第5章|社会的認知・感情・言語処理

対応過去問 12問/難易度 ★★★☆☆
この章のねらい:社会的認知(他者をどう捉えるか)と感情の理論は、患者・家族との関係づくり、障害受容や動機づけの支援を理解する枠組みです。情動の諸説(ジェームズ=ランゲ説ほか)は、臨床心理学とも重なります。国試では「現象↔提唱者」「バイアスの定義」の組合せが繰り返し問われます。言語理解の認知過程は、失語症の評価の背景にもなります。

5-1 対人認知と印象形成

他者の印象は、断片的な情報から素早く形づくられます(印象形成=アッシュ)。初頭効果(先に得た情報が印象を強く左右する)が代表的です。

ステレオタイプ

ステレオタイプは、ある集団に対する定型化された認知の枠組みです。特徴を正確に押さえます。

ステレオタイプの性質正誤
主に集団を対象として形成される正しい
定型化された認知の枠組みである正しい
自動的・無意識的に用いられる正しい
認知的な経済性を高める(省エネで判断できる)正しい
客観的な予測の成立に寄与する誤り(むしろ偏った判断を生む)

ひっかけ:ステレオタイプに関与する要因に含まれ「ない」のはストループ効果(注意の干渉現象)。プライミング・スキーマティック処理・初頭効果・自己成就予言はステレオタイプに関与する。

5-2 対人魅力

効果内容
単純接触効果特定の対象に繰り返し接触すると、その対象への好意が高まる(ザイアンス)
誤帰属(吊り橋効果)生理的喚起の原因を、特定の他者への好意と誤って帰属し、魅力が増す
身体的魅力(ハロー効果)外見の良い人は性格も良いと判断されやすい
類似性・自己開示・近接性似た人・自己開示する人・近くの人に好意をもちやすい
区別のカギ:「特定の他者を何度も見ることで好意が高まる」=単純接触効果。「生理的喚起が対人魅力に及ぼす効果」=誤帰属(単純接触・ステレオタイプ・ゲシュタルト要因・社会的促進ではない)。

5-3 態度と認知的不協和・バランス理論

認知的不協和理論(フェスティンガー)

自分の中の2つの認知が矛盾する(不協和)と不快が生じ、それを減らそうとして態度や認知を変えるという理論です。

典型例:自分の態度に反した行動をとると、その行動に合致する方向に態度が変化する」=認知的不協和で説明できる。なお、選択後には選んだ選択肢の魅力が増し、選ばなかった方の魅力が下がる(=逆向きの記述は誤り)。「人は知識の間に不協和があるとそれを低減させようとする」もこの理論。

バランス理論(ハイダー)

P(本人)―O(他者)―X(対象)の三者関係で、3つの関係の符号の積が正(+)ならバランスがとれ、負(−)なら不均衡で緊張が生じます。

計算の仕方:各関係を「好き=+/嫌い=−」とし、3辺の積を見る。例:Pは Oが好き(+)・Xが好き(+)だが、Oは Xが嫌い(−)→ 積は(+)×(+)×(−)=−(不均衡)。3つとも好き、または「1つだけ好き+2つ嫌い」ならバランスがとれる。

5-4 帰属と社会的促進

原因帰属とバイアス

帰属とは、行動や出来事の原因を推論する働きです(ハイダー、ワイナー)。ここで系統的な偏りが生じます。

バイアス内容
対応バイアス(基本的帰属錯誤)他者の行動の原因をその人の内的特性に帰属しがち
行為者―観察者バイアス他者の行動は内的特性に、自分の行動は外的状況に帰属しようとする傾向
利己的帰属(自己奉仕的帰属)成功は自分の力、失敗は状況のせいにする
セルフ・ハンディキャッピング失敗に備えあらかじめ言い訳の材料を作る
整理:「他者の行動は内的特性に、自分の行動は外的状況に帰属」=行為者―観察者バイアス。利己的帰属・対応バイアス・内集団バイアス・セルフハンディキャッピングと取り違えない。

社会的促進

社会的促進は、他者の存在(共行動・観察)によって、単純な課題の遂行成績が向上する現象です(複雑な課題では低下する=社会的抑制)。

対応:「他者と共行動することで個人の課題遂行成績が向上する」=社会的促進。観察学習(モデリング)・同調・対人魅力・ステレオタイプではない。

5-5 動機づけ

用語内容
要求水準課題に取り組む際に個人が自ら設定する目標の高さ
接近―回避コンフリクト1つの対象に近づきたい/避けたいが同時に働き、相反感情(アンビバレンス)が生じる
学習性無力感不快な状況から逃れられない経験を繰り返すと無力感が獲得される(セリグマン)
親和動機づけ他者と関わろうとする動機(親の養育的行動などに関与)

5-6 情動の理論

「情動がどう生じるか」には複数の説があり、提唱者との組合せが問われます。

提唱者要点
末梢起源説(ジェームズ=ランゲ説)James・Lange身体反応が先、それを知覚して情動が生じる(泣くから悲しい)
中枢起源説Cannon・Bard身体反応と情動体験は視床から同時に生じる
二要因説Schachter・Singer生理的喚起+認知的ラベルづけ
認知評価説Lazarus状況の認知的評価が情動を規定する

ジェームズ=ランゲ説が主張するのは:主観的な情動体験の起源は、環境に対する身体的反応である」(末梢起源説)。基本感情の文化的普遍性はエクマン、認知的評価はラザラス/シャクター、単純接触・認知的不協和は別理論。なお、ジェームズ=ランゲ説は「情動」の理論であって、「欲求と動機づけの起源」の理論ではない(この言い換えは誤り)。

5-7 認知の臨床・発達への展開

認知行動療法の技法

認知心理学の応用として、認知行動療法があります。その技法かどうかが問われます。

認知行動療法の技法:セルフモニタリング・認知再構成法・行動活性化・ソクラテス式質問法。一方、コラージュ法は芸術(表現)療法であって、認知行動療法の技法ではない

児童期の認知発達

ピアジェの具体的操作期にあたる児童期には、次の特徴が現れます。

児童期の認知発達の特徴:論理的思考をし始める・3つ山問題に正答できる(脱中心化)・二次的ことばを用い始める・メタ認知を活用し始める。一方、素朴概念(生活経験に基づく素朴な理解)を用い始めるのはより早い時期(幼児期)で、児童期の新たな特徴ではない。
まとめ:認知心理学は、知覚(精神物理学)=聴力検査の測定原理、記憶・注意=高次脳機能障害のリハ、言語理解=失語症評価と、STのあらゆる評価・訓練の理論的土台になっています。関連ノート:心理測定法高次脳機能障害失語症臨床心理学生涯発達心理学