第6章|主要障害のリハ

リハビリテーション医学 第6章

6-1 脳卒中のリハ ― 病期別の進め方と応用歩行

  • 急性期=早期離床で廃用を防ぐ。回復期=集中的な機能訓練とADL練習。運動麻痺の回復はBrunnstrom stageで評価
  • 主な合併症=肩手症候群・視床痛・半側空間無視・失語・摂食嚥下障害・痙縮

応用歩行は「健側で身体を支える」で決まる

原則は上り(昇る・乗り込む)は健側から、下り(降りる)は患側から。常に健側が体重を支える側になるよう先行肢を決める。

場面先に出す下肢
階段を上る/急なスロープを上る健側
バスに乗る/エスカレーターに乗る健側(段差を上がる動作と同じ)
階段を下りる患側(下段へ先に降ろし健側で支持)
低い障害物をまたぐ患側(麻痺側)。健側支持のまま振り出すと安定
「麻痺側から行うのはどれか」=障害物またぎ。他の昇段・乗車系はすべて健側先行。

CI療法(constraint-induced movement therapy/拘束誘発運動療法)

  • 非麻痺側(健側)上肢をミトンや三角巾で拘束し、麻痺側を強制的に使わせて学習性不使用を打ち破る。「麻痺側を拘束する」は逆で誤り
  • 実施は1日数時間×2〜3週間の集中的な課題指向型練習+自宅でも使わせる行動戦略(transfer package)。セラピストが常時近位監視する方法ではなく、自主的な使用を促すのが本質
  • 適応の目安=手関節背屈20°以上・手指伸展10°以上が自動でできる程度の随意性。Brunnstrom法ステージⅡのような随意性のほぼない手では適応にならない(動かせない手を使わせても課題が成立しない)
  • 「疼痛が少しでもあれば適応外」は誤り。疼痛の程度と管理しだいで実施できる。絶対的除外は重度の認知機能低下・重度の感覚障害・転倒リスクの高さなど
  • 他動的関節可動域運動を長時間行う方法ではない(自動運動=自分で使うことが治療そのもの)

6-2 脳卒中後の疼痛 ― 肩手症候群と視床痛

CRPS(複合性局所疼痛症候群)は末梢神経損傷の有無で2型に分ける。

旧称神経損傷該当するもの
type Ⅰ反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)なし肩手症候群・Sudeck骨萎縮
type Ⅱカウザルギーあり末梢神経損傷後の灼熱痛
CRPSに含まないもの=幻肢痛・視床痛・帯状疱疹後神経痛
肩手症候群視床痛
機序末梢性(CRPS type Ⅰ)中枢性疼痛(視床後外側腹側核)
出現時期卒中後1〜3か月の早期卒中後数週〜数か月と遅発(直後ではない)
随伴所見手部の腫脹・熱感・皮膚変化・ROM制限腫脹なし。しびれ・異常感覚が主体
頻度・背景十数%程度。運動麻痺が重度な例に多い脳卒中患者の数%程度
薬物消炎鎮痛・ステロイド等通常の鎮痛薬は無効→抗うつ薬・抗てんかん薬
「肩手症候群は軽症麻痺に多い」「6か月以降に生じる」「頻度40%」「女性は男性の2倍」はすべて誤り → 正しくは重度麻痺例に1〜3か月の早期、十数%、性差の定説なし

6-3 摂食嚥下障害の栄養管理

  • 水分は誤嚥しやすい → とろみを付けるのが標準
  • 経鼻胃管は3週間以内の短期、それを超える長期管理は胃瘻。経鼻胃管の長期留置は鼻咽頭の刺激・逆流性食道炎を招き適さない
  • 経鼻胃管でも逆流・誤嚥は起こる(頭部挙上が必要)。「経管なら誤嚥しない」は誤り
  • 胃瘻造設後も回復に応じて段階的に経口摂取を再開する。造設=経口中止ではない
  • 点滴(輸液)でも必要エネルギー量・電解質を考慮する

