第1章|発達の基礎と認知発達理論

対応過去問 15問/難易度 ★★★☆☆
この章のねらい:発達心理学の土台は「発達をどうとらえるか(原理)」「認知(考える力)がどう育つか(ピアジェ・ゲゼル)」です。国試では人名↔理論の組合せピアジェの4段階が繰り返し問われます。STにとって、正常な認知発達の順序(対象の永続性→象徴機能→保存概念…)を知ることは、言語発達障害の評価で「どこで発達が止まっているか」を見極める前提そのものです。正常発達の地図がなければ逸脱は判定できません(言語発達障害学ノート言語発達学ノートとあわせて学ぶと効果的)。

1-1 発達の原理と生涯発達 ― まず「発達とは何か」

発達は受精から死に至るまで、生涯にわたって続く変化です(生涯発達=ライフスパンの視点)。国試ではこの基本原理そのものが問われます。

質的変化と量的変化

発達のとらえ方は2つに大別されます。この対比が頻出です。

とらえ方意味キーワード
量的変化能力が連続的に増える/減る(数値で表せる)発達指数・発達曲線
質的変化各段階で考え方・行動の「構造」が転換する発達段階(ピアジェ)
頻出:「発達を質的変化としてとらえるのはどれか」→発達段階。発達指数・発達曲線は量的、発達加速(世代を追って成熟が早まる現象)・発達診断は別概念。

生涯発達・遺伝と環境

  • 発達は獲得(成長)だけでなく、加齢に伴う衰退(喪失)も含む(生涯発達心理学の中心的観点)。
  • ある段階の発達課題は後続の発達に影響する(習得できないと後に響く)。
  • 遺伝と環境は相互に作用し、両者の寄与を明確に区分することは困難(輻輳説・相互作用説)。
  • 系統発達=種の進化、個体発達=個体の一生の変化。用語の区別が問われる。

遺伝と環境を調べる研究法 ― 双生児法

遺伝と環境の影響の強さを調べる代表的方法が双生児法です。遺伝子をほぼ共有する一卵性双生児と、約半分を共有する二卵性双生児で形質の一致度を比べ、遺伝の寄与を推定します。

「発達に対する遺伝と環境の影響の強さを調べる研究法」→双生児法
選好注視法(乳児の知覚→第3章)・内観法・面接法・民族誌法は目的が異なる。

1-2 ゲゼルの成熟優位説 ― 「準備ができてから学ぶ」

ゲゼル(Gesell, A.)は、発達を遺伝的・内発的な成熟が主導すると考えました(成熟優位説)。学習が成立するには心身の準備=レディネス(学習準備性)が整っている必要がある、という立場です。

キーワード内容
成熟優位説発達は成熟(内的要因)が主導する
双生児統制法一卵性双生児の一方だけを早期訓練し、成熟を待って学ばせた他方と比較する研究法
階段登り実験その代表的研究。早期訓練の効果は限定的で、成熟後は短期間で追いつくと示した
レディネス(学習準備性)準備が整って初めて学習が成立する

ゲゼルと取り違えやすいもの:
同化と調節によって外界に適応する」→ピアジェの理論(ゲゼルではない)。
精神分析学に基づく」→フロイトの立場(ゲゼルではない)。
「誤信念課題」→心の理論の課題、「発達加速現象」→別概念で、いずれも成熟優位説とは無関係。

運動スキルの学習も同じ:「運動スキルは発達初期から訓練すればするほど効果的」は誤り。レディネス(成熟)が整わないと訓練効果は乏しい。これはSTの小児訓練で「発達の準備が整っているか」を見る視点につながる。

