第5章|治療技術

リハビリテーション医学 第5章

5-1 運動療法の基本

関節可動域運動(ROM ex)

  • 他動運動=筋収縮を伴わない。麻痺・意識障害・進行性疾患でも拘縮予防として安全に実施でき、ほとんどの疾患で禁忌にならない。
  • 他動 → 自己による自動介助運動 → 自動 → 抵抗運動、と患者の関与を段階的に上げる。
  • 疼痛・腫脹が強い急性期は疼痛の範囲内にとどめる。強い他動的伸張は炎症と疼痛を増悪させる

筋力増強運動

収縮様式関節運動特徴・使いどころ
等尺性なし関節を動かさず張力を出す。術直後・炎症期・ギプス固定中でも可。怒責による血圧上昇に注意
等張性あり(負荷一定)求心性・遠心性。日常動作に近い。漸増抵抗運動=10RMの1/2→3/4→10RMを各10回
等速性あり(速度一定)専用機器が必要。全可動域で最大抵抗をかけられる
  • 三原則=過負荷・特異性・可逆性
  • 神経疾患や易疲労例では低強度の筋力増強にとどめる。低強度なら禁忌にならない。

全身持久力運動

  • 中等度強度の有酸素運動は多くの慢性疾患で推奨される。Borg指数11〜13(楽である〜ややきつい)が目安。
  • 目標心拍数=(最高心拍数−安静時心拍数)×0.4〜0.6+安静時心拍数(Karvonen法)。
  • やりすぎは過用症候群、誤った方法は誤用症候群を招く。

5-2 物理療法の種類と作用

分類代表的な手段主な生理作用・目的
表在温熱ホットパック・パラフィン浴・赤外線深達1cm程度。血流増加・疼痛緩和・筋緊張と軟部組織伸張性の改善
深部温熱超音波・極超短波(マイクロ波)・短波深部組織の加温。超音波は1MHzで深部、3MHzで表在
寒冷アイスパック・アイシング・アイスマッサージ急性期の炎症・腫脹・疼痛の抑制、代謝低下、痙縮の一時的軽減
水治渦流浴・交代浴・全身浴交代浴は温冷を交互に行い、血管運動の調整と浮腫の軽減
電気刺激TENS/NMES(EMS)・干渉波TENSは疼痛緩和、NMESは筋収縮の促通・筋力増強・痙縮管理
牽引頸椎牽引・腰椎牽引椎間孔の拡大・神経根の除圧

物理療法は「その場の症状を和らげる補助手段」。機能を作るのは運動療法という位置づけがガイドラインでも一貫している。

5-3 温熱療法の禁忌 — 出題の中心

  • 急性炎症期・受傷直後(発赤・腫脹・熱感がある時期)
  • 出血・出血傾向のある部位
  • 感覚障害・意識障害・訴えられない対象(熱傷の危険)
  • 悪性腫瘍の直上、末梢循環障害の強い部位
  • 超音波は眼・心臓・生殖器・成長期の骨端線を避ける。極超短波は体内金属・ペースメーカー・眼に禁忌

多発性硬化症(MS)=温熱療法は禁忌。体温が上がると脱髄部の神経伝導が障害され、症状が一時的に悪化する(ウートフ現象)。ホットパック・温浴・サウナ・高温環境は避ける。寛解期でも同じで、体温管理は常に必要。

逆にMSで実施してよいのは、他動的関節可動域運動/中等度強度の有酸素運動/低強度の筋力増強運動/電気刺激療法。これらは禁忌ではない。

「がん患者に温熱は一律禁忌」は誤り → 正しくは腫瘍の直上を避けるのであって、二次的な筋緊張や疼痛の緩和に用いることはある。

5-4 水中運動療法

水の物理的特性生理的な作用
浮力アルキメデスの原理により体重が免荷され、関節への負荷が減って可動範囲が広がる。水位が高いほど免荷率が大きい
静水圧深いほど大きい。静脈還流を促進し浮腫を軽減。胸郭を圧迫するため呼吸筋の負荷は増える
抵抗(粘性)動かす速度が速いほど大きい。筋力増強と動作制御の練習になる
熱伝導率空気よりはるかに高く熱が移動しやすい。水温の影響が大きく、温水では温熱効果が得られる
屈折生理的作用に影響しない。水面での光の曲がりは見え方が変わるだけの光学現象

水中運動の四大特性=水圧・浮力・抵抗・熱伝導率(温度)。ここに屈折が混ざったら誤り、と即断できるようにする。

5-5 装具療法の目的

主たる目的(5つ)具体例
機能の補助・代償下垂足に短下肢装具を用いて遊脚期のつま先の引っかかりを防ぐ
局所の免荷骨折後・炎症部位・骨転移部位の荷重を減らし治癒を助ける
疼痛の軽減関節の安定化・不動化により痛みを抑える
変形の矯正・予防成長期の進行性変形を抑える
関節の保護・支持不安定な関節を外部から支える

