第3章|失語症の検査

失語症 第3章

3-1 総合的失語症検査

略称の対応:SLTA=標準失語症検査/SLTA-ST=標準失語症検査補助テスト/WAB=WAB失語症検査/SALA=SALA失語症検査/TLPA=失語症語彙検査/CADL=実用コミュニケーション能力検査/SCTAW=標準抽象語理解力検査/RCPM=レーヴン色彩マトリックス検査

標準失語症検査(SLTA)

  • 「聴く・話す・読む・書く・計算」を評価する総合的失語症検査。重症度を知ることができる
  • プロフィール(C)でz得点に変換
  • 談話評価は直接含まない(補助テスト・SLTA-STで対応)
  • SLTAは語列挙(語想起)の検査項目を含む(「標準失語症検査(SLTA)は語列挙の検査項目を含む」は正しい
  • ただし「標準失語症検査 ― 系列語」を代表的な組合せとして挙げるのは誤り。SLTAを一語で代表させる特徴は「聴く・話す・読む・書く・計算」の総合評価であって、系列語ではない
  • SLTA-STは語想起・漢字書字・仮名処理などの掘り下げ検査で、統語機能を精査する項目は含まない。統語・文処理の精査はSALAや失語症構文検査が担う
  • SLTA-STに「まんがの説明」(談話評価)が含まれる
  • SLTA・SLTA-STとも計算の課題を含む

SLTAプロフィールから失語型を読み取る

SLTAのプロフィール(C)は各項目の成績をz得点で並べたもので、「聴く」「話す」「復唱」の相対的な高低のパターンから失語型を推定できる。
※SLTA自体に流暢性の尺度はないので、プロフィールから流暢/非流暢を直接決めることはできない。まず復唱を見るのが読み取りの起点になる。

【読み取りの手順】 ① 復唱は保たれているか? ├─ 保たれている(山)→ 超皮質性失語群・失名辞失語 │ └─ 聴理解も良い → 超皮質性運動失語 or 失名辞失語 │ └─ 聴理解が低い → 超皮質性感覚失語 └─ 落ちている(谷)→ 伝導失語・ウェルニッケ失語・ブローカ失語・全失語 └─ 聴理解が良い → 伝導失語 └─ 全項目が重度低下 → 全失語
プロフィールの形聴く話す復唱想定される型
復唱だけが深い谷良好比較的良好選択的に低下伝導失語
復唱だけが高い山+理解低下低下低下保たれる超皮質性感覚失語
復唱・理解とも良好で呼称のみ低下良好喚語困難良好失名辞(健忘)失語
復唱・理解は良好で発話量が乏しい良好低下良好超皮質性運動失語
全項目が一様に重度低下重度低下重度低下重度低下全失語

プロフィール問題の核心は復唱の「谷」か「山」か谷=伝導失語(理解良好が条件)山+理解低下=超皮質性感覚失語山+理解良好=超皮質性運動失語・失名辞失語全部低い=全失語
語義失語は復唱良好・語の意味理解障害なので、復唱が落ちるプロフィールとは合致しない点にも注意する。

WAB失語症検査

  • 失語指数(AQ)を算出
  • 自発話の流暢性を評価する項目あり(「WAB失語症検査―流暢性評価」は正しい組合せ)
  • 失行の検査項目あり
  • 非言語性知能の検査項目あり
  • 「はい」「いいえ」で答える検査項目あり
  • 長文の聴覚的理解の検査項目はない(WABには長文理解課題がない)
  • 計算の課題を含む(失行・非言語性知能・読み書きも含む総合検査)
  • 重症度の評価ができるため重度失語症にも実施可

SALA失語症検査

  • 認知神経心理学的モデルに基づく
  • 語音認知能力を評価する項目を含む
  • 文の理解・産生に関する項目が含まれる(統語・文処理の精査を担う)
  • 計算の課題がない(=主な失語症検査の中で計算課題を欠くのはSALAだけ)
  • 語の親密度・心像性・語長を統制

失語症語彙検査(TLPA)

  • 類義語判断検査:意味システム(認知システム)を評価(「失語症語彙検査―類義語判断」は正しい組合せ)
  • 認知神経心理学的モデルに基づく
  • 語彙・意味処理の検査であり、構文(文法)能力の検査ではない(「TLPA―構文能力」の組合せは誤り。構文の精査は失語症構文検査やSALAが担う)
  • 失語指数は算出しない(WABが算出)

