第2章|感覚・知覚② 奥行き・恒常性・運動視・錯視

対応過去問 10問/難易度 ★★★★☆
この章のねらい:知覚は「網膜に映った像」そのものではなく、脳が手がかりから世界を作り上げた結果です。奥行き・恒常性・運動視・錯視は、その「作り上げ方」を示します。ここは高次脳機能障害視覚失認・半側空間無視(見えているのに認識できない・一方を見落とす)を理解する下地になります。第1章と合わせて、知覚は認知心理学の最頻出テーマなので厚く押さえましょう。

2-1 奥行き知覚の手がかり

3次元の奥行きは、両眼手がかり単眼手がかりから復元されます。どちらに属するかが問われます。

種類手がかり
両眼手がかり両眼視差(左右の網膜像のズレ)・輻輳(近くを見ると寄り目になる)
単眼手がかり重なり(遮蔽)・陰影・肌理(きめ)の勾配・相対的大きさ・線遠近法・大気遠近法・運動視差

奥行き知覚に「関与しない」もの:閉合(=ゲシュタルトの群化の要因で、奥行きではない)。陰影・両眼視差・相対的位置・重なりはいずれも奥行きの手がかり。また色の対比も奥行きの手がかりではない(両眼の輻輳・重なり・陰影・肌理の勾配が手がかり)。

視覚的断崖(visual cliff)

視覚的断崖は、ギブソンとウォークが乳児や動物の奥行き知覚を調べるために作った装置。ガラスの下が急に落ち込んで見える場所で、乳児が「崖」を避けるかを観察します。

研究法の対応:奥行き知覚の研究=視覚的断崖。鏡映描写=運動学習、ハノイの塔=問題解決、スキナー箱=オペラント条件づけ、無意味つづり=記憶(エビングハウス)と取り違えない。

2-2 知覚の恒常性

知覚の恒常性とは、網膜像が変化しても対象の性質を一定に保って知覚する働きです。3種類を押さえます。

恒常性内容
大きさの恒常性距離で網膜像が変わっても、実際の大きさを一定に知覚する
形の恒常性見る角度で網膜像が変わっても、実際の形を一定に知覚する
明るさ・色の恒常性照明が変わっても、物の明るさ・色を一定に知覚する
典型例:「白い物体は、日中の晴天下でも夕焼け空の下でも白く見える」=色(明るさ)の恒常性。これは照明光が変わっても物の色を保つ働き。「小さいもの/大きいものに囲まれると大きさが違って見える」(エビングハウス錯視)や「運動残効」は恒常性ではなく錯視・順応の現象。

2-3 運動の知覚

「動き」は実際に動いていなくても知覚されます。似た用語が多いので定義を正確に。

現象内容
仮現運動静止した刺激を適切な時間間隔(最適時相)で継時提示すると動いて見える(映画・電光掲示板)
誘導運動周囲が動くことで、静止した対象が動いて見える(雲が流れると月が動いて見える)
運動残効一定方向の動きを見続けた後、静止対象が逆方向に動いて見える(滝の錯視)=順応の結果
ベクション(視誘導性自己運動知覚)周囲の動きにより自分が動いているように感じる(電車の錯覚)
運動視差観察者が動くと、近いものは速く・遠いものは遅く動いて見える=奥行きの手がかり

正誤の要点:運動視差では近くのものほど速く(大きく)動いて見える(「大きく動くものは遠くに見える」は誤り)。仮現運動は動いて見える現象(「静止して見える」は誤り)。「運動情報は対象構造(形)の知覚の手がかりになる」は正しい

感覚的順応(adaptation)の現象:運動残効は、同じ刺激に長くさらされて感度が変化する順応の結果。図地反転・混色・ベクション・両眼立体視は順応現象ではない。

2-4 知覚の順応と可塑性 ― 変換視

変換視は、プリズム眼鏡や逆さ眼鏡で視覚入力を歪めても、しばらくすると新しい見え方に適応する現象です。目と手の連携が組み替えられるため、視覚―運動協応の可塑性を示す代表例です。

視覚―運動協応に関連するのは変換視:プライミング効果(記憶)・心的回転(イメージ操作)・能動的触知(触覚)・共同運命による群化(ゲシュタルト)は、視覚―運動協応の現象ではない。

2-5 錯視と主観的輪郭

錯視は、物理的事実と異なって見える現象です。「何の錯覚か」の対応を押さえます。

錯視何の錯覚か
ミュラー・リヤー錯視線分の長さ(矢羽の向きで長さが違って見える)
デルブッフ錯視大きさ(囲む円で内側の円の大きさが違って見える)
月の錯視大きさ(地平線近くの月が大きく見える)
シャルパンティエ効果重さ(同じ重さでも大きい方が軽く感じる)

誤った組合せの定番:「月の錯視―の錯覚」は誤り(月の錯視は大きさの錯覚)。「ミュラー・リヤーの錯視―線分の傾きの錯覚」も誤り(長さの錯覚)。マガーク効果―音韻の錯覚、デルブッフ―大きさ、シャルパンティエ―重さは正しい。

主観的輪郭

主観的輪郭(カニッツァの三角形)は、物理的な線がないのに輪郭が見え、面が浮き上がって見える現象です。脳が「閉じた図形がある」と補完するために生じます。

対応:「切り欠きのある円などから三角形が見える」=主観的輪郭。仮現運動・認知地図・視覚的断崖・形の恒常性ではない。

2-6 乳児の知覚の発達と測定法

ことばを話せない乳児の知覚・認知能力は、見る行動を手がかりに測定します。

方法内容
選好注視法2つの刺激を並べ、よく見る方から弁別・好みを調べる(ファンツ)
馴化―脱馴化法同じ刺激に慣れる(注視が減る=馴化)→新刺激で注視が戻れば(脱馴化)弁別できたと判断
期待背反法「あり得ない出来事」で注視が延びるかを見る
予測注視法次に刺激が出る場所を先に見る(予測)かを調べる

乳児の測定に「不適切」なもの:場面想定法(言語的なやりとり・想像を要するため乳児には使えない)。選好注視・馴化脱馴化・期待背反・予測注視はいずれも乳児に用いる。

つながる知識:選好注視法・馴化脱馴化法は言語発達障害学生涯発達心理学の「乳児の知覚研究法」と共通です。次章では記憶——貯蔵モデルとワーキングメモリを扱います。記憶は高次脳機能障害リハの中核テーマです。