6-4 脊髄損傷の疫学と障害像

項目正しい知識
性別男性が女性の3〜4倍
損傷高位頸髄損傷が最多(全体の50〜60%)。腰髄が最多ではない
原因日本は転落・転倒が最多>交通事故>スポーツ。労災による受傷は減少
年齢従来のピークは15〜29歳。近年は高齢者の転倒による頸髄損傷が増え平均年齢が上昇
発生頻度人口100万人当たり年約40人(100人ではない)
完全麻痺の比率頸髄と胸腰髄で大差なくむしろ胸腰髄でやや高い。「頸髄で高い」は誤り
頻出=「男性・頸髄が最多」「高齢者の受傷が増加・労災は減少」

6-5 脊髄損傷のリハ ― 立位・歩行練習の目的

起立台・長下肢装具などで立位/歩行練習を行う目的。

  • 痙縮の減弱(荷重・持続伸張による)
  • 褥瘡の予防(仙骨部・坐骨部の除圧)
  • 骨粗鬆症(廃用性骨萎縮)の予防(荷重刺激が骨形成を促す)
  • 消化管運動・排尿排便の促進、起立性低血圧の改善、関節拘縮の予防、心理的効果
異常疼痛(神経障害性疼痛)の抑制は目的に含まれない。損傷後の異常疼痛は中枢性機序が主で、立位・歩行練習では抑制できず、薬物療法(抗てんかん薬など)が中心となる。

6-6 心臓リハビリテーション

効果として「ある/ない」の線引き

効果がある効果として認められない
運動耐容能の向上/冠危険因子の改善/再発・死亡率の低下(心臓死の減少)/QOL向上・抑うつ改善すでに壊死した梗塞範囲の縮小心室破裂の減少心嚢液貯留の減少左室駆出率の増加

運動強度の設定

  • 目安はAT(嫌気性代謝閾値)レベル、またはBorg指数11〜13(楽である〜ややきつい)。Karvonen法で目標心拍数を算出
  • 1 MET=安静座位の酸素摂取量=3.5 mL/kg/分。換算式:AT(mL/分/kg)÷3.5 ≒ METs。例)AT 17.5 → 5 METs
  • 有酸素運動に加え、適切な負荷のレジスタンストレーニングを併用する
  • 自己管理=体重・血圧の日誌記録(体液貯留の早期発見)、抗凝固薬など処方薬の継続

日常活動のMETs代表値

METs活動
1安静座位(=3.5 mL/kg/分)
2ゆっくり歩く(約3 km/h・50 m/分)・食事・洗顔・調理
3〜4通常の平地歩行(約4 km/h・分速60〜70 m)・入浴・階段を下りる・掃除機かけ
3.5〜4やや速い歩行(分速80 m・約4.8 km/h)・自転車(ゆっくり)
5〜6速歩(分速100 m以上)・階段を上る・軽い農作業
7〜8ジョギング・水泳・重い荷物を持って階段

歩行の問題は分速をkm/hに直してから表に当てる。分速80 m=80×60=4,800 m/時=4.8 km/h ≒ 3.5 METs。分速60〜70 m=約4 km/h=3〜4 METs。「通常歩行=3〜4 METs」を軸に、速ければ上、遅ければ下へ動かす。

NYHA classⅠ(制限なし)でAT約5 METsの例に「生活活動は3 METsを上限」と指導するのは誤り → 過剰な制限は活動性低下と廃用を招く。耐容能に見合う活動量を許可する。

6-7 運動負荷試験と運動耐容能の評価

方式検査内容
固定負荷マスターシングル/ダブルテスト身長・体重・年齢で決めた規定回数の階段昇降=負荷量が一定。虚血のスクリーニング
漸増負荷Bruce法トレッドミルで3分ごとに速度・傾斜を上げる多段階負荷
漸増負荷ランプ負荷法エルゴメータ等で負荷を連続的に増やす
漸増負荷シャトルウォーキングテスト発信音に合わせて歩行速度を段階的に上げる
自己ペース6分間歩行テスト(6MWT)6分間の歩行距離。外的負荷は固定されない
  • 6MWTは運動耐容能評価の標準。心不全・呼吸器疾患で持久力・予後・ADL能力を反映し、退院時の運動機能評価に最適
  • 紛らわしい評価:クリニカルシナリオ分類・Nohria-Stevenson分類=急性心不全の病態分類(うっ血・低灌流の有無)で運動機能の指標でない。ハンドグリップテスト=等尺性負荷に対する循環応答をみる検査