筋力の強化は装具療法の目的ではない → 正しくは、装具は今ある筋力で機能を成り立たせる道具であり、筋力を増やすには抵抗運動などの能動的な運動療法が要る。

  • 義肢=失った四肢の代替(義手・義足)/装具=残っている身体部分の支持・矯正・補助。
  • AFO(短下肢装具)=足関節まで。片麻痺の下垂足・内反尖足に用いる。
  • KAFO(長下肢装具)=膝関節まで。膝伸展位を保持できず膝折れが生じる時期の立位・歩行練習に用いる。

5-6 靴の補正と足部装具

補正作用・適応
メタタルザルパッド(中足骨パッド)中足骨頭のやや近位を持ち上げ、中足骨頭部を直接除圧する。関節リウマチの槌指・開張足・Morton病による中足骨頭部痛の第一選択
ロッカーバー/中足骨バー前足部の転がりを助け、MTP関節への荷重を減らす
外側フレアヒール踵の外側を張り出し、距骨下関節の内反(回外)を制動する
内側フレアヒール踵の内側を張り出し、外反(回内)=扁平足を制動する
Thomasヒールヒール内側前縁を前方に延長。内側縦アーチを支え外反扁平足に用いる
逆Thomasヒールヒール外側前縁を前方に延長。内反(回外)足に用いる
踵補高脚長差の補正、下腿三頭筋短縮・尖足による背屈制限の代償

足部装具の原則は「痛い場所を直接除圧する」。フレアヒール・Thomasヒール類は後足部の内外反を制御するもので、前足部(中足骨頭部)の痛みには効かない。踵補高も脚長・背屈の話であって中足骨頭部とは無関係。

5-7 変形性膝関節症 — 推奨度の高低

推奨度介入
高い筋力増強運動(大腿四頭筋中心)、有酸素運動、協調運動、減量療法、患者教育
低いホットパックなどの物理療法(温熱)=エビデンスが限られ補助的

理学療法診療ガイドラインの大枠は「運動療法と減量が王道、物理療法は補助」。推奨度が最も低いものを選ぶ設問では、選択肢の中の物理療法を選べばよい。

5-8 肩手症候群(CRPS typeⅠ)とSteinbrocker分類

ステージ特徴理学療法
Ⅰ(急性期)疼痛・腫脹・血管運動障害(発赤・発汗)疼痛の範囲内での自己による自動介助運動、交代浴、ホットパック、臥床時の上肢ポジショニング(挙上位)
Ⅱ(萎縮期)皮膚・筋の萎縮、疼痛はやや軽減関節可動域運動を積極的に進める
Ⅲ(萎縮完成期)拘縮と可動域制限が固定拘縮の進行予防と残存機能の活用

ステージⅠに強い他動的伸張運動は不適切(疼痛・炎症が増悪する)。急性期でも温熱や交代浴、ポジショニング、痛みの範囲内の自動介助運動は適切。この振り分けが最頻出のひっかけ。

5-9 がんのリハビリテーション

  • 病期で4つ=予防的・回復的・維持的・緩和的
  • 緩和ケア病棟ではQOLの維持・向上が最優先で、機能回復を優先するのではない。苦痛緩和と生活動作の維持に重心を置く。
  • 骨転移があれば病的骨折のリスクがあるため、転移の有無と部位に応じて荷重量・運動内容を変更する(免荷・装具の検討)。脊椎転移では脊髄圧迫による麻痺にも注意。

肺癌では呼吸介助が禁忌は誤り → 呼吸介助・排痰援助は症状緩和に有用で、一律に禁忌ではない。

病名告知が理学療法の前提は誤り → 告知の有無にかかわらず、本人の意向と状態に合わせて支援する。

5-10 治療の記録 — POMRとSOAP

問題指向型医療記録(POMR)は、基礎データ → 問題リスト → 初期計画 → 経過記録(SOAP)→ 要約、で構成される。

内容
S(主観)患者・家族の訴え「左足に力が入らない」
O(客観)検査・観察で得た事実そのものBrunnstrom法ステージ下肢Ⅲ/左下肢の筋緊張が低下している/荷重で膝折れが生じる
A(評価)Oを解釈・統合し、問題の原因を考察したもの筋緊張低下により体重支持力が低下している
P(計画)これから行う介入筋力増強練習を行う/長下肢装具を用いて立位練習を行う

Aの見分け方=「○○により△△が生じている」という因果・解釈を含むかどうか。事実の羅列だけならO、「〜を行う」で終わればPと判断する。