第1章|感覚・知覚① 精神物理学・感覚・色覚

対応過去問 8問/難易度 ★★★★☆
この章のねらい:認知心理学の出題は知覚が最頻出で、その入口が精神物理学(閾・ウェーバー/フェヒナーの法則)と色覚です。STにとって精神物理学は他人事ではありません。純音聴力検査で「聞こえの最小レベル=閾値」を測る、語音明瞭度検査で刺激レベルと正答率の関係を見る——これらはまさに精神物理学的測定です(心理測定法の精神物理学的測定法と直結)。感覚・知覚の成り立ちを知ることは、高次脳機能障害の失認(見えているのに分からない)の理解にもつながります。

1-1 感覚と精神物理学 ― 閾と3つの法則

精神物理学(psychophysics)は、物理的な刺激の強さ心理的な感覚の強さの関係を数量的に扱う分野です。フェヒナー(Fechner)が創始しました。まず「閾(いき)」の用語を正確に区別します。

用語意味
刺激閾(絶対閾)ある感覚を生じさせる最小(最弱)の刺激強度
刺激頂感覚を生じさせる最大の刺激強度(これ以上強くしても感覚は増えない・痛みに変わる)
弁別閾(丁度可知差異・JND)2つの刺激の差を検出できる最小の差
標準刺激/適刺激標準刺激=比較の基準に用いる刺激。適刺激=その感覚器に固有の刺激(目には光など)
頻出:「特定の感覚が生じる最弱の刺激強度」=刺激閾。刺激頂(最大)・適刺激(感覚器に固有)・弁別閾(差の最小)・標準刺激(基準)と取り違えない。

3つの精神物理学の法則(提唱者とセットで)

法則提唱者内容
ウェーバーの法則Weber, E.弁別閾は基準刺激の強さに比例する(ΔI/I=一定=ウェーバー比)
フェヒナーの法則Fechner, G.感覚量は刺激強度の対数に比例する(S=k・logI)
スティーヴンスのべき法則Stevens, S.感覚量は刺激強度のべき乗に比例する(S=k・Iⁿ)
人名の組合せに注意:Weber(ウェーバー)=弁別閾・精神物理学。作動記憶=Baddeley、欲求階層=Maslow、学習性無力感=Seligman、認知的不協和=Festinger はいずれも正しい組合せ。一方、「主観的輪郭―Weber」は誤り(主観的輪郭はゲシュタルト/知覚の現象で、Weber は精神物理学)。

信号検出理論(SDT)

信号検出理論は、刺激(信号)を「あり/なし」で判断する場面を、感度(d′)判断基準(β)の2つに分けて扱います。同じ聞こえでも「聞こえたと言いやすい人/慎重な人」がいる——この反応の偏り(バイアス)を感度と切り分けられるのが利点で、聴覚・視覚の閾値測定の考え方の土台です。

1-2 明暗視 ― 桿体と錐体

網膜には2種類の視細胞があります。役割の違いが頻出です。

視細胞働く条件特徴
桿体(かんたい)暗所視(暗い所)感度が高い・色は弁別しない・網膜周辺部に多い(周辺視で優位)
錐体(すいたい)明所視(明るい所)色覚を担う・中心窩に密集・解像度が高い
暗所視は桿体:暗い所でものの形は見えても色が分かりにくいのは、暗所で働く桿体が色を弁別しないため。明るさへの適応が明順応、暗さへの適応が暗順応

ひっかけ:周辺視―錐体」は誤り。網膜周辺部は桿体が優位なので、周辺視は桿体が担う。なお「群化―近接の要因」「知覚の恒常性」「陰性残像―補色」「仮現運動―最適時相」はいずれも正しい組合せ(周辺視―錐体だけが誤り)。

1-3 色覚の理論 ― 三色説と反対色説

色がどう見えるかを説明する2つの古典的理論です。どちらが何を説明しやすいかが問われます。

理論提唱者要点/説明しやすい現象
三色説ヤング・ヘルムホルツ(Young-Helmholtz)赤・緑・青に感じる3種類の錐体の組合せで色を感じる。加法混色・色覚異常・錐体の種類を説明しやすい
反対色説(対比色説)ヘリング(Hering, E.)赤-緑・黄-青・白-黒の対(反対色)で処理される。補色残像(陰性残像)・色の対比・色の恒常性を説明しやすい
整理の軸:三色説=入り口(錐体レベル)=加法混色・色覚異常反対色説=処理レベル=補色残像・色の対比補色残像(赤を見続けた後に緑の残像が出る)は反対色説で説明しやすい。現在は両者を統合した段階説で理解される。

三色説で説明しにくいもの:補色残像色の対比(これらは反対色説の領分)。逆に加法混色・色覚異常・錐体の種類は三色説で説明できる。「反対色説で説明しやすいのは=補色残像」も頻出。

1-4 ゲシュタルトの体制化 ― 群化の要因

ばらばらの要素が「まとまり(ゲシュタルト)」として知覚されるのは、脳がプレグナンツの法則(簡潔化の傾向)に従って要素を群化(グルーピング)するためです。群化を導く要因を挙げます。

ゲシュタルトの群化の要因:近接(近いもの)・類同(似たもの)・閉合(閉じる方向)・よい連続(滑らかに続く)・共通運命(同じ動き)・よい形態(対称・単純)

ひっかけ:親近」はゲシュタルトの群化の要因ではない(近接・類同・閉合・よい連続はいずれも要因)。名前が似た「近接」との混同をねらう問題に注意。

1-5 感覚間相互作用(クロスモーダル知覚)

私たちの知覚は、視覚・聴覚・触覚などの複数の感覚が相互に影響し合って成立します。代表的な現象を押さえます。

現象内容(どの感覚が影響するか)
腹話術効果音源の定位が視覚に引っ張られる(人形の口が動くと声がそこから出て聞こえる)
マガーク効果視覚(口の動き)が音韻の聞こえを変える(聴覚×視覚)
シャルパンティエ効果同じ重さでも大きい方が軽く感じる(視覚×重量感覚)

感覚間相互作用で「ない」もの:ストループ効果(文字の色と語の意味の干渉=同一感覚内・注意の干渉)とカクテルパーティ効果(聴覚内での選択的注意)は、複数の感覚モダリティの相互作用ではない。マガーク効果と混同しやすいので区別する。

つながる知識:マガーク効果(口の動きが音韻の聞こえを変える)は、聴覚と視覚を統合して音声を聞くという点で読話・聴覚活用の理解につながります。閾・弁別閾・信号検出は聴力検査の測定原理そのもの。次章では奥行き・恒常性・運動視・錯視という「知覚のもう半分」を扱います。