第4章 統語論・文法
言語学 第4章
4-1 述語と格・項構造
項(ひき)の数による動詞の分類
| 分類 | 項数 | 内容 | 例 |
| 1項動詞 | 1 | ガ格のみ要求 | 泣く・笑う・眠る |
| 2項動詞(二項述語) | 2 | ガ格+ヲ格など | 食べる・読む・渡る |
| 3項動詞(複他動詞) | 3 | ガ格+ニ格+ヲ格 | あげる・教える・渡す・注ぐ |
ヲ格を要求する2項述語:渡る(川をわたる)
「もらう」はニ格(〜にもらう)・「詳しい」は形容詞・「散歩する」はヲ格なし・「泣く」は1項述語。ヲ格を要求するのは「渡る」(川を渡る)。
3項動詞(複他動詞)の例
- あげる:AがBに(ニ格)Cを(ヲ格)あげた ✅
- 教える:AがBに(ニ格)Cを(ヲ格)教えた ✅
- 渡す・注ぐ・約束する ✅
- 超える・はずす → 3項述語として用いられない(2項述語)
3項述語として用いられない動詞
- 超える(〜を超える:2項)
- 待つ(〜を待つ:2項)
- どなる(〜にどなる:2項)
2項の形容詞述語
形容詞が2項を取る例:
- 好きだ(AはBが好きだ)・不便だ(AにはBが不便だ)・怖い(AはBが怖い)・強い(AはBに強い)
- 「遅い」は1項述語(対象を取らない)
格と助詞
格関係を表す助詞(格助詞):が・を・に・で・へ・から・まで・と
格関係を表さない助詞:も(係助詞)
- 「バスで行く」→ 格助詞(手段)
- 「イギリスも島国だ」→ 係助詞「も」(格関係を表さない)
- 「公園を散歩する」→ 格助詞
- 「テニスが得意だ」→ 格助詞
- 「その意見に賛成だ」→ 格助詞
4-2 ヴォイス(態)
受身文の種類
| 種類 | 特徴 | 例 |
| 直接受身 | 動作の直接の対象が主語になる | 花子は先生にほめられた |
| 間接受身(迷惑受身) | 動作の直接の対象でない者が主語になる | 太郎は友達に足を踏まれた |
間接受身の見分け方:主語と動詞の関係が直接的でなく、第三者への影響(迷惑)を表す。「足を踏まれた」→ 太郎が踏まれたのではなく足が踏まれた。
使役受身
「花子は太郎にご飯を無理やり食べさせられた」
→「させ」が使役、「られ」が受身の機能を担う
「られ」の文法機能
「られ」には4つの機能がある:
1. 受身(〜に〜される)
2. 尊敬(先生が来られた)
3. 可能(読まれる→読める)
4. 自発(思われる・感じられる)
ヲ格がガ格と交替する構文
ヲ格→ガ格への交替が起こる構文:
- 可能形(書ける)・タイ形(書きたい)・テアル(書いてある)
交替が起こらないもの:テクレル(書いてくれる)・意向形(書こう)
4-3 アスペクト(相)
「テイル」のアスペクト用法
| 用法 | 意味 | 例 |
| 動作の継続 | 動作が進行中 | 男の人が笑っている |
| 結果の状態 | 動作の結果が残存 | 部屋の照明が消えている・服を着ている |
| 経験・記録 | 過去の経験 | 彼は既に卒業している |
「男の人が笑っています」→ 動作の継続(笑う動作が進行中)。「服を着ている」→ 結果の状態(着る動作の結果)。見分け方:動詞が動作動詞かどうか。
「そのおもちゃは壊れている」と同じアスペクト(結果の状態):
→ 「彼は既に卒業している」(状態の存続)
- 彼は運動場を走っている → 動作継続
- 彼は部屋を掃除している → 動作継続
- 彼は毎日英語を勉強している → 習慣
- 彼は窓を閉めている → 結果の状態(似ているが「壊れている」と同じ型)
動作の継続のみ:「男の人が笑っています」
テイルの特殊用法「~ていた」
「気がついたら降りる駅を過ぎてしまっていた」
→ 発見の用法(「している」の「ている」と異なる)
4-4 複合述語・モダリティ・テンス
述語の形態素の連続順序
正しい順序:アスペクト → テンス → モダリティ
(ヴォイス → アスペクト → テンス → モダリティ)
「アスペクト→ヴォイス→テンス」「ヴォイス→テンス→アスペクト」「テンス→ヴォイス→モダリティ」はすべて誤り。
モダリティと副詞の共起
認識モダリティ形式と共起が必要な副詞:恐らく(おそらく)
- 恐らく〜だろう(推量モダリティ)
- 「困ったことに」→ 評価的副詞
- 「必ずしも」→ 否定との呼応
- 「僭越ながら」→ 対人的表現
- 「どうせ」→ 諦め・投げやりの副詞
4-5 複文・連体修飾節
複文の従属節の種類
内の関係の連体節:主名詞が従属節内の格要素になる
- 「昨日から降り続いている雨」→ 雨が降り続いている(雨=主語)✅
- 「毎年正月に厄介になっている旅館」→ 旅館に厄介になる(旅館=に格)✅
- 「台風で天守閣が壊れてしまった城」→ 城の天守閣が壊れた(城=主語ではなく所属)✅
- 「日本で一番発着便数の多い羽田空港」→ 空港が発着便数が多い ✅
内の関係でない(外の関係):主名詞が従属節の内容と同格・補語関係
- 「田中氏を特使として派遣する案」→ 「案」は従属節の格要素でない(外の関係)
- 「海で泳いでいる写真」→ 写真が泳いでいるのではない(外の関係)
非制限的連体節
主名詞の「同定」ではなく「付加情報」を表す連体節。
- 「中国から参りました李と申します」→ 「中国から来た」は追加情報(非制限的)
- 「日本は地震が頻発する場所に位置している」→ 制限的(どこかを特定)
条件節を含む複文
従属節が条件節でもある複文:
- 「雨が降ったら、コンサートに行かない」・「春になれば、花が咲き乱れる」→ 条件節 ✅
- 「宿題が終わるまで遊びに行けない」→ 時間節
- 「友達が来るので、お菓子を用意する」→ 原因・理由節
- 「走っている間、何も考えない」→ 時間節
従属節の識別(「[」が従属節の始まりを示さない例)
示さない例(主節内の要素):
- 「先週[旅行先で前から気になっていたバッグを買った」→ 「旅行先で〜」は主節の修飾語句(従属節ではない)
- 「彼が[もし出席できないとしたら残念だ」→ 「[もし」以下は条件節で従属節(示している)
4-6 否定・フォーカス・共起制限
否定フォーカス
「〜も…しない」「〜さえ…しない」などで否定が特定の要素に焦点を当てる。
- 「もらったプレゼントを開けもしなかった」→ 「開けも」が否定のフォーカス ✅(〜さえ〜ない)
肯定形とも否定形とも共起する副詞・助詞
- 「だけ」:〜だけ食べた(肯定)・〜だけ食べなかった(否定)
- 「みんな」:肯定・否定両方 ✅
- 「誰でも」:主に肯定
- 「何も」・「しか」:否定と呼応
共起制限
語の意味的制約から通常共起できない組み合わせ:
- 黒い白馬・空飛ぶマグロ・雪の降る猛暑日・真昼の夕焼け → 意味矛盾
- 「赤い白墨」→ 白墨は白以外の色もあるので共起制限違反ではない