この章のねらい:音の大きさの心理量は、STの
聴覚検査・補聴の土台です。
最小可聴値は
純音聴力検査の聴力レベル(dB HL)の基準そのもの、
ラウドネスは
補聴器の圧縮(ノンリニア)増幅とラウドネスリクルートメント現象(補充現象)の理解に直結します。まずは
ソーン(ラウドネス)とフォン(ラウドネスレベル)の定義、そして
音圧レベル・聴力レベル・感覚レベルの3つの基準を正確に区別しましょう。数値(1000Hz基準・40dB SPL・20μPa)は狙われやすいので、定義から押さえます。
1-1 ラウドネスとラウドネスレベル ― ソーンとフォン
同じ音圧でも、周波数が違えば聞こえる大きさは変わります。この「聞こえる大きさ(心理量)」を数値化するのがラウドネスとラウドネスレベルです。単位が2つあり、定義を取り違えないことが最重要です。
| 用語 | 単位 | 定義 |
| ラウドネスレベル | フォン(phon) | ある音と同じ大きさに聞こえる1000Hz純音の音圧レベル(dB SPL)で表す。例:250Hz・60フォン=1000Hz・60dB SPLと同じ大きさ |
| ラウドネス | ソーン(sone) | 大きさそのものを表す比率尺度。1ソーン=1000Hz・40dB SPL(=40フォン)の純音の大きさ。2ソーンは1ソーンの「2倍の大きさ」 |
定義の核:①フォン=その音と等しく聞こえる1000Hz純音のdB SPL。②1ソーン=1000Hz・40dB SPL=40フォン。③ラウドネスレベルが約10フォン上がるごとに、ラウドネス(ソーン値)は約2倍になる。だから「1ソーンと同じ大きさ」=1000Hz・40dB SPLの純音(=40フォン)。
ひっかけ(数値・尺度):・ソーンは比率尺度だから4ソーンは2ソーンの2倍(4倍ではない)。・大きさが2倍になるのは約10フォン上昇で、6フォンではない。・1000Hz・100dB SPLは1ソーンではない(1ソーンは40dB SPL)。低音域(125Hzなど)で同じ40dB SPLでも、等ラウドネス上は40フォンに届かず1ソーンより小さく聞こえる。
1-2 音のレベルの3つの基準 ― 音圧レベル・聴力レベル・感覚レベル
「〇〇レベル」は、何を基準(0の位置)に取るかで3種類に分かれます。検査で使い分けるので、基準を必ずセットで覚えます。
| レベル | 記号 | 基準(0dBの位置) | 使いどころ |
| 音圧レベル | dB SPL | 20μPa(物理的な基準音圧) | 物理的な音の強さ |
| 聴力レベル | dB HL | 健康な若年者の最小可聴値(ISO等の国際規格で規定) | 純音聴力検査のオージオグラム |
| 感覚レベル | dB SL | その個人の聴覚閾値 | 語音聴力検査など「閾値より何dB上で提示するか」 |
取り違え注意:感覚レベル(dB SL)は個人の閾値からの相対値で、主に語音聴力検査で「閾値上◯dB」の提示に使う。「感覚レベルは純音聴力検査で用いる」は誤り(純音検査はdB HLで読む)。聴力レベルの基準は個人ではなく正常若年者の閾値(ISO規定)。
つながる知識:オージオグラムの縦軸は
dB HL。語音聴力検査(スピーチオージオグラム)の横軸は
dB SL または dB SPL / dB HLで表され、明瞭度曲線を描きます。
聴覚障害の検査を読むうえで、この3基準の違いは前提知識です。
1-3 等ラウドネス曲線と最小可聴値
等ラウドネス曲線は、同じ大きさ(同じフォン)に聞こえる音圧レベルを周波数ごとに結んだ曲線です。人の耳の周波数ごとの感度を表します。
- 低い周波数ほど、同じ大きさに聞こえるのに高い音圧が必要(曲線が上に反る)。
- 提示レベルが大きいほど曲線は平坦になり、周波数による聞こえの差(周波数依存性)は小さくなる(=大音量では周波数差が縮まる)。
- 最も感度が高いのは2〜4kHz付近(曲線が最も下がる)。
最小可聴値(絶対閾)は、その周波数で聞こえる最小の音圧で、等ラウドネス曲線の一番下(最も静かに聞こえる限界)にあたります。周波数で異なるため、同じ音圧でも周波数によっては聞こえないことがあります。
純音の聞こえ(頻出):・音圧が違っても大きさが等しいことがある(周波数が違えば等ラウドネスで成立)。・同じ周波数でも音圧が変わると高さがわずかに変わることがある。・最小可聴値以下では聞こえない(同じ音圧でも周波数で聞こえたり聞こえなかったり)。物理量と心理量がずれる点が狙われる。
等ラウドネス曲線のひっかけ:「周波数依存性は提示レベルが大きいほど顕著になる」は誤り。レベルが大きいほど曲線は平坦で、依存性はむしろ小さくなる。図問題では、矢印の曲線が何フォンか・交点が何フォンかを読み取らせる。
1-4 心理量と物理量・単位の整理
聴覚心理学は「物理量↔心理量」の対応を単位ごと問うのが定番です。まとめて覚えます。
| 物理量 | 単位 | 対応する心理量 | 単位 |
| 周波数 | ヘルツ(Hz) | ピッチ(音の高さ) | メル(mel) |
| 音圧 | パスカル(Pa) | ラウドネス(音の大きさ) | ソーン(sone)/レベルはフォン(phon) |
| 音圧レベル | デシベル(dB) |
単位の組合せ(頻出):正しい対応は音圧=Pa、音圧レベル=dB、ラウドネス=ソーン、ラウドネスレベル=フォン、ピッチ=メル。誤りの定番は「ピッチ―ヘルツ」(Hzは物理量の周波数の単位で、ピッチの単位はメル)。物理量(Hz・Pa・dB)と心理量(mel・sone・phon)を必ず対にして押さえる。
次章へ:次章では
音の高さ(ピッチ)・音色を扱います。ピッチの単位
メル、周波数とピッチが非線形にずれること、そして
場所説と時間説——聴神経がどう高さを符号化するかは、蝸牛の生理(
聴覚系)とつながる頻出テーマです。