第5章|AAC(拡大・代替コミュニケーション)

対応過去問 3問/難易度 ★★★☆☆
この章のねらい:AAC(Augmentative and Alternative Communication)は総論の締めくくり。出題数は多くありませんが、「拡大」と「代替」の区別、そして患者像に合わせた手段選択が問われます。「話す訓練」ではなく別ルートでコミュニケーションを成立させるという発想が核心です。

5-1 AACの基本概念(拡大・代替・構成要素)

AACとは、話しことばによるコミュニケーションが困難な人に対し、残された能力を活かして意思伝達を成立させる手段の総称です。

区分意味
拡大(augmentative)残っている機能を補い増強する補聴器・眼鏡・音声増幅・身振りの併用
代替(alternative)失われた機能を別の手段で置き換える文字盤・VOCA・電気式人工喉頭・点字・スクリーンリーダー

コミュニケーション成立の構成要素

  • コミュニケーションが成り立つ要素は送り手・受け手・メッセージ・コード(記号)・伝達経路(チャネル)。AACはこのいずれかを別手段で補う。
  • 聴覚的フィードバックは音声産生に固有の要素であり、コミュニケーション成立に必ずしも必須ではない(文字盤や身振りでは不要)。
AACの位置づけ:AACは「発話明瞭度そのものを高める構音訓練」ではなく、意思伝達の代替・拡大の手段。導入は発話回復を待つ必要はなく、早期から検討してよい(コミュニケーション機会の確保が目的)。

「点字やスクリーンリーダーはAACに含まれない」→誤り(代替手段としてAACに含む)。
「AACとは発話の明瞭度を改善する訓練法である」→誤り代替・拡大の手段)。
「聴覚的フィードバックはコミュニケーション成立の必須要素」→誤り(手段によっては不要)。

5-2 AACの手段と適応

手段の分類

分類
エイド(道具)不要身振り・手話・指文字・表情・発声のサイン
ローテク(非電子)文字盤・透明文字盤・コミュニケーションブック・絵カード・写真
ハイテク(電子)VOCA(音声出力装置)・意思伝達装置・視線入力・スイッチ操作機器

患者像に合わせた選択

患者の状態適する手段
運動麻痺が強いが言語理解・視覚・眼球運動は保たれる(ALS進行例など)透明文字盤・視線入力・スイッチ式意思伝達装置
発声不能だが上肢が使える(喉頭摘出後など)代用音声(食道発声・電気式人工喉頭)・筆談・文字盤
言語理解自体が障害される(重度失語・認知症)実物・写真・平易な絵などわかりやすい手がかり(複雑な文字盤は不向き)
透明文字盤が使える条件:言語理解・視覚・眼球運動が保たれ、かつ発話や書字が運動的に困難な人。介助者と視線を合わせて文字を指し示すため、見る力とことばを理解する力が前提になる。

「重度失語で言語理解も困難な人に、まず複雑な文字盤を導入する」→不適切(理解を要する手段は不向き。平易な絵・実物から)。
「透明文字盤は眼球運動が障害された人に最適」→誤り(眼球運動が保たれていることが前提)。

各論へ:代用音声(食道発声・電気式人工喉頭・シャント発声)は音声障害ノート、運動障害性構音障害でのAAC活用は運動障害性構音障害ノート、失語症のコミュニケーション支援は失語症ノートで扱っています。
総論のまとめ:言語聴覚障害総論は「STの仕事の輪郭」を描く科目。①制度・倫理・連携(第1章)→②コミュニケーション観とICF・原則(第2章)→③障害と訓練法の対応マップ(第3章=核)→④評価・検査の総論(第4章)→⑤AAC(第5章)という順で、各論ノートへの入口がそろいました。第3章の対応マップを軸に各論と往復すれば、総論64問はほぼ取り切れます。