6-8 呼吸リハビリテーション・周術期・ICU

COPD

  • 呼吸仕事量の増大で安静時エネルギー消費量は増加(減少ではない)。るい痩を招く
  • 急性増悪時の補助換気はNPPV(非侵襲的陽圧換気)が第一選択。挿管回避に有用
  • 呼吸リハは運動耐容能だけでなく抑うつ・不安・QOLも改善
  • CAT(0〜40点)・mMRC息切れスケールは高得点=重症・QOL低下。「点数が高いほどQOLが高い」は誤り
  • COPDは肺癌の重要な危険因子で合併はむしろ多い。口すぼめ呼吸も基本手技

肺切除術の周術期

  • 術前から咳嗽(ハッフィング)・排痰法・呼吸練習を指導し、術後の無気肺・肺炎を予防する
  • 推奨は横隔膜を使う腹式(下部胸式)呼吸上部胸式呼吸は換気効率が悪く不適
  • ADL自立例で術前を安静にするのは誤り。術後もベッド上体位排痰を1週続けず早期離床が原則
  • 回復期の運動強度は修正Borg 3〜4が中等度の目安。2(弱い)では低すぎる

ICUでの急性期リハ

項目正しい対応
スクイージング呼気に同調して胸郭を圧迫し、呼気流速を高めて排痰を促す
体位排痰法痰の貯留部位を上にする(重力ドレナージ)。下にするのは誤り
頭部挙上誤嚥・人工呼吸器関連肺炎の予防のため早期から行う
歩行練習安全を確保したうえでICUでも行う
総腓骨神経麻痺の予防除圧すべきは腓骨頭部。踵部の除圧は踵部褥瘡の予防

6-9 関節リウマチのリハと自助具・支援機器

  • 二本柱=関節保護とエネルギー保存。関節保護の原則は「小関節より大関節を使う」「持続的把持を避ける」「変形方向への力を避ける」「スプリント(変形防止装具)を活用」
  • 足部変形(外反母趾・開張足)には歩容に応じた足底板で除痛・歩行安定
  • 時期別=再燃した急性炎症期は運動を避け安静、寛解期は関節可動域・筋力の維持運動
  • Steinbrocker分類=Stageは関節破壊の進行度、Classは機能障害度
頸椎の等張性抵抗運動を励行するのは誤り → 関節リウマチは環軸椎亜脱臼を生じやすく、頸部への抵抗運動は脊髄圧迫の危険があり禁忌。
疾患・障害適した支援機器判定のポイント
関節リウマチ台付き爪切り・太柄スプーン・ジャーオープナー片手の軽い操作で済み小関節を保護できる=適切
頸髄損傷C4など高位環境制御装置・コミュニケーションエイド上肢が使えない高位で初めて必要
第8頸髄完全損傷特殊機器は不要手指機能が残り文字入力可=エイドは不適
第2腰髄完全損傷ボードは必須でない上肢良好で移乗は自立可能
片側手関節離断義手が中心健側で缶開けは可能=オープナーは必須でない
アテトーゼ型脳性麻痺リーチャーは不適不随意運動下では操作が困難

6-10 その他の障害 ― リンパ浮腫・排尿障害・内部障害

リンパ浮腫

標準治療は複合的理学療法(CDT)=①スキンケア ②用手的リンパドレナージ ③圧迫療法(弾性包帯・スリーブ) ④圧迫下の運動 の4本柱。

  • 蛋白を含む間質液の貯留なので利尿薬は無効(長期使用は有害)。水分制限も無効
  • 皮膚の保湿で乾燥・亀裂を防ぎ蜂窩織炎を予防。剃刀での剃毛は感染門戸をつくるため避ける(必要なら電気シェーバー)
  • 患肢は挙上してリンパ還流を促す。低い位置に保つのは増悪させる

