4-10 評価法・治療効果を読むためのエビデンス

順位研究デザイン区分
システマティックレビュー/メタアナリシス
無作為化比較試験(RCT)介入研究(割り付けあり)
コホート研究(前向き観察)観察研究(割り付けなし)
症例対照研究(後ろ向き)・横断研究観察研究
症例集積・症例報告 > 専門家の意見観察研究・その他
  • 介入研究=研究者が治療を割り付ける。「2群に分けた治療の前向き比較」が典型
  • 「特定の集団での継続的な観察」「通常行われている治療の効果判定」「複数データの横断的比較」「過去の治療成績の比較」はすべて観察研究
  • 覚え方は2段階。介入>観察、観察の中では前向き(コホート)>後ろ向き(症例対照)

選択肢にメタアナリシスがなければRCTが最上位。キーワードは「割り付け・前向き・2群比較=介入」「観察・さかのぼり・横断=観察」。

無作為化比較試験〈RCT〉— 無作為割り付けは何をしているのか

RCTは対象者をくじ引き(無作為)で介入群と対照群に割り付ける介入研究。研究者が治療を割り付けるので観察研究ではないし、前向きに介入して追跡するので診療録に残る過去の記録をさかのぼっては行えない(それは後ろ向きの観察研究)。

交絡因子と無作為化

  • 交絡因子=介入と結果の両方に関係し、見かけの効果を作ってしまう第三の因子
    例:運動療法の効果を見るとき、若い人ほど運動群に集まると、良い結果が運動のおかげなのか若さのおかげなのか分けられない。このときの年齢が交絡因子
  • 無作為割り付けの働き=年齢・重症度・生活習慣などの既知の交絡因子だけでなく、研究者が思いつかない未知の交絡因子も両群に均等に散らす
  • その結果、介入以外の条件が両群でそろうので、群間に生じた差を介入だけに帰属できる交絡因子の影響を小さくできる。これがRCTが因果推論に最も適し、エビデンスレベルが高い理由
  • 割り付けをしない観察研究(コホート・症例対照)は、どちらの群に入るかを対象者側の事情が決めるため交絡が残りやすい(統計的に調整できるのは既知の因子だけ)

精度を上げる仕掛けとして二重盲検(対象者にも評価者にも割り付けを伏せる)とITT解析(脱落・中止例も最初に割り付けた群のまま解析する)がある。どちらも無作為化で作った両群の同等性を後から壊さないための工夫。

RCTの目的と倫理上の前提

「RCTの目的は因子間の相互関係を調べること」は誤り → RCTの目的は介入の効果(因果関係)の検証。あらかじめ立てた仮説をひとつ検定するデザインであって、因子どうしの相互関係を広く探るのは相関研究・観察研究(コホート・横断研究)の役割でRCTの目的ではない。

「RCTではインフォームドコンセントは不要」は誤り人を対象とする研究では説明と同意(インフォームド・コンセント)が原則で、RCTでは必須。介入研究は研究者が治療を割り付ける以上、割り付けの方法・予想される利益と不利益・いつでも同意を撤回できることを説明して文書で同意を得ることが不可欠で、倫理審査委員会の承認も要る。RCT(介入研究)で同意を省けるやり方は存在しない

限定に注意:「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」では、侵襲も介入も伴わない研究(既存の診療記録・検査値の利用など)に限り、個別の同意に代えて研究内容の情報公開と拒否の機会の保障(オプトアウト)で足りる場合がある。ただしこれは観察研究の話で、割り付けという介入を行うRCTには当てはまらない。だから「RCTではインフォームドコンセントは不要」は消せる。

RCTをめぐる選択肢正誤理由
観察研究である研究者が割り付ける介入研究
交絡因子の影響を小さくできる無作為割り付けで既知・未知の交絡因子が両群に均等に散る
インフォームドコンセントは不要RCTでは必須(割り付けを行う介入研究)。オプトアウトが認められるのは非侵襲・非介入の観察研究だけでRCTは対象外
因子間の相互関係を調べるのが目的目的は介入の効果の検証。探索は観察・相関研究の役割
診療録の過去の記録で調査できるそれは後ろ向き研究(観察)。RCTは前向きに介入する