重度失語症検査

  • コミュニケーションに関する残存能力を評価
  • 非言語記号の理解など、言語以外の手段も含めて評価する
  • 意味カテゴリー別名詞検査は含まない(「重度失語症検査―意味カテゴリー別名詞検査」の組合せは誤り)
  • 4コマ漫画を用いた構文産出評価は含まない(失語症構文検査の役割)
  • 日常のコミュニケーション能力の「レベル」を総合評価するのはCADLであり、重度失語症検査の目的ではない。重度失語症検査は重度例にどのモダリティ・どの手段が残っているかを細かく拾い上げる検査で、実用場面での到達度を段階づける検査ではない(「重度失語症検査 ― コミュニケーションレベル」は誤った組合せ

重度失語症検査とCADLの棲み分け重度失語症検査=残存能力・非言語記号の理解など「何が残っているか」を探るCADL=日常場面での実用コミュニケーション能力(活動レベル)を総合評価する。どちらも重度例に実施できるため混同しやすいが、「コミュニケーションレベル」と結びつくのはCADLである。

実用コミュニケーション能力検査(CADL)

  • ICFの活動レベルの評価
  • 非言語的な反応についても評価する(ジェスチャー等)
  • 日常場面の課題として金銭処理などの計算を含む
  • 発話量は計測しない
  • 数詞の把持は評価しない(「実用コミュニケーション能力検査―数詞の把持」の組合せは誤り。把持は数唱検査で評価)
  • 実用的な伝達能力をみるため重度失語症にも実施可

「CADLは発話量を計測する」は誤り。「WABに長文聴覚的理解の検査項目がある」は誤り。「WABに計算の課題はない」は誤り → WABは計算を含む。「失語症語彙検査は失語指数を算出する」は誤り → WABが算出。「SALAに計算課題がある」は誤り。「SLTA補助テスト(SLTA-ST)に統語機能を精査する項目が含まれる」は誤り。

計算課題の有無:SLTA・SLTA-ST・WAB・CADL(金銭処理)は計算を含む計算の課題がないのはSALAのみ

3-2 その他の検査・評価

トークンテスト

評価内容:

  • 色名の理解・形の名称の理解
  • 聴覚的把持力
  • 位置関係を表す語の理解
関係節(統語)の理解は評価できない(トークンテストでは評価しない)

「トークンテストで関係節の理解が評価できる」は誤り → 統語的複雑な文の理解評価ではない。「トークンテストでモーラ分解・抽出が評価できる」は誤り → モーラ分解・抽出検査が別途ある。

モーラ分解・抽出検査

  • 音韻操作能力を評価
  • 仮名書字訓練のための掘り下げ検査
  • 聴覚的理解の検査ではない

失語症構文検査

  • 理解ストラテジー(語順ストラテジーなど)を評価
  • 構文理解・産生を評価
  • 4コマ漫画を用いた構文産出は含まない(新版では含む場合もあるが旧版は含まない)

標準抽象語理解力検査(SCTAW)

  • 抽象語の理解を、抽象語の聴覚的理解課題と視覚的理解課題で評価する
  • 抽象語理解は言語負荷が高く、重度失語症では床効果となり適さない

重度失語症で「適さない」検査標準抽象語理解力検査(SCTAW)のように言語負荷の高い検査は床効果で評価できない。一方、SLTA・WAB(重症度判定が可能)、CADL(実用的伝達能力・非言語手段も評価)、RCPM(言語を使わない非言語性知能)は重度でも実施可

知能・認知機能検査

検査特徴
RCPM(レーヴン色彩マトリックス検査)言語を必要としない知能検査。失語症者に適用可能
ベントン視覚記銘検査視覚的な記銘(視覚性記憶)の検査。図形を見て再生・模写する課題で言語への依存が低く、重度失語症者にも実施しやすい
HDS-R・MMSE言語機能を要するため失語症者には不適。口頭での質問・応答が中心で、重度失語症では正しく評価できない
WCST前頭葉機能評価。失語症の知能評価には不適
GCS意識レベルの評価

