STカコモン — 言語聴覚士国家試験 過去問・解説

第16回 言語聴覚士国家試験 第162問

高次脳機能障害第16回
代償手段として適切でないのはどれか。
  1. 1.記憶障害ーーメモの使用
  2. 2.相貌失認ーー声を聞く
  3. 3.統覚型物体失認 一一 絵を描く ✓
  4. 4.地誌的失見当ーー道順の言語化
  5. 5.純粋失読ーーなぞり読み

正答:3番

解説
■ 正答:3番 — 統覚型物体失認――絵を描く 統覚型物体失認は視覚的形態知覚の障害であり、対象の「見えている情報」そのものが断片的・歪んでいるため、それを絵に描こうとしても歪んだ描画になるだけで代償にならない。一方、記憶障害や相貌失認などは「入力情報は正常だが処理段階が障害」されているため、別経路(メモ、聴覚)からの代替入力が有効である。 --- 【各選択肢の解説】 1. 記憶障害――メモの使用 ✅ 正しい。記憶符号化・貯蔵の障害に対して、外部メモリ(メモ帳・カレンダー)は標準的な代償手段。視覚的に外部に記録することで、脳内メモリの負担を軽減できる。 2. 相貌失認――声を聞く ✅ 正しい。相貌失認は顔の視覚的特徴抽出の障害(上側頭葉紡錘状回の損傷)だが、聴覚的特徴(声色・話し方)は温存される。別経路の利用により対象者同定が可能になる。 3. 統覚型物体失認――絵を描く ❌ 誤り。統覚型物体失認は視覚的形態統合の初期段階の障害で、形の要素(線分、色)は認識できるが、それらを統合して全体像を構成できない。描画は歪んだまま出力されるため、むしろ描くことで障害が顕在化するだけで代償にはならない。 4. 地誌的失見当――道順の言語化 ✅ 正しい。地誌的失見当は空間的方向感覚・環境地図の障害(頭頂葉)だが、「左に曲がって○m進む」など言語的手がかりは温存される。逐次的な言語化により、視覚的迷いを補える。 5. 純粋失読――なぞり読み ✅ 正しい。純粋失読(alexia without agraphia)は視覚皮質と言語領域の接続遮断であり、読字そのものは不可能でも、文字をなぞる触覚・運動感覚経路を使うことで言葉を認識できることがある(発話につながる場合も)。 --- 【試験対策ポイント】 認知障害の「障害部位・機序」と「温存機能」の対応図: | 障害名 | 障害の本質 | 温存される情報処理 | 適切な代償 | |---|---|---|---| | 記憶障害 | 符号化・貯蔵の失敗 | 知覚・意識 | メモ・外部メモリ | | 相貌失認 | 顔の視覚的処理 | 音声・声質 | 聴覚的情報利用 | | **統覚型物体失認** | **視覚的要素統合** | **個別線分認識** | **なし(元情報が歪み)** | | 地誌的失見当 | 環境の空間地図 | 言語記述 | 言語的手順化 | | 純粋失読 | 視覚→言語中枢の経路 | 触運動覚 | なぞり読み | 重要な鑑別知識: ・連合失認(相貌失認など)→「入力は正常、認識段階で破綻」→別経路が有効 ・統覚失認→「入力段階の形態統合が破綻」→絵を描いても歪んだまま ・純粋失読は「古典的」な代償手段として「なぞり読み」が挙げられる(運動系の利用)
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