避けること=①熱刺激(熱い湯での長湯・サウナ・患肢へのホットパック。血管拡張でリンパ産生が増える)②締め付ける衣服・下着・腕時計・指輪(きつい袖口はうっ滞を悪化させる。圧をかけるのは弾性スリーブ等の医療用圧迫だけ)③患側での採血・血圧測定・注射 ④重い荷物を患側で持つ ⑤虫刺され・切り傷・日焼けなど皮膚を傷つける行為。いずれも狙いは感染(蜂窩織炎)とリンパ産生増加を防ぐこと

尿失禁の型

特徴
腹圧性咳・くしゃみ・笑い・運動など腹圧上昇時に漏れる。女性で最多(約40〜50%)
切迫性膀胱の過活動により突然の強い尿意とともに漏れる
溢流性尿閉で膀胱が充満し、あふれ出る
反射性脊髄損傷などで反射弓が働き、尿意なく反射的に排尿
機能性膀胱・尿道は正常。認知機能低下や移動困難でトイレに間に合わない

身体障害者障害程度等級表の内部障害

心臓・腎臓・呼吸器・膀胱直腸・小腸・HIVによる免疫・肝臓の7種代謝機能障害(糖尿病など)・血液・脳機能は含まない

6-11 リハにおけるリスク管理とインシデントレポート

  • 目的は再発防止とシステム改善で、責任の所在の追及ではない(非懲罰的が原則)
  • 管理者の役割=報告しやすい環境・組織風土をつくること
  • 記載は主観や推測を交えず事実を客観的・具体的に。「自分の考えも含めて書く」は誤り
  • 記憶が新しいうちに迅速に作成・提出する。時間をかけると正確性も提出率も下がる
  • 事故に至らなかったヒヤリ・ハット(ニアミス)も報告対象
ハインリッヒの法則=1件の重大事故の背後に29件の軽微な事故と300件のヒヤリ・ハット。ニアミス収集が重大事故予防の鍵。

事故・過誤に関連した用語

用語意味よく出る誤った説明
インシデント実害に至らなかった、または軽微な事象=ヒヤリ・ハット(ニアミス)。誤りが患者に及ぶ前に気づいた場合や、及んでも影響がなかった場合を含む「重大な事故の発生」は誤り。それはアクシデント
アクシデント患者に実害(有害な結果)が生じた事故=医療事故。医療従事者の過誤の有無は問わない。過誤がなくても、不可抗力の合併症や偶発症で実害が出ればアクシデントに含まれる「過誤があったものだけをいう」は誤り
医療過誤アクシデントのうち医療従事者の過失(注意義務違反)が原因のもの。アクシデントの一部にすぎないアクシデント=医療過誤ではない
有害事象医療行為に伴って生じた好ましくない事象すべて重症度を問わず、軽微なものも、因果関係がはっきりしないものも含む「生命に直結する事故」は誤り。重篤なものに限らない
コンプライアンス法令遵守。法令・規則・倫理を守ること「法令を逸脱する行為」は誤り。意味が正反対

包含関係は有害事象 ⊃ アクシデント ⊃ 医療過誤、その手前にあるのがインシデント(実害なし)。用語の意味を裏返した選択肢が定番なので、「実害が出たか」と「過誤があったか」を別々の軸として扱うのがコツ。実害あり・過誤なし=アクシデントであってインシデントではない、が最頻出。

ハインリッヒの法則を「重篤な事故の数は軽微な事故の数と反比例する」と説明するのは誤り。→ 1:29:300は同じ方向に増減する階層構造で、ヒヤリ・ハットが多い職場ほど重大事故も多い。反比例(一方が増えれば他方が減る)ではない