その他の評価

  • 4コマ漫画の口頭説明:談話レベルの評価が可能
  • ピラミッドアンドパームツリーズテスト:意味記憶の評価
  • 語彙性判断検査:提示された語が実在語か非語かを判定する課題で、語形の既知性をみる。意味理解の指標ではない(意味理解は類義語判断やピラミッドアンドパームツリーズテストで評価する)。ただし「語の同定(入力音韻辞書に照合できるか)」段階を調べる目的では優先度の高い検査であり、単語理解の障害部位を絞り込む場面では真っ先に選ぶ
  • 数唱検査:聴覚言語性短期記憶の評価
  • 語音弁別検査:語音認知(音の異同の聞き分け)の評価
  • 呼称検査:喚語(語想起)の評価。単語理解力検査は理解面の検査で、喚語の評価ではない

「意味理解―語彙性判断検査」は誤りの組合せ。「喚語―単語理解力検査」も誤りの組合せ(産生=喚語・呼称と、理解の検査を取り違えない)。

単語が理解できないときの評価の優先順位

「ねこ」と言われて猫の絵を指させない——このような単語ポインティングの失敗は、単語レベルの聴覚的理解の障害である。どこでつまずいているかを、入力側から順に切り分ける。

【単語理解の処理段階と対応する検査】 ① 語音認知(音の聞き取り) → 語音弁別検査 ↓ ② 語の同定(実在語かどうか)→ 語彙性判断検査 ↓ ③ 対象の認知(絵が分かるか)→ 絵のカテゴリー分類
  • 優先度が高いのは、①語音認知・②語彙性判断・③絵のカテゴリー分類の3つ。単語ポインティングという課題そのものを構成する段階だから、失敗の原因が必ずこのどこかにある
  • 優先度が低いのは統語理解モーラ分解
  • 統語理解文レベルの処理。単語1語を聞いて指す課題には文法処理が関与しないため、単語理解の失敗を説明できない
  • モーラ分解音韻操作(仮名書字訓練のための掘り下げ)。語音を意味に結びつける経路とは別系統で、単語理解の直接評価ではない

覚え方:単語が分からないなら単語より下の段階(音・語形・対象)を疑う。単語より上(文=統語理解)横道(音韻操作=モーラ分解)は後回し。

語彙性判断検査は「意味理解の検査ではない」が、「単語理解の評価として優先度が低い」わけではない。②語の同定段階を調べる中核の検査なので、この場面では優先度が高い側に入る。組合せ問題での扱い(意味理解とは結びつかない)と、評価計画での優先度を混同しない。

検査課題で統制する刺激変数

失語症の評価では、同じ「呼称」「復唱」でも刺激の性質によって成績が大きく変わる。どの変数を統制(考慮)すべきかは課題ごとに異なる

刺激変数内容影響を受ける主な課題
頻度その語が使われる頻度。高頻度語ほど成績が良い聴覚的理解・呼称・音読
親密度その語になじみがある程度。高いほど成績が良い書字・呼称・理解
心像性イメージのしやすさ(具象語>抽象語)理解・呼称・読み
語長(モーラ数・文字数)長いほど負荷が高い(語長効果)復唱・音読
品詞名詞・動詞などで成績が解離しうる呼称・産生課題
語彙性実在語か非語か音読・復唱(非語を混ぜて音韻経路を調べる場面のみ)

語彙性だけは課題を選ぶ——語彙性が意味をもつのは、非語を刺激に混ぜられる課題(音読・復唱)だけである。呼称は実物・線画の名前を答える課題なので刺激は必ず実在語であり、語彙性を操作する余地がない。呼称で考慮すべきなのは頻度・親密度・心像性・語長・品詞である。
整理:復唱=語長/音読=文字数(語長)・語彙性/書字=親密度/聴覚的理解=頻度「呼称では語彙性を考慮する」は誤り
なお、語の親密度・心像性・語長を統制した検査の代表がSALA失語症検査である。

3-3 ICFと評価

ICFの枠組み

ICF領域
心身機能・身体構造喚語困難がある・音韻性錯語がある
活動電話が使えない・会話ができない
参加家族旅行に行かない・職場復帰できない
環境因子一人暮らしである
個人因子読み書きの習慣がない

「家族旅行に行かない → 活動」は誤り → 参加。「一人暮らしである → 活動」は誤り → 環境因子。「読み書きの習慣がない → 環境因子」は誤り → 個人因子。