1-3 ピアジェの認知発達の機制 ― シェマ・同化・調節・均衡化

ピアジェ(Piaget, J.)は、認知発達を環境との相互作用でシェマ(認知の枠組み)が更新されていく過程としてとらえました。まず4つの基本概念を正確に。

概念内容
シェマ外界を理解し働きかけるための認知的枠組み。発達とともに分化・統合される
同化既存のシェマに新しい情報を取り込む(手持ちの枠組みで対象を理解する)
調節既存のシェマで対応できないとき、シェマ自体を修正・変化させる
均衡化同化と調節の釣り合いをとる過程。発達を推進する原動力
核心:既有のシェマで対応できないときに調節が生じる。同化と調節の繰り返し→均衡化→シェマの更新、がピアジェ理論の骨格。

「新たな情報を既知のシェマに合わせて変化させることを均衡化という」→誤り。それは同化(均衡化は同化と調節の調整)。
ピアジェの用語でないもの=熟達化(情報処理理論の用語)・強化(行動主義・スキナー)・馴化(乳児研究の用語)。これらが紛れていたら誤り。
「段階の順序は分化によって異なる」→誤り(順序は普遍で不変)。「領域固有性を強調」→誤り(領域一般的な発達を想定)。「親の価値観への同化を重視」→誤り。

脱中心化と循環反応

  • 脱中心化=自己中心性(自分の視点・見かけだけにとらわれる)から脱すること。①他者の立場で物事を考えられる、②主観的印象でなく客観的事実に基づいて判断できるようになる。前操作期→具体的操作期への移行の鍵。
  • 循環反応=感覚運動期にみられる、偶然得られた結果を再現しようと同じ行為を繰り返す行動。例:ガラガラを振って音が鳴るのを何度も繰り返す。第一次(自分の身体)→第二次(外界の対象)→第三次(新しい手段を試す)へ発展。

脱中心化と紛らわしいもの:「対象の永続性を理解する」→感覚運動期の獲得、「演繹的推論ができる」→形式的操作期、「情動が伝染する」→乳児期の現象で、いずれも脱中心化の説明ではない。

1-4 ピアジェの発達段階 ― 4段階と保存概念

ピアジェは認知発達を4段階に分けました(5段階ではない)。順序は不変で、各段階で思考の質が転換します。年齢の目安と特徴をセットで覚えます。

段階時期の目安特徴
感覚運動期0〜2歳感覚と運動を通じて世界を理解。目と手の協応、対象の永続性、循環反応
前操作期2〜7歳象徴機能自己中心性アニミズム・直観的思考。保存は未成立
具体的操作期7〜11歳(学童期)保存概念の成立・可逆的思考・分類・系列化・脱中心化
形式的操作期11歳〜(青年期)抽象的・仮説演繹的思考。経験に縛られない
頻出の対応:「児童期(6〜11歳)=具体的操作期」「幼児期=前操作期」。前操作期=直観に依存・保存未成立、具体的操作期=可逆的思考・保存成立、形式的操作期=仮説演繹。「論理的操作期」という段階名は存在しない(ダミー)。

各段階の説明の取り違えに注意:
「生得的な反射を用いる/目と手の協応が生じる」→感覚運動期
「推理や判断が直観作用に依存する」→前操作期
「具体的に理解できるものは論理的操作ができる/可逆的思考」→具体的操作期
「仮説演繹的な思考が可能」→形式的操作期
前操作期の特徴=自己中心性・アニミズム(量の保存・可逆的思考・仮説演繹はより後の段階)。

保存課題が段階の分かれ目:同じ量の水でも容器の形が変わると量も変わったと考える(見かけに左右される)のが前操作期。見かけが変わっても量は不変と分かる(保存の成立)のが具体的操作期。保存概念の獲得=おおむね7歳以降
つながる知識:ピアジェの「認知が育つ」枠組みに対し、第2章ではエリクソン(心理社会的発達)・ヴィゴツキー(社会的相互作用による発達)・愛着理論という「関係のなかで育つ」枠組みを扱います。ピアジェの4段階とエリクソンの8段階を縦に並べると、発達段階の対応問題に強くなります。