第5章|成人期・老年期

対応過去問 9問/難易度 ★★★☆☆
この章のねらい:成人期・老年期はエリクソンの後半段階(生殖性・統合)知能の加齢変化(流動性/結晶性)バルテスのSOC理論死の受容が問われます。この章はSTの臨床と最も近く、高齢者リハ・失語症/高次脳機能障害の患者の障害受容支援に直結します。老年期は喪失(衰退)だけでなく選択・最適化・補償による適応(発達)が可能という視点、回想法レジリエンスは、そのまま高齢者支援の考え方になります。死の受容の段階は終末期・進行性疾患の患者理解の枠組みです。

5-1 成人期・中年期 ― 生殖性と人生の問い直し

エリクソンの発達段階では、成人期(壮年期)の課題は生殖性(世代継承性・ジェネラティビティ)対 停滞です。次世代を育て社会に貢献することで達成され、滞ると自己への停滞・自己耽溺に陥ります。

重要:生殖性は自分の出産・育児に限らない。後進の育成・創造的な仕事などでも達成できる。「出産や子育ての経験が発達課題の達成に不可欠」は誤り(世代継承性はより広い概念)。

中年期に生じる現象

  • 空の巣症候群(子の独立後の喪失感・空虚感)
  • 更年期障害(ホルモン変化による心身の症状)
  • 親役割の縮小中期キャリア危機(キャリアの停滞・見直し)
  • アイデンティティ再体制化(人生半ばで自己を問い直す)
  • これまでの生き方を吟味し、人生の有限性を意識する

成人期に生じにくいもの=モラトリアム(青年期に特有の心理社会的猶予)。
中年期に出現しないもの=統合性の獲得(「統合 対 絶望」は老年期の課題)。
成人期の課題(生殖性)と老年期の課題(統合)を段階でずらすひっかけに注意。

5-2 老年期の発達と適応 ― 衰退のなかの発達

老年期の課題は統合(自我の統合)対 絶望(エリクソン)。老年期は資源が制約されますが、適応的な発達が可能という視点が重要です。

バルテスのSOC理論

バルテス(Baltes, P.B.)SOC理論は、加齢で資源が制約される老年期にも、目標を絞り(選択:Selection)・残る力を活かし(最適化:Optimization)・不足を補う手段を用いる(補償:Compensation)ことで、補償を伴う選択的最適化によって発達が促されるとする理論です。

用語性質
SOC理論バルテスの発達理論(選択・最適化・補償)
サクセスフル・エイジング良い老いを指す一般概念(特定の理論名ではない)
プロダクティブ・エイジング生産的役割を担う老い方の概念
離脱理論/活動理論老年期適応の古典理論
決め手:「補償を伴う選択的最適化」=SOC。S・O・Cの3要素を言えれば、紛らわしい一般概念(ポジティブ/プロダクティブ・エイジング)に惑わされない。

老年期の心理

  • 高齢者は実年齢より自分を若く認識する傾向がある(主観的年齢は若め)。
  • レジリエンス(回復力)はうつ発症を防ぐ保護因子。
  • 高齢期は喪失体験(退職・死別・病気)が多く、うつのきっかけとなるライフイベントが多い。
  • 高齢者はストレスに対し、積極的に解消するより状況をあるがまま受け入れる(二次的制御)方略を取りやすい。
  • 回想は現実逃避ではなく人生の統合を促す(回想法はむしろ良い効果が期待される)。
  • Ryff の心理的well-beingは6次元(自己受容・積極的他者関係・自律性・環境制御・人生の目的・人格的成長)。死の受容は含まない

「回想は現実逃避でうつを促進する」「受け入れより解消しようとする傾向が強い」はいずれも誤り
「エリクソンの老年期の課題は生産的な活動」→誤り(老年期は統合 対 絶望。生産性=生殖性は成人期の課題)。

5-3 知能の発達と死の受容

流動性知能と結晶性知能

キャッテル(Cattell, R.B.)は知能を2つに分けました。加齢変化の違いが頻出です。

知能内容加齢変化
流動性知能新奇場面での推論・処理速度比較的早い時期にピーク→低下
結晶性知能経験・学習で蓄積された知識・語彙中高年まで維持・上昇
知能理論の人名マップ:スピアマン=2因子説(g因子+s因子)/サーストン=多因子(群因子)説/ギルフォード=知性構造モデル/キャッテル=結晶性知能・流動性知能/ヴィゴツキー=発達の最近接領域。取り違えが狙われる。

知能のピーク(第28回では複数正答扱い):流動性知能のピークは40歳代前半、結晶性知能のピークは40歳代後半とされ、選択肢1・3がともに正答とされた。「流動性知能は70歳くらいまで緩やかに低下」「結晶性知能は50歳頃から急速に低下」は誤り。「SOC理論で結晶性知能の低下を流動性知能が補償する」も誤り(SOCは資源配分の方略の理論)。

キューブラー・ロスの死の受容5段階

キューブラー・ロス(Kübler-Ross, E.)は、死にゆく人が示す心理過程を5段階として記述しました。順序は必ずしも一方向でなく行き来しうる点も補足されます。

段階内容
否認事実を受け入れられず否定する
怒り「なぜ自分が」という怒りが周囲に向く
取引延命などと引き換えに何かをしようとする
抑うつ避けられないと悟り気分が落ち込む
受容心の平安をもって死を静かに受け入れる

5段階に含まれないもの=回想(バトラーのライフレビューなど別概念)。
「キューブラー・ロス ― カンガルーケア」は誤り(カンガルーケアは新生児の早期母子接触。キューブラー・ロスは死の受容過程)。

つながる知識:死の受容5段階は、STが進行性疾患(ALS・認知症)や失語症・高次脳機能障害の患者・家族の障害受容を理解する枠組みそのものです。否認・怒り・抑うつは、臨床心理学ノートの防衛機制(否認・退行)ともつながります。老年期のSOC・回想法・レジリエンスは、高齢者リハで「残る力を活かし、できることを支える」支援の理論的背景になります。これで生涯発達の縦軸(受精から死まで)が一周しました。