第3章 形態論

言語学 第3章

3-1 形態素・異形態

形態素とは

意味を持つ最小の言語単位。

異形態(allomorph)

同一形態素が異なる音形で現れたもの
  • 条件:同一の形態素であること
  • 音形が異なっていても同一形態素を表す

異形態の例:

  • 雨(あめ)→ 雨足(あまあし)の「あめ」と「あま」は同一形態素の異形態
  • 「雨合羽(あまがっぱ)」の「あま」・「小雨(こさめ)」の「さめ」は同一形態素の異形態

異形態でない組み合わせ(同一形態素を含まない):

  • 「愛す」と「愛しい」→ 同一形態素を含まない(愛す:動詞、愛しい:形容詞で別語源)
  • 「押す」と「惜しい」→ 同一形態素でない

異形態は「同一音素の場合に限られる」は誤り。音形が異なっていてもよい。

同一形態素を含む組み合わせ

  • 落ちる ─ 落とす:同一形態素「落」の自他対応
  • 教える ─ 教わる:同一形態素「教」
  • 漬ける ─ 浸かる:同一形態素(漬/浸)
  • 座る ─ 据える:同一形態素(据)

ら抜き言葉

一段動詞・カ変動詞の可能形から「ら」が脱落した形式。

ら抜き言葉:食べれる・見れる(本来:食べられる・見られる)

ら抜きでない: 切れる・踊れる・走れる(五段動詞の可能形は元々「ら」がない)

可能形として用いられないのはどれか

  • 乗れる・取れる・立てる・会える → 可能形として使える
  • 「見える」は可能形ではなく自発・知覚の動詞(「見られる」が可能形)

3-2 語の構造・語形成

自由形態素と拘束形態素

  • 自由形態素:単独で語として使える形態素(例:木、山)
  • 拘束形態素:単独では使えない形態素(例:接頭辞「お」、接尾辞「さ」)

「訓よりも音のほうが自由形態素を表わすことが多い」は誤り。訓読みのほうが自由形態素を表すことが多い(「山(やま)」など)。

語形成のプロセス

プロセス内容
複合2つ以上の語根を組み合わせる本棚・飛び上がる
派生語根に接辞を付加する重み・高さ・抽象化
屈折文法的機能を示す変化書く→書いた
刈り込み語の短縮高等学校→高校・学割・空母
重複(反復)語を繰り返すやまやま・ひとびと
補充法異なる語根で屈折・派生を作るgo→went、いる→おいでになる

派生語の識別

派生語:語根に接辞が付加されて新たな語ができたもの

  • 「抽象化」→ 抽象+化(接尾辞「化」による派生)✅
  • 「泣く泣く」→ 重複
  • 「ワープロ」→ 刈り込み
  • 「高校野球」→ 複合語
  • 「やぶく(破く)」→ 語根のみ

刈り込みを経てできた語の例

  • 学割(学生割引)・空母(航空母艦)
  • 「高校」(高等学校)・「地下鉄」(地下鉄道)

形容詞からの名詞派生「み」

形容詞語幹+「み」→名詞化:

  • 重み(おもみ)・厚み(あつみ)→ 形容詞「重い・厚い」からの派生
  • 励み・好み・歩み → 動詞からの派生(「励む・好む・歩む」)

複合動詞

語彙的複合動詞:動詞+動詞で新たな意味を持つ(飛び上がる

補助動詞的複合動詞:動詞+補助動詞(食べ残す・歌い終える・歩き続ける・話し始める)

二つの形態素からなる語

  • 遠浅(とお+あさ)=2形態素 ✅
  • 高さ(たか+さ)=語根+接尾辞 ✅
  • 山(やま)=1形態素
  • お好み焼き(お+好み+焼き)=3形態素以上
  • 物知り顔(もの+しり+かお)=3形態素以上

子音語幹動詞(五段活用)と母音語幹動詞(一段活用)

子音語幹動詞(五段):帰る・書く・飛ぶ・羽ばたく・走る

母音語幹動詞(一段):寝る・出る・見る・起きる・落ちる

「帰る」は語幹が子音で終わる五段活用(帰ら・帰り・帰る)。「減る」も五段活用(減ら・減り・減る)→ 母音語幹動詞でない。

補充法(suppletion)

屈折・派生に際して語根の異なる形式を用いる現象。

尊敬語での補充法:

  • ご覧になる(見る)・召し上がる(食べる・飲む)・おいでになる(いる・来る・行く)
  • 「来られる」「お食べになる」→ 補充法を用いていない(元の語根に接辞を付けるだけ)

重複(反復)形式

完全重複:やまやま・ひとびと・つつく(つ+つ→つつく)

完全重複でも部分重複でもないものしんじん(新人)→ 重複ではなく複合語

「あやや」→ 固有名詞

3-3 表記・漢字

漢字の音読みと訓読み

  • 音読み:中国語音を基にした読み方(漢語)
  • 訓読み:日本語の意味に対応した読み方(和語)

漢字の音と訓は同一形態素を表さない(「山(サン/やま)」の音と訓は別形態素)。

当て字(表音的使用)

漢字の意味を無視して音だけを借りた表記。

当て字の例:部屋(へや)→ 「部」も「屋」も本来の意味と無関係

当て字でない(訓読みや熟字訓):田舎・海女・雪崩・土産

熟字訓と単字対応

単字としては形態素を表さない漢字表記:
  • 珈琲(コーヒー)小豆(あずき)→ 各文字単独では読み方が対応しない
  • 空席・本箱・夕刊 → 各文字が形態素に対応

表語性と同音語の書き分け

同音語を区別するための漢字使用:

  • 「立つ」と「断つ」→ 同音異義の書き分け ✅
  • 「表す」と「表わす」→ 同一語の表記揺れ(書き分けでない)
  • write/right・night/knight → 表語性に役立つ書き分け ✅
  • バレエ/バレー → 表語性に役立つ書き分け ✅

各漢字に決まった読み方を利用していない(熟字全体で読む)

  • 五月雨(さみだれ)・五月蠅い(うるさい)→ 各漢字に独立した読みが対応しない
  • 雨傘・天女・女王蜂 → 各文字が読みに対応

複数漢字が合わさって初めて読み方が決まるが各漢字とかなが対応しているもの

  • 三十日(みそか)→ 「三」→み、「十」→そ、「日」→か ✅ 各漢字に対応
  • 二十歳(はたち)・梅雨(つゆ)・一日(ついたち)・紫陽花(あじさい)→ 各漢字とかなが対応しない

漢字の音読みを含む語

  • 生死(せいし)→「生」(セイ)・「死」(シ)は音読み
  • お新香(おしんこ)→「新」(シン)音読み含む ✅
  • 鹿の子(かのこ)・残り香(のこりが)・犬死(いぬじに)→ 訓読み