第5章|社会的学習・動機づけ・その他

対応過去問 7問/難易度 ★★★☆☆
この章のねらい:人は自分で試行錯誤しなくても、他者を見て学ぶ(観察学習)ことができます。これはSTのモデリングによる指導(お手本を示して真似てもらう)そのものです。また、訓練が続くかどうかを左右するのが動機づけで、吃音構音障害の長期訓練では動機づけの維持が成否を分けます。学習性無力感は、失敗経験の積み重ねで意欲を失う機制で、障害受容や支援の理解に不可欠。試験では「観察学習↔バンデューラ」「内発/外発の区別」が頻出です。

5-1 社会的学習理論 ― バンデューラの観察学習

社会的学習理論(バンデューラ)は、他者(モデル)の行動やその結果を観察するだけで学習が成立するという考え方です。自分が直接強化されなくても学べる点が、条件づけと大きく異なります。

用語内容
観察学習(モデリング)モデルの行動を見ることで新しい行動を習得する
代理強化モデルが強化されるのを見て、観察者の行動傾向が変わる
自己効力感「自分はうまくやれる」という遂行可能性の予期(動機づけの核)
般化模倣特定の模倣が強化されると、模倣そのものが広く生じるようになる
観察学習の4過程:①注意(モデルに注目)→②保持(記憶にとどめる)→③運動再生(実際にやってみる)→④動機づけ(強化への期待で遂行する)。バンデューラの社会的学習理論で重要な概念は代理強化(随伴性・即時性・強化量・分化強化はオペラント条件づけの用語)。

社会的学習理論に関係ないもの:モデリング・代理強化・般化模倣・観察学習は社会的学習理論の概念。一方、学習性無力(感)セリグマンの概念で、社会的学習理論とは別(動機づけ・無力感の理論)。

5-2 動機づけの理論 ― 内発・外発と学習性無力感

動機づけは、行動を引き起こし・方向づけ・維持する過程です。「どこから来る力か」でいくつかに分けます。

分類内容・例
生理的(一次的)動機づけ生得的。飢え(食の動因)・渇きなどホメオスタシスに基づく
社会的(二次的)動機づけ後天的。性的動機づけ・親和動機づけ・達成動機など
内発的動機づけ活動そのものが目的。好奇動機づけ・知的好奇心・有能感
外発的動機づけ賞や罰・報酬など外的誘因による
動機づけの整理:「飢餓=ホメオスタシス性の動機づけ」「性的動機づけ=社会的動機づけ」「好奇動機づけ=内発的動機づけ」「賞や罰による動機づけ=外発的動機づけ」はいずれも正しい。「渇きは生得的動機づけ」も正しいアンダーマイニング効果=内発的に楽しんでいた活動に外的報酬を与えると、かえって内発的動機づけが低下する現象。

誤りやすい記述:「内発的動機づけは賞罰を必要とする」は誤り(賞罰は外発的)。「覚醒水準が高いほど情動は安定する」も誤り(覚醒が高すぎると遂行は低下=ヤーキーズ・ドッドソンの法則)。「接近-接近型コンフリクトでは相反感情(アンビバレンス)が生じる」も誤り——相反感情が生じるのは接近-回避型。親和動機づけは利他行動を解発する、食の動因は飢えである、は正しい。

学習性無力感(セリグマン):不快な状況から逃れられない経験を繰り返すと、「何をしても無駄」と学習し、逃避可能な場面でも行動しなくなる。抑うつのモデルにもなり、STの動機づけ支援・成功体験の設計で重要。

5-3 社会的行動と集団 ― 社会的手抜き・ステレオタイプ

他者や集団の存在は、個人の行動を変えます。名前の似た現象の区別が問われます。

現象内容
社会的手抜き(リンゲルマン効果)集団で作業すると、一人あたりの遂行量が減る
社会的促進他者の存在で単純な課題の成績が向上する(複雑な課題では低下=社会的抑制)
ステレオタイプある集団への定型化された認知の枠組み(偏った判断を生む)
区別のカギ:「一人で行う場合に比べ、他者と協働するときに課題遂行量が減る」=社会的手抜き(誤帰属・認知的不協和・学習性無力感・スリーパー効果ではない)。ステレオタイプに基づく行動=「相手の職業に基づいてその人の性格を判断する」など、集団への固定観念を個人にあてはめる行動。
つながる知識:ステレオタイプや対人認知の理論は、認知心理学の社会的認知とも重なります。患者・家族への先入観を自覚することは、ラポール形成と支援の質に直結します。

5-4 学習指導と教育心理 ― 適性処遇交互作用

学習は「教え方(処遇)」と「学ぶ人の特性(適性)」の組合せで効果が変わります。教育心理の重要概念を整理します。

用語内容
適性処遇交互作用(ATI)学習者の特性の違いによって、最適な指導法(処遇)が異なること(クロンバック)
期待効果(ピグマリオン効果)指導者の期待が学習者の成績を実際に高める
先行オーガナイザー学習の前に与える、全体像を示す枠組み(オーズベル)
ツァイガルニク効果完了した課題より未完了の課題の方が記憶に残りやすい
頻出:「学習者の特性の違いによって学習指導の効果が異なること」=適性処遇交互作用。期待効果(ピグマリオン効果)・先行オーガナイザー・プライミング効果・ツァイガルニク効果と取り違えない。ATI の考え方は、患者一人ひとりの特性に合わせて訓練法を選ぶ個別化の発想そのもの。
まとめ:学習心理学は、STにとって訓練の設計原理そのものです。強化・シェイピング(オペラント)で反応を形づくり、般化・転移で日常へ広げ、観察学習(モデリング)で手本を示し、動機づけで継続を支える——この一連の流れが臨床の骨格です。関連ノート:吃音言語発達障害臨床心理学認知心理学高次脳機能障害